第455話 ジャックさんと合流して蒼穹の覇者号に乗る
コロンブさんと一緒に武道場へ向けて歩き出す。
飛空艇の基地に行くためだね。
フランソワ団長もむっつりと黙りこくって付いてきている。
あと、カロルも。
全体的に空気が重い。
「なんでカロルまで?」
「あぶないから」
まあ、初対面の女子を殴ろうとする痴れ者が相手だからしょうが無いかな。
アダベルも一緒にこようとしたのだけれど、孤児たちが怖がっているので付いててあげてというと、解ってくれた。
良い子だよなあ。
武道場の方へ曲がろうとしたら、ケビン王子の護衛のジャックさんが駆けよってきた。
「あの、大丈夫でしたか、団長がなにか迷惑を掛けていたようですが」
「掛けられましたが叱って謝らせましたから大丈夫です」
「ジャ、ジャック、違うんだ、誤解なんだ」
「また表面上の身分で誤解して怒鳴ったりしたのでしょう? 団長」
「そ、それは……」
「聖女さまをぶとうとしてました」
あちゃあ、という顔でジャックさんは私に頭を下げてきた。
「申し訳ありません、団長は少し考え無しの所がありましてね、悪気は無いのです、おゆるしください」
「謝らせましたので大丈夫です-」
「ありがたい、聖女さまの寛大なおぼしめしに感謝します」
ジャックさんは正式に謝ってきた。
うん、これが正しい近衛騎士だよねえ。
「謝って済むことなの?」
カロルが尖った声を出した。
まあまあ、気持ちは解るけどさ。
一応味方なんだから。
「ジャックさんも一緒に飛空艇に来ませんか。実務が解ってる人がコロンブさんだけだと心細いかと思いますよ」
「そうですね、ケビン王子にはもめ事が起こってたらなんとかしてきてくれと言われておりますので、同行させていただきます」
よし、パーティにジャックさんが加わった。
武道場の一階の倉庫奥から階段を降りて、待合室に入った。
「なんと、学園の地下にこのような施設が!」
「ビアンカさまが金にあかせて作ったみたいですね」
「ゆるせんな、姦婦聖女めが」
このハゲは考えが表面的すぎるのか。
よくもまあ、宮廷陰謀戦に巻き込まれて死ななかったもんだな。
「なんだ、その目は、ビアンカは姦婦であろう」
「あんまり死んだ人の悪口を言うもんじゃないですよ」
「聖女としての業績は、わが祖母の方がずっと上だ」
聖女の功績はどこではかるべきかなあ。
私としては勇者聖女にあまり民衆が頼らない世界を作りたかったビアンカさまを尊敬するけどね。
まあ、フランソワ団長に言ってもしょうがないか。
待合室から歩いて格納庫まで行く。
蒼穹の覇者号を見て、フランソワ団長も、ジャックさんも感嘆の声を上げた。
「素晴らしい、なんという優美な飛空艇なのか」
「実働機が掘り出されるなんてねえ。すごいよキンボールさん」
「まあね。エイダさんハッチを開けて」
【了解しました】
ハッチが縦に開いてタラップになる。
みんなでカツカツと音を立てて上り船内に入った。
「ジャック、君はこの飛空艇に入った事があるのかね」
「はい、王子の護衛として乗せてもらいましたよ」
「こんな、こんな豪華な船が、国家の物ではないだと?」
「迷宮から掘り出した物は発見者の物と決まってますからね」
「だが、飛空艇のエンジン、その他の部品は国家が買い上げるではないか」
「そりゃ、持ってても使えない物は売るでしょうよ」
「この船は特殊な、勇者と聖女用のカスタム飛空艇ですからね、そりゃ使うでしょう。エネルギーも魔石じゃなくて、聖女の光魔力です。ランニングコストがべらぼうに安いのです」
お、ジャックさん、解ってるな。
前の飛行でミニエイダさんに解説されたかな。
私たちはメイン操縦室に入った。
豪華な操縦室の魔導機器にフランソワ団長とジャックさんは感嘆の声をまた上げた。
「こんな素晴らしい宝を、小娘が自分の欲望を満たすために使って良い物か」
「マコトは自分のためになんか使ってません、取り消してください」
「ぐ、だがしかし」
「大丈夫カロル、そのうち自家用に使うよ、お養父様お養母様と、領地へ連れて行かなきゃだし、個人的にも飛行するぜい。こんど二人で夜景の上を飛ぼうよ」
私は喋りながら、コロンブさんのために航法士席のディスプレイを調節した。
「マコト~~」
カロルが渋い顔をした。
ええねんええねん。
そんな役に立つ事ばかりに使ってたら気詰まりだって。
「それ、こやつは我欲の塊ではないかっ!」
「だって、私の船だし。誰に文句を言われる筋合いがあるのさ」
「そ、それは、その、国家への責任などが……」
「無い無い、聖女だから、責任があるのは教会だけど、そんなに頑張る気持ちも無いのさ」
「せ、聖女がそんな事で……」
「私は私の知っている人が不幸にならなければ基本良いんだよ。今回王家に協力してるのは、麻薬の害がアップルトン王国の全ての人にとって害になるからなんだ」
「王国の為では無いのか……」
「そうそう、私が一番大事なのは友達とか知り合いだよ。聖女とか威張ってもそんなに沢山の人は救えないし、無理をして身近な誰かを泣かしては本末転倒じゃん」
ジャックさんが目を閉じてうなずいた。
「そうか、あなたはそういう考えなのか。わかります」
コロンブさんもうなずいた。
「それはとても正しい行いと思います」
フランソワ団長だけが、なんだか納得がいかないという顔をしていた。
「それはなんかずるいぞ」
「いいんだよっ、うっせえなあっ!」
おっと、ついイラッとしてしまった。
ハゲの美中年なのに、つい、アホの小僧みたいな扱いをしてしまうな。
反省反省。
よろしかったら、ブックマークとか、感想とか、レビューとかをいただけたら嬉しいです。
また、下の[☆☆☆☆☆]で評価していただくと励みになります。




