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第450話 キルギス視点:アダベルを学園長邸へ送って行く

Side:キルギス


 日が落ちたので、室内にアダベルを迎えにいった。

 奴は女子たちとギャッギャと笑いながら遊んでいた。


「アダベル、送っていくぞ」

「お、おおっ、もうそんな時間?」

「アダちゃん、泊まっていきなさいよっ」

「そうだよそうだよ、一緒に晩ご飯食べよー」

「おお、そんな方法もあるのか」


 すっかりアダベルの奴は孤児院の女子たちと仲良くなったな。

 人なつこい奴だ。


「そんなに急に夕食を増やせないだろ」

「それもそうだね、帰るよ、また来ていい?」

「いいよいいよ、アダちゃん大好きっ」

「明日くる? いつ頃?」

「朝から来て大丈夫かな?」

「平気だよっ、尼さんに言えばご飯も出してくれるよっ」

「リンダ師に頼めばいいよっ」

「そっかー、また明日くるねー」


 アダベルが立ち上がると、女子達が回りを取り囲んで別れを惜しんでいた。

 こんなに早く仲良くなるもんなのかね。

 王都の中のガキの常識は解らないな。


 スラムでの子供関係はシンプルだ、殴ってみて泣くようなら、そいつは遠からず死ぬ。

 だから、そいつの持っている物は全部奪われる。

 そして、飢えて死ぬ。

 スラムでは泣く子供はいない。


 孤児院に来て、初めてべーべー泣く子供を見て驚愕した。

 俺がちょっと殴っただけなのに。

 そのあとリンダにぼこぼこに殴られたが。


 スラムでは子供同士が仲良くなるには時間がかかる。

 何度も殴り合い、根性を認め合った後、初めて相手を認める。

 どっちが上か下かはとても大事な事だ。

 だが、ここでは孤児達は皆平等だという。

 そういう甘い関係を作ってこなかったので、やっぱり俺には理解ができない。


「待たせたなっ、行こうぜキルギス」

「ああ」


 アダベルと女子たちの挨拶が終わったようだ。

 俺たちは連れだって孤児院を出て、大階段を降りた。


「学園の方でいいのか?」

「おう、ガクエンチョの家は学園の近くだぞ」


 俺たちは王都大通りを歩き始めた。

 あたりは夕闇が近づいて、みな急ぎ足だな。

 アダベルは鼻歌を歌いながら歩く。

 暢気なもんだな。


「いやあ、人の世界は楽しいなあ」

「これまで王都に出てこなかったのか?」

「なんだか、宣言ギアスでの制限が掛かっててなあ、人化が出来なかったんだよ。ドラゴンのデカい姿で都に来たら、色々とヤバイだろ」

「じゃあ、マコトが行くまでは一人で山の中かよ」

「おう、割と暇でなあ、困ったもんだよ。宝を眺めるか寝るかしか無かったな」

「何年ぐらいだ?」

「百五十年ぐらいかなあ。まあ、他の生活を知らないから別に苦しくなかったけど、今、同じ生活しろと言われたら苦痛だろうな」


 それはまた、長い間、孤独に過ごしていたんだな。


 夜の街はすこし肌寒いな。

 俺とアダベルの足音がコツコツと響く。


「人の世界は楽しいのか?」

「楽しいなあ、良い奴ばっかりで楽しい」

「みんなが良い奴じゃないんだぜ」

「知ってる知ってる、というか、昔の私も悪かったしな」


 アダベルはにははと笑った。

 なんだかお人好しな感じのこいつが悪かった時代があったとは思えない。

 こいつは何でも良い方に捉えて、楽しんで生きているな。


 それはきっと、竜だからなんだろう。

 誰にも頼らなくていいぐらい強いからなんだろう。


「キルギスはいつもつまんなそうにしてるなっ」

「ああ……、そうかもな」

「なんでだ?」

「……人は生まれでいろいろと大変なんだよ」

「そうか、人間は群れを作る動物だからなあ。痩せた群れだと大変なのか」


 ……。

