第457話 『塔(タワー)』で捜査を始める
「写し終わりました」
コロンブさんが嬉しそうに地図を指し示した。
ジャックさんがチェックして間違いが無いようだ。
「では、それを持ち帰り、近衛本部で捜査計画を練りたまえ。ジャック、君は戻って兄の護衛を再開してくれ、『塔』への捜査の立ち会いは私がしよう」
「助かります、ロイド王子」
ハゲはどうするんじゃ。
みなの視線がフランソワ団長に集まる。
「私も『塔』の捜査は立ち会う!」
まあ、ロイドちゃんとリックさんが居れば大丈夫かな。
「飛空艇で行くの、マコト?」
「馬車で行こう、近くだし飛空艇を出してもね。あとエルマーも拾わないと」
「そうね、麻薬捜査チームだからね」
カロルがうなずいた。
まあ、エルマーが居れば、そのまま飛空艇で飛んでも良かったのだが、出し入れが面倒くさいのとあんまり使ってると光魔力を入れないといけないのでだるい。
みんなで飛空艇を下船する。
いろいろ使い勝手が良くて便利だな、蒼穹の覇者号は。
偉い。
武道場の一階から出てくると、エルマーが居た。
「ああ、エルマー、『塔』に捜査に行くけど、いく?」
「いくとも……」
彼は懐から魔法の三節棍を出してカッコをつけた。
気に入っているなあ。
「王家の馬車を出すよ、リック、手配してきてくれ」
「わかりました、王子」
リックさんが王宮の方へ走っていった。
「それでは、私はこれで、ケビン王子の警護に戻ります」
「助かりました、ジャックさん、ありがとうございます」
「いえいえ、とんでもない、では」
ジャックさんはキビキビして、THE近衛という感じでいいな。
コロンブさんも私たちに挨拶をしたあと地図を持ち、小走りで王宮に向けて走っていった。
近衛本部は王宮にあるしね。
残ったのはロイドちゃんと、ハゲだな。
馬車溜まりで待っていると、王家の大型馬車がやってきた。
六人乗りででっかいね。
馬も六頭立てであるな。
皆で馬車に乗り込む。
私の隣はカロルで反対側はロイドちゃんである。
フランソワ団長はリックさんとエルマーに挟まれて窮屈そうだな。
馬車はガラゴロと音を立て、学園の校門から出発した。
左に曲がって王都大通り沿いではなくて、右に曲がって貴族街を通って行く感じだね。
『塔』は、王都の北門の近くにあるのだ。
不浄門近くというのは死のイメージ付けを狙っているのだろう。
ちなみに『塔』と言われているが、魔法塔のような巨大な塔ではない。
五階建てぐらいの小ぶりな塔だ。
正式名称をグラーク塔と言う。
『塔』の本体は地下に掘られた拷問倉と、牢獄と言われているね。
王都の政治犯や、凶悪犯罪者は『塔』に送られて色々酷い目にあうらしい。
THE中世という施設だが、まあ仕方が無い。
野蛮な時代なのであるよ。
馬車は『塔』の敷地内に入り、馬車溜まりで止まった。
私たちが降りると、小役人風の男がやってきて話を聞き、建物の方へ走っていった。
入れ替わるようにコベットさんが小走りでやってきた。
「これはこれは、ロイド王子、フランソワ団長、聖女さま。よくいらっしゃいました」
「いきなりだけど、調査準備はしてあるかしら」
「はい、本日いらっしゃるという事で準備をしていました。地下には入られませんよね」
入りたく無いねえ。
拷問倉なんか、一生入りたく無いです。
「『塔』が機能不全のお陰で、近衛騎士団が迷惑を受けている、早期の再開を望む」
「はい、解りました、フランソワ団長」
うん、にこやかだけど、内心はどうかな、コベットさん。
諜報組織の長だしね。
『塔』の中から覆面をかぶった一団が並んでやってきて、庭に整列した。
「ええと」
「人相がばれますと、今後いろいろ問題がございますのでこれで。これでもかなりポッティンジャーの息が掛かった者を外しましたのですよ」
「さようですか」
なんだか、覆面の一団は怪しいなあ。
胸に数字の書いたゼッケンをしている。
ダルシーが出てきて私の横にならんだ。
用心のためかな。
人差し指と親指の間に光の輪を作り、それを一瞬で広げる。
カーーン。
ふんふん。
五人か。
「六番、十七番、二十三番、にコカイン反応。十一番、三十二番に覚醒剤反応」
棒を持った係員が番号の人間を取り押さえる。
二十三番の人間がマスクを剥がした。
髭の男だった。
ニヤリと笑うとこちらに走り寄ってくる。
動きが派手だな。
陽動か?
サーチ!
左側に隠行して十一番だった女がいた。
アンヌさんがすかさず前方を塞ぐ。
細かい金属音が響く。
その間に二十三番は跳び上がり空中で投げナイフを投げた。
チャリンチャリンと私が張ったロイドちゃんの防壁にナイフは当たり地面に落ちた。
「くそっ!!」
跳び降りた地点に、メイスを持ったリックさんと、ダルシーが走り込んでいた。
隠行していた十七番の人間がいきなり現れ、ロイドちゃんの前で短剣を振り上げた。
「馬鹿者めっ!!」
フランソワ団長が怒鳴って剣を抜き打ちして十七番の首を落とした。
あーー、殺しおった。
腕は良いんだけど、殺してどうすんだ?
一本ラインが死んだぞ。
「殺してどうすんですか?」
「え、あっ!! しまった!!」
しまったじゃねえよ、使えないハゲめ。
急いで首を拾って、胴体にくっつける。
まぶたが痙攣してるから、ワンチャンある。
『エクスヒール』
げふっと血反吐を吐いて十七番は生きかえった。
よし、首も繋がったな。
手足も動いてる。
「は、ははは、俺は今死んでた?」
「悪いね、楽には死なせられないんだ」
「聖女さんすげえなあ」
十七番は結構若い感じだな。
「そ、蘇生を、聖女よ……」
「急いでくっつけただけだよ。蘇生とか上等なもんじゃないよ」
私は肩をすくめた。
なんだか、みんな凄い奇跡を見た目で私を見てるな。
おがむなおがむな。
やめろ。
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