第496話 集会室に行って礼服を調整する
晩餐が終わったので、聖女派閥解散である。
「マコト、風呂にいかないか?」
「いや、用事があるから後ではいるよ」
コリンナちゃんが身を寄せるようにしてきた。
「礼服の調整?」
「そうだよ」
歩きながら小声でこそことと喋る。
「じゃあ、マコト、コリンナ、また明日ね」
「おやすみカロル」
「また明日ねー」
カロルがエレベーターホール側に曲がって行った。
「音楽結晶は入手した?」
「あ、わすれてた」
「そうだろうと思った、昨日街で買っといたよ、五曲入ってるやつ」
コリンナちゃんが私に音楽結晶を渡してきた。
ラベルを見るとポピュラーなダンス曲が五曲入ってるね。
「うわあ、ありがとうコリンナちゃん!」
「マコトの抜けを埋めるのが私の仕事だ」
いやあ、助かるな。
さすがコリンナちゃん。
さすコリ!
音楽結晶というのは、演奏魔導具に入れて音楽を奏でるレコードみたいなものだ。
現場で忘れて気まずい思いをするところであった。
205号室に戻るコリンナちゃんと階段でわかれて、私は玄関に向かう。
護衛女騎士のお姉さんにお辞儀をして外に出る。
さすがに夜になるとちょっと冷えるね。
背中を丸めて夜の校内道路を行く。
というか、暗いのでライトを打ち上げよう。
『ライト』
光球を打ち出すと明るい。
二クレイドほど上空に光源を浮かべて歩く。
外には誰もいないね。
ぽこぽこと校舎を回り込むように歩く。
外から見る灯の消えた校舎はなんだか動きを止めている巨人みたいにも見えるね。
図書館の方から、人がぞろぞろと来た。
おろ?
「おや、マコトか」
「お養父様、お帰りですか?」
「うむ、整理が長引いてな」
「まだ、書庫の整理は終わりませんの?」
「明日の昼に終わる予定だ。そこから着換えて新入生歓迎ダンスパーティに行くよ」
「おまちしておりますよ」
学者さんたちに挨拶をして……。
なんでサーヴィス先生が居るのだ。
「先生、何やってるんですか?」
「いや、興味深い本があったのだが、整理が終わるまでは貸し出してもらえないので、読みに来てたんだよ」
「魔法塔から追っ手が出ますよ」
「大丈夫大丈夫、仕事はちゃんとしてるし。あ、麻薬感知魔導具は完成して、各街門に配布したよ。何件か摘発に成功したらしい」
おお、麻薬感知魔導具があれば、水際で止められるね。
各方面で、かなり密売ルートを潰したのに、まだ居るのだなあ。
まあでも、感知器でかなり減るでしょ。
「サーヴィス先生、ありがとうございます」
「なに、麻薬を撲滅するのは魔法塔の仕事でもあるし、礼には及ばんよ。あとでコリンナ君にドライヤーのロイヤリティと共に麻薬感知魔導具のロイヤリティも届けるよ」
「よろしくおねがいします」
ドライヤーのロイヤリティは儲かるなあ。
鍛冶部からのお金も馬鹿にならない額だし。
夏休みに聖女派閥で小旅行するぐらいの予算はでそうね。
うしし。
南の島に行って海水浴じゃ。
水着回をしよう。
サーヴィス先生に手を振って、図書館帰りに一群と別れる。
ルカっちも居おった。
ちゃんとご飯食べろよ~。
図書館の下を右に折れると集会棟が見えた。
何件か灯りがついているので、派閥の集会をやってる所とかあるんだろうね。
あとは部活の集会か。
今日は土曜日だしね。
155室のドアを開ける。
「あ、領袖、こんばんは」
「こんばんはですう」
部屋の中にはアイーシャさんとお針子さんたちが居て、絶賛ドレスの調整中だった。
「わあ、素敵ねアイーシャさん」
「はい、このデザイン、ドワーフ族に流行りますよ」
ドワーフは手先が器用だから鍛冶だけじゃなくて、被服の方も凄いのよね。
本国に持って帰って流行らせてくれたまえ。
「聖女さまの礼服を調整いたしますか?」
「使うのは明日の夜だから、最後で良いよ、アダベルのドレスは終わったの?」
「はい、終わりましたよ」
そっかー、試着であのかわいさだから、完成したらどうなるかねえ。
楽しみ楽しみ。
どやどやと、カーチス兄ちゃんと、ライアンと、オスカーが入って来た。
「あれ、マコト、何してんだ、お前のドレスは終わったろ」
「ああ、おまけの服の調整だよ。ライアンとオスカー、先にやってもらいなさいな」
「わるいね、聖女さん」
「先にさせてもらうよ」
というか、オスカーは新入生歓迎ダンスパーティに出るのか?
「オスカーは明日どうするの?」
「うむ、主に礼服を着てドレスのマイ・レイディと錬金室で談話だな」
「あー、良いなあ」
「秋のダンスパーティにはあのお方は出られないだろうか」
「だんだんと抵抗を無くしていかないとね」
カーチス兄ちゃんが目を閉じてうんうんとうなずいていた。
「お前達は偉いな。カロリーヌを頼んだぞ」
「言われなくても」
「当然の事だ、カーチス」
そういや、カーチス兄ちゃんはカロルと幼なじみな感じなんだよな。
なるほどという感じだ。
アイーシャさんの調整が終わった。
いやあ、良く似合うねえ、可愛い可愛い。
「領袖、凄いデザインをありがとうございました」
「明日は鍛冶部のあの暑い部室で着換えるの?」
「いや、さすがに明日は炉の火は落としますよ。あ、オスカーさま、部長がダンパが終わったら試作品出るから火曜日にでも来てくれって言ってましたよ」
「本当かい、先祖伝来の宝剣が蘇るのか」
「バランスの調整とかがありますので、仕上がりまではもう少し掛かりますね。あと魔法陣を刻印する時間もありますし」
オスカーは私の方を向いた。
「ありがとう、領袖。本当になんとお礼を言っていいか……」
「気にしない気にしない、派閥の仲間なんだしさ」
「本当にありがとう」
そう言って涙を浮かべながらオスカーはにっこり笑った。
良い笑顔だな。
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