第466話 マリリンの案内でゴーゴリー豚料理店へ
階段を降りると派閥の二年生が集結して、校舎の玄関に出るとゆりゆり先輩がまっているな。
いつもの仲間が集結したので、いざ校外へ行くぜ。
マリリンが先頭だぜ。
「雨降らないかしらね」
カロルが曇天を見上げてそんな事をいう。
日が差してなくて、ちょっと肌寒いね。
「降らないといいけどね」
「そうね」
王都中央通りを皆でずいずいと歩く。
学園の生徒も結構外に出ている。
結構な数がひよこ堂に吸われて行くけどね。
店の前で列を作っているクリフ兄ちゃんに手を振って中央通りをさらに行く。
そういや、アダベルが来ないな。
大神殿でみんなと遊んでいるのかな。
ちょっと寂しいけど、仕方が無いね。
子供は子供の交友関係があるのだ。
大神殿前で完全な寺男となったアンドレとルイゾンが掃除をしていた。
「あ、こりゃあ聖女さま」
「お友達とお昼ですかい?」
「そうよ、アダベルは来てる?」
「午前中は孤児院の子らと学園長の家でお勉強して、みんなで帰ってきやしたぜ。午後はみんなと遊ぶんだ、そうです」
「お昼ご飯は大丈夫かな」
「平気でさ、わりと多目に作ってるんで」
「子供一人ぐらい増えても大丈夫らしいですぜ」
そうかそうか。
アダベルも馴染んでるね。
「では、何かあったら助けてあげてね」
「かしこまりやしたぜ」
「わかりやしたぜ」
元不良なのにすっかり角が取れて良い兄ちゃん達になったな。
なによりだ。
アンドレとルイゾンに別れを告げて、私たちは大神殿を通り過ぎる。
「本当にマコトは人を良い方に変えてしまうわよね」
「ん、んな事はないよ」
カロルに褒められてちょっと照れくさい。
あれらは元々律儀で善性があったのだ。
神殿で規則正しい生活をしたから良い感じになったのだろうよ。
「マコトは奥ゆかしいわね」
「ほんとだ、もっと威張ってもいいのだがな」
「よせやい、コリンナちゃん」
マリリンは私たちを飲食街にある一軒の料理屋さんに誘った。
ゴーゴリー豚専門店、南洋亭と看板にある。
居酒屋さんだけど、お昼はランチもやっているようだ。
「いらっしゃいませ、何名様でしょうか」
「十八人ほどだけど、個室は空いているかしら」
「はい……。えーと、その、き、貴賓席は無いのですが……」
「ご婦人、誤解だ、一国の王子がこのような場所に来るわけがあるまい」
「そうそう、僕は通りすがりの木綿問屋の坊ちゃんさ」
ケビン王子、そんな自称をする大店の坊ちゃんはいない。
王子主従とロイドちゃんは論外としても、カーチス兄ちゃんも、エルマーもどう見ても上流貴族だからなあ。
「は、ははあっ」
おばちゃん店員は平伏する勢いで私たちを店の中に通した。
大きめの個室に通してくれる。
なんか、香ばしい感じの匂いがして良いね。
店主とおぼしきおじさんがやってきて、もの凄い角度でお辞儀をしていた。
「と、特別料理をお出ししますか?」
「普通のランチを十八人分くださいな」
店主さんはマリリンの顔は知らないようだね。
領の直営店というわけでもないのか。
「ゴーゴリー豚は久しぶりだわ、故郷にいる時はよく食べたわね」
「はっ、あのっ、あなた様は、もしやアップルビーの御姫さまではございませんかっ」
「あら、いやだ、私はただの絹問屋のお嬢様よ」
ゆりゆり先輩も悪乗りしてるな。
なんで皆、繊維問屋の坊ちゃん嬢ちゃんを自称しているのか。
なんか流行の演劇でそういうのがあるのかな。
「お忍びなんで、特別な料理は出さなくて良いですよ。みんなただの学園の生徒ですので」
「は、はあ、さようで……、あああっ!」
「え、なに?」
「聖女さままでいる~~~」
店主はかがんで泣き出してしまった。
「わ、私はただの、パン屋の娘よ」
「うわあ、事実だ~~」
女将さんらしいおばさまが、泣き出した店主さんを引き取っていった。
ちゃ、ちゃんと料理できるかな?
「お、お酒を飲まれる方はおられますか?」
「ゴーゴリー地方の地酒とかはあるか?」
カーチス兄ちゃんは飲み助だなあ。
「栗の蒸留酒がございますよ」
「お、良いな、ロックで持って来てくれ」
「わかりました」
栗で作った焼酎系の物か。
めずらしいね。
お酒飲みのメリッサさんやライアン、ロイドちゃんが栗の蒸留酒をたのんでいた。
「ワインは無いんですか?」
「南は土地が肥えすぎて、良いブドウが育たないのですわ」
「そうなんですか、ユリーシャ先輩」
「なので蒸留酒か、ウイスキーになりますわね」
お酒も地方色が色々あるんだなあ。
「私も栗の蒸留酒を下さい」
「マコトも飲むの?」
「ちょっと気になるから一杯だけ」
「はい、水割りにいたしますか?」
「はい、それでお願いします」
お酒はすぐ来た。
私の前にもグラスにつがれた栗の蒸留酒が置かれる。
匂いを嗅いでみる。
お、栗の匂いがするね。
コクリと一口飲む。
くはっ、酒精が強いね。
でも、ふんわりと甘いなあ。
栗っぽい後口が来るよ。
ちょっと美味しい。
「カロルも飲む?」
「味だけ見るわ」
カロルがグラスを持って一口飲んだ。
「うわ、強いわ。あ、でも後で甘い」
「美味しいですわね、すっきりして甘いですわ」
メリッサさんがカプカプ飲んでいるな。
「コリンナちゃんは?」
「私はアルコール駄目なんだ」
「そうなの?」
「そう」
「財務官は宴会も仕事のうちだ、多少は飲めないと困るぞ」
「そ、そうですか」
ジェラルドがコリンナちゃんに絡んだ。
パワハラすんな、未来の上司のくせに。
コリンナちゃんは一口、栗の蒸留酒を含んだ。
一瞬顔をしかめたが、ゆるんだ。
「あ、ちょっと甘い」
「ちょっとずつでも飲んで耐性を付けるといい」
「はい、ジェラルドさま……」
ポッと頬を赤らめたコリンナちゃんは可愛いな。
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