第438話 王都の外で麻薬密輸馬車を発見する
ファンファンとプロペラが回転して蒼穹の覇者号は離陸し高度を上げる。
子供達は甲板で大喜びだ。
「甲板から落っこちないといいけど」
【マスターマコト、蒼穹の覇者号の甲板船舷にはバリアがあり、物理的に落ちません】
「そうだったの、それなら安心ね」
「バリア自体は切れるのかしら?」
カロルが脇机のミニエイダさんの映像に話しかけた。
【格納庫に入るときは切ります。甲板に人が出た場合にバリアを展開します】
なるほどね、基本的な安全装置なんだな。
蒼穹の覇者号の高度が百クレイドを越えた。
これよりも高い建物は魔法塔ぐらいだね。
あっちはまだ二十クレイドほど高い。
【警護騎士団へのルートを表示します】
ポッペンと音がして、ディスプレイのマップに赤い線で航路が描かれた。
「了解……、蒼穹の覇者号……、前進……」
エルマーがレバーを押し上げると蒼穹の覇者号は速度を上げた。
それでも最大速度じゃないね。
速度出すと王都をすぐ飛び越しちゃうから。
船が前進するたびに先の方のマップに赤い点が灯っていく。
たまに青の点もでるね。
「ふむ、裏路地に麻薬を持っている家が結構ありますね」
リンダさんがクレヨンで羊皮紙王都地図に書き込みをしていた。
下町に何カ所か、赤い点と青の点がある。
「これで、麻薬を持つ奴らを一網打尽できますね。ありがとうございます。聖女様」
「いいんだよ。頑張ってとっ捕まえてね」
「かしこまりました。聖女様のデビュタントまでには王都を清浄な空間に変えてみせましょう」
「が、がんばって」
別に私の為でなくてもいいんだけどね。
前方に警備騎士の本部が見えてきた。
建物の裏手に練兵場があるね。
騎士達の訓練場所が必要なので各騎士団本部には必ず練兵場がある。
「あれ?」
警備騎士団の本部は王都の東側にあるんだけど、王都の外の街道を動いてる光点がある。
色は赤と青と緑三点、その上にオレンジの光点まである。
「これは、密輸馬車かな?」
【覚醒剤、阿片、コカイン、そして銃を積んでますね。中型の幌馬車です】
「なんて大胆な……。ちがうわ、まだ取り締まりがあった事が伝わって無いのね」
カロルが光点を見てつぶやいた。
「よし、街道で捕まえよう、エルマー東の方に進んで」
「解った……」
エルマーはぐいっと舵輪を回した。
船体は緩いカーブを描きながら舳先を東に向ける。
せっかく掃除したというのに、また麻薬汚染されたらかなわん。
臨検して逮捕しよう。
蒼穹の覇者号はまっすぐ進み、王都の東門の上を飛び越した。
密輸馬車はゆっくり街道を進んでいる。
「エルマー高度を下げて、密輸馬車の目の前で止まって」
「む……、難しい……注文……」
【サポートいたします。出力を下げながら舵輪を押し込んでください】
「わかった……」
初飛行のエルマーに難しい事を頼んだけど、とりあえず馬車の前を塞ぐのが一番簡単だからね。
丁度昼下がりなので、街道の交通量は少ない。
蒼穹の覇者号は密輸馬車の前で高度を下げて停止した。
計器には一クレイドと表示されている。
御者が困惑したような表情を浮かべた。
私は伝声管を開ける。
「こちらは大神殿所属の蒼穹の覇者号です。その馬車に麻薬が積んである疑いがあります。止まってください」
御者が慌てて顔を左右に振って、まわりを確認した。
「エイダさん、魔導機関砲発射準備」
【了解です】
グワーーンチンと船首が開く音がした。
「警告します、逃亡を図ろうとした場合、魔導機関砲を発砲します」
私は武器管制操縦桿を引き出した。
ウインドウに射撃照準枠が出る。
ドガガガガガガ!!
魔導機関砲は狙い違わず、街道の脇の柵を粉々に吹き飛ばした。
「これは警告です、街道の脇に馬車を止めなさい」
御者は真っ青になりながら、馬車を街道の脇に止めた。
「エルマー、着陸脚を出して、こちらも路肩に止めて」
「わかった……。着陸脚……、展開……」
【着陸脚展開します】
ガチャオンと着陸脚が出る音がして、船体が微速で横に移動した。
さて、臨検だな。
「カロルとエルマーはここに居て、何か怪しい事があったら機関砲を発砲して」
「わかったわ、マコト、気をつけてね」
「こちらも……、注視する……」
私は船長席から立ち上がった。
リンダさんも立ち上がった。
「えーと……」
「行きますよ、当然ですよ」
当然なら仕方がないか。
やれやれ。
操縦室のドアを開けると、アダベルとキルギスがいた。
その後ろに子供もいっぱいいた。
「捕り物か、私を連れて行くんだ」
「アダベルは飛空艇と子供達を守っていてよ」
「む、そうなのか」
「そうそう、アダベルは強いから、任せると安心だわ」
「そ、そうかっ、うん、じゃあ、みんなを守るっ」
「おねがいね」
「わーったわーった」
よし、アダベルはちょれえ。
キルギスはどうするかな。
「キルギスもみんなを守ってよ」
「連れて行け、聖女、俺は役に立つ」
リンダさんが無言でボカリとキルギスの頭を殴った。
「言い方!」
「俺は役に立つから、連れて行ってください、聖女さま」
「よし」
よくねえよ。
「連れて行くべき?」
私はリンダさんに聞いた。
「こいつは将来聖騎士になりますからね、早めに調査の仕方とかを覚えさせても良いでしょう」
リンダさんはふんわり笑った。
ふむ、キルギスに結構期待してるのだな。
「わかった、でも奴らはこういう武器を持ってるかもだから気を付けるように」
私は収納袋からもう一丁のペッパーボックス銃を出してキルギスに見せた。
「どういう魔導具だ? これは」
実際に見せた方がいいな。
私とリンダさんとキルギスはタラップを下りた。
地面に下りた飛空艇の脇を荷馬車たちが興味深そうに通りすぎていく。
私は銃を構えて、木の柵に向けて引き金を引いた。
ズキュウゥゥン!!
……。
はずれた。
あれ、これ、命中率が凄く悪い? それとも私の腕が悪い?
「ここの筒から弾が発射されて飛んでいく仕掛けよ」
「ストーンバレット? か? なんでそんなつまんないカラクリを?」
「魔力使わないから感知されにくいでしょ」
「「あーあー」」
リンダさんと、キルギスが同時に納得の声を上げた。
私は銃身を回して次の弾の所に設置した。
さて、臨検だ。
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