第44話 カロルと一緒に防御訓練
「では、素振りはこれまで、次は、防御訓練をします、好きな人と二人一組になってください」
好きな人ですか、そうですか。
なんだか自然に体が横歩きして、カロルの隣に来てしまった。
うん、好きな人だから。
「カロル、一緒にやろうよ」
「え、私はモーニングスターよ」
「将来的にいろんな武器と戦う予定だから」
「聖女は戦う職業ではないような気がするんだけど。まあいいわマコトにならぶつけても大丈夫そうだし」
「防御は完璧だよ」
私は魔法のバックラーを前に出した。
「いえ、怪我しても治療魔法あるし」
「うん、怪我は治す~」
そっちか。
「交互に、攻撃、防御をやってみてください。防御行動が解らない人は先生が教えますからね」
私はカロルと向き合った。
うーん、ロリ体型体操服にモーニングスターはロマンだねえ。
「お先に攻撃をどうぞ」
「はい、いくよう」
カロルの首を狙って短木剣を振る。
ジャリン。
カロルは両手で鎖を前に張って攻撃を受け止めた。
ああ、そうやって防御するのかあ。
「次は私ね、えいっ」
カロルは体全体を使って、モーニングスターを振り回した。
意外に早い。
ガッキーン。
魔法のバックラーが自動防御してくれた。
衝撃が結構くるね。
まともに当たると怪我は避けられないな。
「よし、交互にやっていこう」
「うん、わかったわ」
ジャリーン。
ガッキーン。
ジャリジャリン。
カーン。
カロルは色んな方向からモーニングスターを飛ばしてくる。
攻撃が早いし、上手いなあ。
でも、バックラーが自動防御だから楽に裁けるな。
「受けるの上手いね」
「魔法で自動だよ、カロルこそ上手く避けるね」
「慣れてるから」
ああ、冒険で銅色になるまで狩りに行ったんだっけ。
さすがカロル。
さすかろ。
「さあ、マコト、速度上げていくよーっ」
「どんとこいっ」
なんだか楽しくなってきたのか、カロルはきゅっと唇をつり上げて、モーニングスターをぶんぶん回しはじめる。
うん、私も楽しい。
「はいっ」
「おうっ」
ガーン。
「下切っ」
「うんっ」
ジャリーン。
「連続っ」
「了解っ」
ガガガンッ。
「切り下げ、切り上げ」
「わかったっ」
ジャリジャリーン。
いやあ、楽しい楽しい。
カロルの額に汗がうかび、頬が上気する。
かわいい、楽しい。
私の顔にも汗が流れる。
体を動かすのは楽しいな。
そうやって、限界まで速度をあげて二人でガンガンやっていたら、バッテン先生がよってきた。
「こらこら、防御訓練だよ、組み手はまだまだ後」
「えー」
「す、すいません、面白くなっちゃって」
「オルブライトさんのモーニングスターの扱いは上手いねえ、速度もあるし。魔法を補助に使ってる?」
「私はゴーレムコアを持っているので、鎖状の物はなんでも操れるんです」
「なるほど、どうりで振りが軽いと思った、それは便利だね」
カロルが腰につけたゴーレムコアをバッテン先生に見せた。
ゴーレムコアは卵ぐらいの大きさで、赤黒い宝石みたいな感じだな。明滅しておる。
なるほど、チェーン君の応用かあ。
「キンボールさんも、短剣上手くなってるね、練習したの?」
「いえ、なんとなく振ってますよ」
「才能だねえ、良い動きだったよ」
わーい、先生に褒められましたよ。
その後は、のんびりカロルとカンカンと防御訓練をしていた。
カトレア嬢の元気が無いなあ。
元気があるとうっとうしい奴なんだけど、元気が無いとこれはこれでまた心配だ。
「いってあげれば?」
「えー、あいつマイクーの妹なんだよ」
「いいじゃない、気になるんでしょ、マコト」
「しょうがないなあ」
カロルと分かれて、カトレア嬢に寄っていく。
「替わろうか?」
「え、でも」
カトレア嬢の相方のご令嬢に声をかける。
彼女は長剣だね、結構上手い感じ、騎士志望かな。
「私と防御訓練をやりませんか」
「は、はい、オルブライト様」
カロルが彼女を引き取っていった。
「一緒にやらない、カトレアさん」
「……ぐぬぬ、模擬戦っ! キンボールとの一対一の模擬戦を申し込むっ!! 魔法無しでっ!!」
「えーー」
「同じ人と連続で模擬戦は許可できないよ」
バッテン先生が寄ってきて、そう言った。
カトレア嬢は、心底絶望したという顔をした。
「同じ人じゃなければ良いんですか?」
「まあ、それなら良いが、ピッカリンさんと模擬戦が出来るぐらいの腕の生徒は少ないからなあ」
「模擬戦~」
どんだけ模擬戦が好きなのよ、カトレア嬢。
コイシちゃんが寄ってきた。
「わっしは、ピッカリンさんとやってみたいみょん」
「ああ、そうだね、コミンビッチさんとなら良い試合になるかもしれない」
