第491話 ヒルムガルドでホルスト伯爵をぎゃふんといわせる
「お知らせします、艇長のマコト・キンボールです。本船は突剣山脈越えルートを通る予定でしたが、事情がありヒューム川沿いを飛んでヒルムガルドで休憩するルートに変更します。ヒルムガルド到着は五時三十分、学園到着は六時十五分となります」
私は伝声管を閉じた。
「さて、行きましょう。エイダさんヒルムガルドへの最速航路は?」
【ヒューム川の上空千クレイドで飛ぶのが早いと思われます】
「よし、それで行きましょう、とばすわよっ」
私はエンジンの出力を上げて蒼穹の覇者号を離陸させた。
ディスプレイの中のおっちゃんたちは四等船室でお茶を飲んでいた。
「三十分でヒルムガルドはいけるかな」
【可能です】
よしよし、蒼穹の覇者号は早いね。
高度を千クレイドに上げ、出力をゆっくりと最大にあげる。
千クレイド上空だと、結構地面が見えて速度感があるね。
【ヒューム川中域ヒルムガルド周辺の天気は快晴、気流の乱れは無いようです】
「了解!」
「わあ、早い早い」
「すごいね飛空艇」
「あ、アダちゃんビョンビョン跳ぶのはやめて」
「えー?」
アダベルは何をやっているのか。
ヒューム川の上空をとばしていく。
この川は物流にも使われるから荷船とか木材の筏とかがのんびり運行している。
船の上の人が蒼穹の覇者号を見つけて手をふる。
小さめの村を通り過ぎる。
宿場村だね。
馬車とか歩きで街道をのんびり行く旅も楽しそうだけど、飛空艇で一気に飛ぶのもワクワクするね。
蛇行する川の上空をまっすぐ行く。
いやいや早い早い。
この前は夕方だったからね、視界が悪かったけど、今回はまだ五時すぎだし、あたりがよく見える。
「マコト、ヒルムガルド視認!」
「了解、コリンナちゃん」
丘の向こうにヒルムガルドが小さく見えてきた。
やっぱり大きい街だよね。
ヒューム川と支流の合流点にあるので物流の東西を繋ぐ場所でもあるんだな。
治めているのは命令一家ではあるが。
次の宿場街上空を駆け抜けてヒルムガルドを目指す。
「あっと、そういや命令お父さんの方はヒルムガルドに居るのかな?」
「微妙な所ね、ヒルムガルドと王都は馬で半日ぐらいだから居てもおかしく無いけど」
「王都にタウンハウスがあったら向こうに泊まってるかもね」
まあ、その時は家老さんとかをからかって、おっちゃん三人組を降ろそう。
ウエリントンまで遠そうだしね。
ヒルムガルドが大きくなってきた。
典型的な城塞都市だが、水運の街なので街の中央にヒューム川があって、五本の橋で東西の街を繋いでいる。
メインの街は東っぽいね。領館あるし。
この前は夕暮れだったからよく見えなかったけど、綺麗な街だな。
人々が沢山動いていて活気がある。
領館の前の中央広場に降りる事にする。
私は伝声管の蓋を上げた。
「こちらは蒼穹の覇者号、艇長のマコト・キンボールです。今から中央広場に着陸します。危険ですので降下する飛空艇から離れてください。繰り返します、降下する飛空艇から離れてください」
中央広場の市民たちが蜘蛛の子を散らすように逃げ出して、広場に人気が無くなった。
ゆっくりと降下していく。
「着陸脚展開」
がっちゃん。
【着陸脚の展開を確認しました】
蒼穹の覇者号は地面に着地してちょっと沈み込んだ後ちょっと浮いた。
【蒼穹の覇者号タッチダウン】
私はメイン操縦室を出た。
ちょうどダルシーに連れられておっちゃん達がやってきた。
「ヒルムガルドに着きましたよ」
「こ、こんなに早く」
「馬でも二日かかるのに」
「なんて早いんですか」
「さあさあ、降りて降りて」
「はい、ありがとうございました」
おっちゃんたちを連れてタラップを降りる。
なんだかヒルムガルドの住民が遠巻きに見ているな。
「こらー、貴様、何をしておるかーっ!!」
お、命令父さんだ。
「こんにちはー、領に帰っていたんですね」
「どういうつもりかっ!! 無断でヒルムガルドの中央広場に着陸とはっ!! 衛兵っ!! この痴れ者を引っ捕らえろっ!」
五六人の衛兵が出てきた。
ダルシーが私の前に立つ。
「いやだなあ、あなた方がマーラー領に送ったウエリントンの住民を送ってきただけですよ」
「し、しらんっ!! そんな事実は無いっ!! 衛兵っ!! その三人もまとめて引っ捕らえろっ!!」
私はおっちゃんらを見た。
「命令されたのはホルスト伯爵じゃないの?」
「いえ、命令はウエリントンの領主のジョエル子爵さまからですよ」
「ああ、じゃあこの人の事は知らないのか」
「私はそんな事は一切しらないっ!! ふっ、良い機会だ飛空艇の関税を払って貰おうか」
飛空艇からジェラルドとケビン王子が降りてきた。
「飛空艇には関税はかかりませんぞ、ホルスト伯爵」
「ジェ、ジェラルド卿、ケビン王子……」
「滅多に無い乗り物なので、法整備が出来ていないと言ってもよいですな。空港設備があるガドラガなどでは入港料を取れるようですが」
命令父さんが息をのんだ。
「ホルスト伯、僕は関税を盾に他領の人間を他領に嫌がらせに送るのは感心しないなあ」
「はっ、そ、それはその、まったくの事実無根でして、はい」
「そうですか、それは安心しました。では、この市民たちが捕まる事も無いんですね」
「は、はい、もちろんです……」
「良かった、この三人には王室御用達の用品を作って貰う予定なんだ、行方不明とかになったら困るなあ」
「さ、左様ですか、それは、い、いけませんね。こちらからも兵を付けてウエリントンまで送ります、はい」
よしよし、王子は便利だな。
これでおっちゃんたちが口封じされる事も無いだろう。
「今度巡幸に行った時に用品をくださいね」
「王子様っ!!」
「すぐ作ってお送りします」
「なんとも晴れがましい事です」
「あまり無理しちゃ駄目だよ。道中気を付けてね」
「「「ははあっ」」」
おっちゃん三人組は土下座をする勢いで頭を下げた。
それを見てホルスト伯爵は憮然とした表情を浮かべていた。
うはは、ざまあ。
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