 その視点は無かったな。

 人の性根が腐ってるんじゃなくて、群れが痩せているだけなのか。


「キルギスは子供なんだから、他の子供と同じように笑って楽しめばいいぞ」

「なんだか不公平な気がしてな……」


 スラムで仲良くなった友達はみんな死んだ。

 師匠について殺しの技を覚えた俺だけが食べる事ができた。

 殺しの技でリンダに見いだされて壁の中に入れた。


「いいんだいいんだ、世界に不幸はあるし、幸運もあるから、きっと長く生きていけば帳尻が合うんだぜ、だから大丈夫だよ」


 まったく、マコトもそうだが、アダベルも適当な事を言って笑って。

 そして、俺はなんだかそれが正しい気がしてきて。

 それが怖いな。

 スラムから出て、俺はどんどん弱くなっている気がする。


「なやむななやむな」


 アダベルがわははと笑って俺の背中をバンバンと叩いた。

 まったく、脳天気な奴は苦手だぜ。


 ひよこ堂を通り過ぎ、学園の正門を通り過ぎた。

 学園の横は貴族街になっていて、大きい屋敷が多い。


 アダベルは門番に、やあと挨拶をして通用門を通った。


「それじゃ、俺はここで」

「一緒にご飯を食べないか? ガクエンチョも喜ぶぞ」

「俺みたいな奴と食べても美味くないだろ」

「そんな事ないさー、ガクエンチョは子供が好きだぞ」


 アダベルの言葉を聞いて門番が苦笑していた。

 魔法学園の学園長ともなれば堅い人に決まっている。

 俺なんかは嫌いだろう。


「うむ、良ければ一緒に食事を食べようではないか、キルギスくん」


 上品な初老の男性が玄関に出てきて俺たちに声をかけた。


「あっ、ガクエンチョ、ただいまーっ!! 今日は飛空艇に乗って神殿の孤児院の子とあそんでたーっ!」

「おう、そうかそうか、それはよかったね、アダベル」


 学園長はニッコリ笑って抱きついてきたアダベルの頭を撫でた。


「友達も出来た、ソフィアと、カーナと、レミリアと、あとキルギス!」

「そうかそうか良かったなアダベル」


 俺はもう、アダベルの友達なのか。

 なんだろうな、胸の奥が少し暖かくなる感覚は。

 孤児院の女子どもが親切にしてくれた時にも感じるこれは。


 なんだか、この暖かさが俺を弱くしてる気がする、だが、これを手放してはいけない気もする。

 これを離したら、俺は凄く強くなれるだろう。

 だが、強くはなれるが、悲しくて孤独な竜のような生き方をしないといけないのだろう。

 孤独な竜が人の世の中に入ってきて、ニコニコ楽しんでいるのに、俺は選択して孤独な竜の生活を送る。

 それはいやだな。

 と、不意にそんな事を思った。


 アダベルが引っ張るので学園長の家で夕飯を取る事にした。

 三人で食べる夕食だったが、アダベルのお陰で楽しかった。


 どういう訳だか、この舘でのアダベルの午前中の勉強に俺も付き合う事になった。

 学園長によると、一緒に勉強する相手がいると勉強がはかどるそうだ。

 孤児院の子で勉強をしたい子がいれば連れてきてもいいそうだ。

 女子とか喜びそうだな。

 あと、文官を目指している男子も。


 俺もまあ、勉強するに越したことはないしな。

 承諾の返事をすると、アダベルはとびっきりの笑顔を浮かべた。

 うん、まあ、悪くは無い。


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― 新着の感想 ―
[良い点] アダベルの微笑ましい描写が秀逸です アダベル自身を可愛く描くのもいいですし、 周りの視点や反応の描写がアダベルの魅力を輝かしてます
[一言] キルギス視点も面白いねっ!
[良い点] キルギス君も幸せにおなり
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