第492話 ぎゃふんと言わせたが敵も猿ものひっかくもの
「それでは、道中気を付けてね」
「はい、聖女さまにもお世話になりまして」
「なんとお礼をいったらいいやら」
「本当に助かりました」
おっちゃんらは目をうるうるさせてそう言った。
よしよし、大団円だ。
さて、こんな街はとっととおん出て王都に帰るぜ-。
「それでは、ホルスト伯、ごきげんよう」
「まて」
「なんすか?」
まだ何か文句があんのかよ。
「この船は王都に行くのだろう、ちょうど良い乗せていけ」
「……ふぁ?」
ちょっと、このハゲ大男のホルスト伯が何を言ってるかわかりませんね。
「ゆ、有料です」
「幾らだ?」
え、幾らだ?
ここから王都まで四十分という所か?
そうすると。
私は後ろのコリンナちゃんを振り返った。
彼女は手をパーの形に開いている。
「ご、五金貨ですけれどもー、二等船室でー」
あ、懐から財布を出して、普通に私に五金貨渡してきたーっ!
「……」
「これでいいな。だが、安いぞ五万ドランクだと」
「その、キャンペーン割引なので」
「そうか」
あれ、なんか普通にホルスト伯がタラップ上がってきやがってるぞ。
なんだ、この敗北感。
私はぎゃふんと言わせたのに。
「嫌ですって断るべきだったわ」
カロルが私の背後に立って小声で言ってきた。
あ、そうか、断るって選択があったのか。
「でも、しょうがないわね、早く王都に行って降ろしちゃいましょう」
「そうだな。しかし護衛もつけないでキモの太いおっさんだな」
私たちが飛空艇に上がるとホルスト伯は操縦室の前で待っていた。
「ダルシー、ホルスト伯を二等船室へご案内して」
「かしこまりました。伯爵様、こちらへ」
「なんだか華の無いメイドだな、こんな奴はいやだ」
てめえ、贅沢言ってんじゃねえよ。
ダルシーは良い子なんだぞ。
「では、私が」
アンヌさんが出てきた。
「眼帯のメイドも論外だ、諜報メイドを貴人の対応に使う奴がおるか」
ぐっ、正論だが、しょうがねえだろ。
秘書代わりの侍女なんか、学生が持ってるわけねえよ。
「それに船室に入るつもりは無い、後学の為に操縦室に入れろ」
くそう、親子二代にわたって命令してくんなあ。
つうか、孤児院の子供もいるんだぞ、お前なんかを怖がらせたくねえよ。
と、思ったら、メイン操縦室のドアが開いて、アダベルと子供達がぴょこっと顔を出した。
「マコト、なにしてんの?」
「いやそのあの……」
「わあ、子供が居るな、なんだいこの子たちは?」
ホルスト伯は破顔してそう言った。
破顔ってのは満面の笑顔の事だな。
「大神殿孤児院の孤児たちです。社会勉強のために乗せてます」
「そうかー、それは素晴らしいな、子供は国の宝だからな、みんな勉強してるかい」
……。
なんぞ?
子供好きなのか?
「なんだよ、俺が子供好きで意外か? 俺も昔は子供は駄目だったんだがな、ケリーが生まれてから大好きになってなあ。子供はいいぞ、うん」
なんだよ、この不良が猫好きみたいな展開は。
命令さんが生まれてから子供好きになったのか。
でも、そうやって甘やかすから娘がああなったんだぞ。
「じゃあ、おいちゃんと、一緒に飛行するところを見ようか、みんな」
「おじちゃん優しい」
「偉い人?」
「この街の領主だよ」
「領主様、こんにちわー」
「うんうん、みんな賢い良い子だな」
ホルスト伯は満面の笑顔で子供の頭をぐりぐりと撫でていた。
すっげー意外。
子供相手に威張り散らすかと思ったら普通ににこやかだな。
キルギスに目で、なんかあったら、こいつを叩っ切れとアイコンタクトを取って、私は操縦席についた。
やれやれだ。
「お知らせします、艇長のマコト・キンボールです。これより蒼穹の覇者号はヒルムガルドを出発、大神殿経由で魔法学園を目指します。到着予定時刻は六時半を予定しています」
ちらりと後ろを見るとホルスト伯は一番年少の子を膝に乗せてニコニコしていた。
くそ、調子が狂うな。
エンジンの出力を上げて、垂直に上昇する。
ヒルムガルドから学園へはヒューム川上空を下って行ったほうが良いかな。
山脈を飛び越してもいいんだけど。そろそろ暗くなるしな。
「ヒューム川に沿って飛びます」
【了解しました、航路図を出します】
飛行ルートがディスプレイに表示された。
私は舵輪を回して旋回し、王都に向けて出力を上げた。
船内モニターを見ると、スイートでジュリエットさんがお針子さんたちにドレスの試着をしてもらってるね。
アダベルのドレスの調整は学園に帰ってからかな。
王家主従はラウンジでお洒落組と喋っているようだ。
蒼穹の覇者号は巡航速度でヒューム川上空を飛ぶ。
「早いねえ」
「そうだねえ、おいちゃんちの川舟よりも、ずっと早いね」
「あのお船?」
「そうだよ、上流から川の流れを使って王都まで下るんだよ。沢山荷物がつめるんだ」
「しゅごーい、下に下りたら、海まで行くの?」
「いや、王都で荷物を降ろしたら、空舟を紐で引っ張って上流まで戻すんだ。ほら、あの船だよ」
「そうなんだー。大変だな」
「重労働だけど、みんなで歌を歌いながら引っ張るのさ」
「お歌ー、どんなのー?」
ホルスト伯は孤児の求めに応じて舟歌を歌い始めた。
なかなかの喉で聞き惚れてしまう。
だが、なんかあれだ、労働者の悲哀がでて雰囲気が変だな。
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