第458話 新しい子分が出来たが、麻薬捜査完了!
「コベット長官、俺はポッティンジャー派やめるわ」
首をコキコキしながら、首の接合具合をたしかめていた十七番がいきなり宣言した。
「は?」
「ジェームズ翁がいる時代だったらともかく、ドナルド公爵では聖女さんには絶対勝てない。だからポッティンジャー派はやめる。あと、麻薬の反応があった奴だけじゃなくて、四番、十九番もポッティンジャー派だよ」
四番と十九番が一歩前に出た。
「な、お前なんでばらしてんだよっ」
「諜報の作法にもとるぞ、おまえ」
「うるせえ、切れた首をくっつけられる聖女さんに、おまえ、勝てるの?」
「い、いやまあ、それは……」
「ヴィクターさまなら、なんとか、その……」
「もう無理もう無理、レノーさんも、そう思うでしょ」
ダルシーに捕まっている二十三番の髭男が苦笑した。
こいつが『塔』のポッティンジャー派の長のようだ。
「あと、俺の首をくっつけるって奇跡を起こした後にさ、この人、『え、え? たいした事ないじゃん』って顔しててさ。そんな可愛い人と敵対なんか出来ないっしょ」
笑いが花開いた。
え、え? そこ笑う所?
「そうかもしれないな。だが、俺たちはそこまで割り切れないぞ」
「俺は一回死んでるからな、もう、聖女さんに付くことにしたよ」
「そうだなあ、それはしょうが無いかもなあ」
なんだか、目の前で諜報員の寝返りという、あり得ない光景が広がっているのですが。
十七番は私の前に膝を付き、頭を垂れた。
「という事で、聖女さま、あなたに、私、ローラン・ユルヴィルの全てを捧げ、永遠の忠誠を誓います」
「いや、そんなもん誓われてもさ」
「いらなきゃ、ここで死ねと命令してください。どうせ死んでいた身ですし」
十七番こと、ローランはニッコリ笑った。
まだ若いイケメンだな。
でも、諜報員なんか何人もいらないぞ。
「ローラン、今の所は聴取に応じなさい。他のポッティンジャー派も抵抗はやめなさい。寝返るならば相談にはのります」
コベット長官はそう言って場を鎮めた。
ポッティンジャー派は後ろ手に縛られて連行されていく。
建物に入る前に諜報員どもに駆けよって、麻薬の解除を行った。
どいつもこいつも、あまり麻薬の影響は受けてないな。
諜報員は耽溺はしないのか。
ローランも麻薬の影響は薄いな。
「聴取が終わったら、すぐ聖女さまの元に参りますので、お待ちくださいね」
「断れないの?」
「無理ですね。俺の心は変わりません」
そこそこ凄腕の『塔』の諜報員が僕になるのは良いのだが、なんだかなあ、信用できるのか?
大神殿の諜報部に入れれば良いのか?
派閥にはヒルダさんもいるからなあ。
「さすがはマコトね。諜報員の心をがっちり掴んだのね」
「忠誠心の高い……、諜報員……、大事……」
「いいなあマコトっち、子飼いの諜報員は役に立つよ」
みんなが祝福してくれる中で、ダルシーだけが仏頂面だ。
あれはなんか怒ってるね。
あと、フランソワ団長も口を尖らせている。
「ふ、ふんっ、諜報員なぞ、卑劣な連中の集まりだ、そんな奴に好かれた所で偉くはないのだぞっ」
「諜報員を一人ぐらい持って無いの? 侯爵なのに……?」
「や、やつらはすぐ私を裏切るのだっ! あんな奴らは好かんっ!」
皆から、何か深く納得した空気が漂った。
そうか、ハゲには諜報戦は無理だろうな。
コベット長官が全部の人間を『塔』に戻した後、私の前に立って頭を深く下げた。
「ありがとうございます聖女さま、これでポッティンジャー派の浸透工作を防ぐ事ができました。なんとお礼を言っていいか」
「いえ、『塔』が動けないと色々大変ですから。簡単に解って良かったですね」
普通、こんな風にスリーパーを洗い出す事なんかは出来ないだろう。
「ローランは才能のある諜報員です、聴取が終わったらどこにでも出向させますので、ご希望の場所をお申し付けください」
「く、くれるの?」
「命を救われるというのは、人間にとって根源的な恩義となります。未来永劫、ローランが聖女さまを裏切る事は無いでしょう」
「ロ、ロイド王子を狙った罪、とかは?」
「いらないよ、マコトっち。こちらに寝返るなら、他の奴の罪も免除して大丈夫ですよ、コベット長官」
「助かります、ロイド王子。あの蘇生の奇跡を見せつけられて、ポッティンジャー派が勝つと賭ける者はいませんでしょう」
い、いや、その、場所が首だっただけで、手足をくっつけるのと同じだしさ。
エクストラヒールを使ったけど、たぶんハイヒールでくっついただろうし。
たいした事は無いと思うのだけどね。
「また、マコトがキョドってるわね。凄い事したんだから誇ってればいいのよ」
「い、いやあ」
また、私なんかしちゃいましたか、状態だな。
「これで、『塔』は通常通り動けるのか?」
「はい、ご迷惑をおかけしました、フランソワ団長」
「今、聖女が洗い出してくれた、王都の貴族の家などにある麻薬の位置情報がある、『塔』の力を使って、調査してくれ。必要とあらば、近衛が踏み込む」
「そんな物が、情報をお聞かせください。王家とも連携して捜査計画をたてましょう」
うんうん、餅は餅屋だね。
貴族方向の麻薬捜査もスムーズに動きそうだ。
さてさて、麻薬捜査もだいたい終わりだね。
あとは、神殿騎士団、警備騎士団、近衛騎士団に任せておけばいいや。
おわったーー。
くわぁ、疲れました~~。
私は青空に向かって伸びをした。
「お疲れさま、マコト」
「お疲れ……」
「二人もありがとうね」
「学園に戻りましょう」
「そうだねー」
私たちは王家の馬車で学園に戻った。
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