第432話 麻薬捜査が終わり、集会室へ行く
実りの無かったポッティンジャー派の集会室訪問を終えて、階段を下っていく。
しっかし金がかかった部屋だったなあ。
蹴り飛ばしたテーブルも相当高いぞあれは。
ついカッとなってやってしまったが、弁償は勘弁していただきたい。
弁償になると最近の儲けが全部吹っ飛ぶな、きっと。
階段を降りる間にキンコンカンコンと終業の鐘がなった。
五時限目が終了したようだ。
十分休みで廊下がざわざわとしている。
一階まで降りた。
ちょっと広めにサーチするか。
だいたい学園の敷地一杯ぐらいまで。
サーチの魔法は水平方向に広がるように設定して発動しているのだけど、実は球状にも広げられる。
屋上からなら学園全体を包むようにも発動ができるんだ。
なんで水平方向に撃ってるかというと、立体的に感知するとどこで反応があったかわかりにくいからなんだな。
いつもは、わたしから上下一クレイドぐらいの幅で半径千クレイドくらいの円状に飛ばしている。
半径千クレイドを二千クレイドにすれば、学園全体を水平サーチできるってもんよ。
いつものように、人差し指と親指の間に単分子の光の輪を作り一気に拡大。
いつもより遠くへ。
カーーーーーーーーーーーーーーン。
この音はなんなのか知らないけど、脳内で鳴る。
音波じゃ無いから音はしないはずなんだけど、潜水艦のピンカー音みたいな音が鳴る。
発生を知らせるための音なんだろうと思うけど、詳しくは解らない。
この魔法は、マリアさまか、ビアンカさまが作ったんだと思う。
ひょっとすると、もっと古い光魔法なのかもしれないな。
あれ、変な所に反応があるな。
もう一度。
カーーーーーン。
学園の裏の林、その土の中、ちょっと掘った感じの所で覚醒剤反応がある。
患者が困って埋めたかな。
「学園の裏の林の中で、覚醒剤が埋められてますね」
「だれかが隠しましたか」
「たぶん」
「行ってみましょう」
校舎の玄関から出て、中庭経由で林を目指す。
メリッサさんが落とされた池も、そろそろ柵ができあがるね。
やっぱり柵が無いと危ないし。
林の中に掘り起こした跡があって、探ってみると錠剤が半分入った瓶が出てきた。
なんだろうね、捜査があると知って隠したのかな。
まあ、アンソニー先生に渡しておこう。
「これでだいたい終わりです」
「ご協力ありがとうございました、キンボールさん」
「いえいえ、教会としても麻薬は放っておけませんので」
「それでも助かりました。サーチの魔法は強力ですし、その場のキュアオールで麻薬の依存症を治すのも素晴らしい」
アンソニー先生に褒められてちょっと嬉しいね。
頬がゆるむよ。
ありがとうございます。
みんなで中庭を横切って校舎へと向かう。
なんか六時限目が始まったばかりで中途半端な時間だな。
校舎に入った。
「それでは私は職員室にもどりますね」
「お疲れ様でした」
「お疲れ様」
「お疲れ……様です……」
職員室方向に歩いて行くアンソニー先生を見ながら、私たちは顔を見あわせた。
「ちょっと時間が空いたわね」
「集会室でも行く? アダベルとお針子さんがいるし」
「いこう……」
校舎の中を通って、渡り廊下を使って集会棟へ行く。
155号室の前に来ると、アダベルのキャッキャと笑う声が聞こえた。
ドアを開けると、アダベルがクッキーをかじりながらお針子さんの一人とおしゃべりをしていた。
「お、マコト、カロル、エルマー! 良く来たな」
「もう、あんたの集会室じゃないでしょ」
「まあ、堅いことをいうな」
まったくアダベルは邪気が無くて生意気な事を言っても可愛いな。
こいつめ。
アダベルの頭をぐりぐりと撫でると、にはははと彼女は笑った。
「ダルシー、お茶を入れて」
「はい、かしこまりました、マコトさま」
アダベルが突然現れたダルシーを見て目を丸くしていた。
ダルシーはケトルを出して集会室の外に出ていった。
「なあ、マコト、あいつはどこから出てきたの?」
「さあ? なんだか視線をかいくぐって隠れてるみたいよ」
「すげえー」
チェストからクッキーの缶を出して開けた。
匂いを嗅ぎつけて抱きついてきたアダベルの口に一枚入れてあげる。
彼女はうっひょうと言いながらバリバリとかみ砕いた。
アンヌさんがテーブルにお皿を並べた。
「お針子さんたちも、お茶どうですか?」
「ありがとうさまでやす」
「いただきやす」
「聖女さまはやさしいなや」
お針子さんたちはドレスを縫う手を休めてテーブルについた。
カロルが私から缶をとって、お皿に二枚ずつ分けた。
「なあなあ、食べて良い? 食べて良い?」
「お茶が来るまでまちなさいよ」
「わー、わかったー」
アダベルは、待ちきれなさそうに椅子の上で体を前後にゆらしていた。
「まだかなまだかなー」
そんなアダベルを見て、お針子さんはくすくすと笑った。
ああ、集会室はのんびりとしていて良いねえ。
麻薬とか関係のない優しい世界だ。
ほっこりするね。
しばらくするとダルシーが湯気を立てているケトルと共に入ってきてお茶を入れてくれた。
アダベルは皆が食べ出したのを見て、クッキーを二枚一緒に口に入れバリバリと噛んだ。
もー、お茶と一緒にたべなさいよ。
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