第488話 シスターに見つかり、マーラー中央教会へ呼ばれる
騒ぎも収まったので、王家主従とお洒落組と合流してマーラータウン散歩を再開であるよ。
本当に衣類のお店とか、繊維問屋とかが多い街よね。
ここで作られた糸や布、衣類が近隣都市や王都に輸出されて、かわりに穀物や錬金薬、食料品が街に運ばれてくる。
単機能都市って雰囲気があって良いよね。
街の隣にはヒューム川の支流が流れていて、水運も盛んだ。
「そうだ、これを見てよキンボールさん、マーラーの外套だって、思わず買ってしまったよ」
「珍しい希少な外套なのだ、私も購入した」
王家主従は嬉しそうに、布袋からマーラー外套を出して見せてくれた。
あのえんじ色の渋いタイプだな。
「あーー、そう」
「兄さん、買ったのかあ。僕らももうすぐ手に入れるよ」
「ロイド王子の分もあるのかな?」
「ひどいよ、マコトっち、一緒にマーラーを倒した仲間じゃないか」
まあ、前回、ロイドちゃんは居たからいいけどさ。
「ど、どういうこと?」
「なぜ、お前達がこの高価な外套を」
「この外套はマーラーって魔物の毛でできてるんだけど、前回、倒して領に売ったのよ。代金は聖女派閥全員にマーラー外套で」
「「なんだって!!」」
王家主従は驚愕の表情を浮かべた。
ごめんな、自慢を一瞬でふっとばして。
「王子さまと色がかぶるのは困りますね。生成りの黄色で作りますか」
「そうだね、同じ色だと同じ派閥みたいだし」
ヒルダさんは物陰から出てきた目付きの鋭い領民と相談していた。
「まだ紡績はしていないので、染色はしないようにつたえましたわ」
「うん、黄色も可愛いと思う」
黄色というか、オレンジ気味の濃い黄色だけどね。
王家主従はなんだかむっとしていた。
「まあまあ、ケビン王子、この外套はマーラー領自慢の品ですわ、頑丈で防刃に優れ対魔法力もありますのでお勧めです。ケビン王子に着て頂くと領の誉れになりますわ」
「う、うん、それが気に入ったんだ」
「王子と私のお小遣いが吹っ飛んだが、良い買い物と思う」
ヒルダさんが王家主従をなだめていたが、奴らはなんだか悔しそうであるな。
すまぬすまぬ。
だが、おまえら一ヶ月の小遣い貰いすぎ。
でも、私たちと王家主従が着ることでマーラー外套ブームが来たらいいね。
ヒルダさん大もうけだ。
広場を抜けて、東の方の大通りを行く。
街の大通りだけど、街道でもあるのよね。
宿屋が沢山あるな。
目玉料理は鱒のようだ……。
「この鱒って」
「お蚕さまのサナギで養殖している物ですわ」
あー、やっぱり、モスラのサナギで育ててたか。
前に来た時の夕食でも出たような気がする。
コケモモのデザートが美味しかったけどね。
「鱒ははらわたは食べませんから大丈夫ですよ領袖」
「う、うん」
屋台も出ていて、鱒や鮎を焼いて売っていた。
そして、剣術組が屋台の隣のテーブルで焼鱒にかぶりついておった。
「おお、マコト。上手いぜ焼き鱒」
「そうかそうか、だが食わん」
もう私はこの街で鱒は食わんのじゃい、カーチス兄ちゃん。
「あんたらは買い物は?」
「済んだ済んだ。木綿製品を色々買ったぜ」
見れば、みんなパンパンに膨らんだ麻袋を持っているな。
私は時計塔を見上げた。
四時半ぐらいか。
まだ、帰るには早いかな。
「ああっ、いらっしゃったいらっしゃった」
なんだか中年のシスターが私たちに駆けよってきた。
「聖女さま、マーラー領にようこそいらっしゃいました。教区担当のこのエビナ、ご尊顔を拝し奉り恐悦至極でございます。つきましては是非、マーラータウン中央教会で聖女さまのご祈祷をお願いいたしたく」
「えー、私は公務で来てるわけじゃないんだけどなあ」
「そこを伏してお願いいたします。聖女さまがいらっしゃるなぞ、地方教会にとっては随喜の涙が出るほどの光栄、なにとぞご慈悲を」
五体投地しかねない勢いでエビナシスターは頭を下げた。
「略式でいいなら奉納祈祷してもいいけど」
「ありがとうございますありがとうございます。おねがいします」
私は派閥の一行に向き直った。
「んじゃあ、ちょっと行ってくるから、みんなはお茶でも飲んで待ってて」
そして、私とエビナシスターが中央教会に移動しようとしたら、みなぞろぞろと後をついてくる。
「なぜに付いてくる」
「一緒に祈祷するわ」
「マコトがちゃんと仕事するか監視しないとな」
「なんとなく」
「なんとなく」
んもー。
結局皆をぞろぞろつれてマーラー中央教会に向かった。
さっきから見ていた時計塔のある建物が中央教会のようだ。
時計塔に鐘も付いてるみたいね。
結構大きい教会だな。
教会の前にはおじいちゃんの司祭さまと、沢山の坊さんと尼さんがいた。
「これは聖女さま、マーラー中央教会によくいらっしゃいました」
「とても良い教会ね。少し奉納祈祷させてもらうわ」
「ああ、聖女さまに足を運んで貰うとはなんという光栄ですか。私はこの教区を担当するシメオンと申します、お見知りおきを」
「シメオンさま、よろしくお願いします。五時にはマーラー領を出ますので略式でもうしわけありませんが」
「いえいえ、あの素敵な飛空艇で王都からひとっ飛びなのですな。素晴らしい事です。さあ、皆の者、聖女さまの祈祷の準備をしようぞ」
シメオン司祭が命令すると、坊さんと尼さんがキビキビと動いて聖堂内に私を案内してくれた。
略式なんで聖句を適当に唱えてお祈りを奉納しようかな。
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