「蓬莱刀術か……、面白いっ!! たたきのめしてくれるっ!」
うん、ちょっと元気が出たみたいね。
派閥仲間への疑惑とか、不信感なんかは、体を動かす事で忘れる、それが剣戟令嬢の本懐だよ。
私たち生徒は試合場の観客席へ、コイシちゃんとカトレア嬢と先生は試合場に上がった。
コイシちゃんは結構強いのかあ、カトレア嬢とどっちが強いかな。
カトレア嬢の独特な構えと対峙したコイシちゃんは木刀を正眼に付けた。
「模擬試合、カトレア・ピッカリン対コイシ・コミンビッチ、一本勝負、魔法無し、では、はじめっ!」
コイシちゃんは腰を沈ませてすり足でいく。
構えがカッチリしていて格好いい。
かなり強いな、コイシちゃん。
対するカトレア嬢は大上段だ。
大きくて豪快な構え方だね。
両者は、じわじわと間合いを詰める。
じりっじりっと間合いが近づく。
コイシちゃんの木刀の方が長い、が、カトレア嬢の方が上背がある。
あと半歩、で、両者の斬撃が届く間合いだ。
コイシちゃんが半歩すり足で間合いの中に入った。
その瞬間、カトレア嬢の斬撃がまっすぐ振り下ろされる。
コイシちゃんは重心移動でカトレア嬢の斜め横に前進し、そこから横に切り払う。
速度がすげえ。
カトレア嬢の切り落としの二倍から三倍の速度で、コイシちゃんは切り払いしておる。
なんとか、剣の峰で受けるカトレア嬢だが、さらにビュンビュンと二撃三撃が飛んでくる。
「うわー」
「速いね、それで足運びがいい」
カロルは目の付け所が玄人かよっ。
コイシちゃんは重心を落としたまま、ふわりふわりとすり足で左右に高速移動して、一カ所にとどまらない。まるで日本舞踊を見ているかのよう。
カトレア嬢は、必死に受けているが、攻撃が全く出来ない。
徐々に下がっている。
カトレア嬢がなんとか隙を見つけて上段からの切り落としをしたが、コイシちゃんはそれを避けない、木剣と木刀をすりあわせるようにして当てて軌道をずらし、さらに切り下ろす。
ガッチン。
「ぐあああっ!」
「あ、ごみん、入ってもうた」
小手に当たる軌道には見えなかったが変化させたのか、コイシちゃんの木刀がカトレア嬢の親指に当たったようだ。
実戦だと親指を切り落とされて戦闘不能だなあ。
「いかん、急いで医務室へ」
「必要ないです」
私は立ち上がった。
「あ、マコト、ポーション」
カロルがどこからかポーションの瓶を出していた。
「いらない、カロル、私がハイポーションだ」
「あ、そうだったね」
今の台詞は格好いい。
きっとカロルの胸にズキュンと刺さった事だろう。
うはははは。
「キンボールさんか、治癒魔法ができるんだったね」
「はい先生、まかせてー」
試合場に上がった私を、バッテン先生が歓迎してくれた。
カトレア嬢は背中を丸めてうめきながら痛みに耐えていた。
コイシちゃんはオロオロしている。
「手をだして、すぐ治すわ、『ヒール』」
親指が青い光に包まれると、目に見えてカトレア嬢の呼吸が静かになった。
だが、まだ涙は止まらない。
「まだ痛いみょん?」
コイシちゃんの問いかけに、カトレア嬢は黙って首を横に振った。
「に、二回も続けて、ま、負けてしまって、私は、私は駄目な騎士だ……」
「何いってんのよっ!」
私はカトレア嬢の背中をドンと叩いた。
「騎士が二回や三回負けたぐらいで泣くなっ、頑張って練習してまた戦えばいいじゃんっ」
「うううっ」
「それとも何よ、ピッカリンの騎士というのは、勝てる相手としか戦えないの? 勝てない敵と戦って、敗北から何回立ち上がったかが騎士の価値でしょうがっ」
「マコトしゃん、良いこというみょん」
「騎士の価値……」
「蓬莱刀術は、こっちの長剣術にはない方向からにょ攻撃が多いみょん、慣れないと対応できないみょんよ」
カトレア嬢は拳で目をぐいっと拭って立ち上がった。
「み、見苦しい姿を見せて、す、すまない」
「きにすんな」
「ピッカリンしゃんは強かったみょん、また立ち会って欲しいみょん」
「そうか……、コミンビッチさん、その」
「コイシでいいみょん」
「コ、コイシさん、その、わ、私と、お、お友達になってくれまいか、こんなに剣が強い女の子は初めてで、親しくしてくれたら、一緒に修練してくれたら、私は、もっと強くなれると思ったんだ」
「わ、私は北方の出だし、変なしゃべり方だみょん」
「そんなことは無い、コイシさん、か、かわいいし。私の事もカトレアで良いです」
「カ、カトレアしゃん、私もお友達がいなかったので、とっても嬉しいみょん」
によによ。
友情の生まれる現場は胸がほっこりするねえ。
君たちは、かわいいなあっ!




