第486話 太物屋でお買い物
マーラータウンは二回目だけど、いい街だよね。
活気があって綺麗だ。
住民がみんなキビキビしてるよね。
「マーラー家は、なんで暗闘の家になったの?」
私がそう問いかけるとヒルダさんははんなりと笑った。
「お針子さんが居ますよね。マーラー領のお針子は腕が良いので各地に出稼ぎに行くのです。そして、情報を持って来ます。今から六代ぐらい前の当主がお針子達を訓練して諜報組織として使う事を思いつきまして、それからだんだんと暗闘の家としての名が上がりましたね」
「お針子情報網が元だったのかあ」
「はい、そして特殊な糸を使う武道などが開発されまして、さらに名があがりましたね」
ヒルダさんの使う糸攻撃だね。
なかなか興味深い事だ。
「私たちは、クレールの暗闘の腕前に何度助けられたかしれないよ」
学園長がしみじみと言った。
クレールというのは先々代のマーラー家当主さんだね。
「お爺さまは派閥で大活躍なさっていたようですわね」
「あまり武勇伝は聞いてないのかい?」
「おねだりしても何も教えてくれませんでしたわ。イカした仲間と大暴れじゃ、としか」
「本当に、クレールは目端が利いてポッティンジャー派の目だったな。なんとも懐かしい」
暗闘家だけど、良い人だったみたいね。
会いたかったなあ。
ジェームズ翁が若い頃はポッティンジャー派閥はさぞ楽しかったろうね。
今となっては見る影も無いけどね。
等と話していたらお店に着いた。
小ぶりだけど小洒落た店だね。
木綿問屋の小売店のようだ。
「あらあら、まあまあ、お嬢様、いえ、御領主さま、いらっしゃいませ」
品の良いおばちゃんが店のドアを開けて出てきた。
「お買い物に来たわ」
「あら、申しつけて頂ければお舘の方に運びますものを」
「私じゃ無いわ。聖女さまよ、大神殿の孤児院用に木綿製品が欲しいのですって」
「まーまーまーっ!! 聖女様っ!! この前のご光臨ではお見かけしなくてがっかりしていましたのよ。まーまーまーっ!!」
「こ、こんにちは」
テンションの高いおばちゃんは、ちょっと苦手だな。
「五万ドランク分の、シャツとパンツと木綿布をください」
「わかりましたわ、おまけさせていただきますわよ」
「卸値で売りなさいね」
「え、いいよっ、王都の値段よりずっと安いし」
「大神殿への供物ですから、領袖」
「ううう」
「おほほほほ、聞いた通り、聖女様は奥ゆかしくていらっしゃいますのね。素敵ですわ」
私たちは太物屋に入った。
太物というのは綿や麻の布製品を扱うお店の事な。
絹糸よりも綿の糸が太い事からそう言われるらしい。
色とりどりの服が飾ってあるなあ。
ちなみに太物の服は吊るしといって既製品であるよ。
普段着だからオーダーメードではないのだ。
「わあ、沢山の服~~」
「新品~~」
店内を孤児とアダベルがうろちょろしはじめる。
「一人一着ずつ、シャツとズボン、またはスカートを買ってあげるよ」
「ほんとっ!! マコねえっ!!」
「わあいっ!! あたらしい服!!」
「ええ、どれでも良いの、どれでも良いの?」
「晴れ着にするから気に入ったのを選んでね」
「まあまあ、大商いですわ。今、店員を呼んできますからね」
おかみさんが奥に声を掛けると、四五人の店員さんが来て、孤児達に対応してくれた。
「私もいいかっ!!」
「あ、まあ、アダベルも良いよ。学園長、良いですよね」
「ああ、アダベルの服は私と一緒に選ぼう」
「やったあっ!!」
アダベルは飛び上がって喜んだ。
というか、あんたは鱗服があるから普段着は要らないと思うんだけど、やっぱりみんなが買って貰って、自分は貰えないと寂しいものね。
「私も何か買うかな」
「マコト、ドロワースが安いぞ」
「あ、本当だ」
「私もなにか選ぼうっと」
カロルやコリンナちゃんも店内に散らばった。
ジュリちゃんとかロイド王子もシャツとか見てるな。
偉い人も木綿のシャツとか楽だしね。
「はい、聖女さま、出来ましたよ」
おかみさんが、注文の木綿製品をまとめてくれた。
結構沢山だな。
「持ちますか、マコトさま」
「収納袋に入れるわ。ダルシーあなたも自分の下着とか買いなさい。安いわよ」
「はい、そうですね」
「私が出すから、普段着とかも買いなさい」
「あ、ありがとうございますっ」
私がそう言うとダルシーは嬉しそうな顔をした。
ダルシーもうちの子だからね、好きな服を買うのだ。
うん、木綿製品は吊るしだし、お安目だから良いね。
まあ、この世界は、まだ動力が無いから、繊維製品はそこそこするんだけどね。
前世でシマムラとかの量販店が安いのは大量生産してるのと、化学繊維とかのお陰なんだよな。
みんなでわいわいと服を選ぶ。
そんなに沢山は無いんだけど、それでも素敵な染め方の服や、センスの良い模様のスカートとかがある。
ワクワクするねえ。
私も私服のワンピースを買った。
カロルとお揃いであるよ。
ぐふふ。
まあ、いつも制服で通してるので、あまり着る機会はないけどね。
それでも持ってると嬉しい。
よろしかったら、ブックマークとか、感想とか、レビューとかをいただけたら嬉しいです。
また、下の[☆☆☆☆☆]で評価していただくと励みになります。




