第427話 三階には二十もの反応があって焦る
一年生の階が終わった。
次は二年生だ……。
「ビビアンさま居なかったよね」
「そうね……、確か火属性だったと思うけど」
ビビアンさまの話をしたら、ケビン王子が寄ってきおったぞ。
「ビビアンが火属性の実習室にいないなら、さぼってるよ」
「はあ?」
「なにしろC組だからね、午前も午後もちょくちょくサボるそうだ」
「いいの、公爵令嬢なのに」
「魔法も武道もビビアンは結構やるよ。領地で家庭教師についていたと聞いたね」
だからってサボる事無いだろう。
サーチする場所が増えたぞ。
「ポッティンジャー派閥の子と一緒にレストラン横の集会室にいるらしいね。社交の勉強をしていると言っていたが」
「王妃になろうというのに暢気にしてるんだなあ」
「学園の一年生の授業は中等学校の振り返りが多いからね」
やれやれだな。
ドニ先生と話をしていたアンソニー先生がこっちにやってきた。
ちなみにマクシくんは帰ってきたアンヌさんに連行されて代用監獄へと向かった。
アンヌさんお疲れ様です。
行ったり来たりだね。
実習室を後にして、廊下に出た。
「では、二年生ですね、がんばりましょう」
「なんだか見知った事情がヘビーで、お腹がいっぱいです」
「まあ、そう言わずに」
なんだかこの世の不幸を全部見たぐらいに気が滅入るよ。
特にリシャールくんは伯爵家に息子を守れなかったと理不尽な言いがかりを付けられて迫害される未来しか見えぬ。
やだやだ封建制は。
背中を丸めて階段を上がると、二年生の階だ。
そういや、オスカーをはめた親友というのは二年だよね。
自首してるよね?
これ以上オスカーの気を重くするなよなあ。
ナノサイズの光の輪を発生させて、サーチ。
カーーーン。
え、ええ?
十、十五、二十。
な、なんでこんなに反応が多い?
お、お?
一個一個の反応が小さい。
錠剤を一粒ずつ他人様の机に入れたのか。
ある教室だけだわ。
人の反応は、この階では二人だね。
びっくりした。
「小細工した患者がいますね、他の生徒の机の中に錠剤を一粒づつ入れています」
「馬鹿な事を、解らない人が間違って飲んだりしたら不味いです。まずは教室の錠剤を回収しましょう」
「そうですね」
案の定、錠剤がばらまかれた教室は二年のC組であった。
ダルシーも呼んで全員で机を開けて錠剤を回収していった。
大いに面倒臭い。
机の中からエロイラストとかを見つけてしまったが、見なかった事にしてあげよう。
羊皮紙に描く根性は良いのだが、ちょっとデッサンが甘いぞ。
さて、もう一度サーチ。
カーーン!
うん、反応は二人だ。
「先生、反応は二カ所です」
「行きましょう、キンボールさん」
一番近くの反応は風の実習教室であった。
アンソニー先生がドアを開ける。
「おや、アンソニー先生、どうしました」
「麻薬の捜査に来ました、リュパン先生。この教室に反応がございまして」
「本当ですか!」
リュパン先生、リュパン先生。
そういえばもみあげも長いしルパンっぽいね。
おフランスの名字だから同じ人もいるのね。
教室をみまわすと、ナッツ先輩がいて、こっちに小さく手を振っていた。
ナッツ先輩、風属性だったのか。
オスカーも居やがる、カロルを見つけてにこやかにしてやがるよ。
その近くに命令さんもいるな。
教室の中程にいる顔が四角い女生徒が私を睨んでいた。
私は彼女の前に出た。
「あなたから反応が出ています」
女生徒は立ち上がり、机を叩いた。
「ウソだわっ!! 何十もの反応があったのにどうして私と解るの!!」
……。
馬鹿、だな、こいつ。
「何十もの反応がある、と、知っている時点で、あなたの仕業と確定ですね」
彼女は目をみはると同時に私を突き飛ばして……。
突き飛ばそうとして、ダルシーに両手をつかまれた。
「薬が要るのよっ!! 薬が無いと私は勉強出来ないのっ!! あんたは何の権利があって私の勉強の邪魔をするのよっ!!」
「薬が蔓延すると、多くの善人が嫌な思いをするからですよ」
『キュアオール』
ダルシーに捕まった四角い顔の女生徒にキュアオールをかけた。
中毒はそんなに深くないね。
一発で治った。
「ああああっ……」
正気に返って、女生徒は顔を歪ませた。
ぷぷっと嘲笑の声がした。
それを聞いて、女生徒は顔色を変えた。
「なんで笑うんだっ!! 私が頭が悪いのがそんなにおかしいのかっ!! お前だってC組じゃないか、ケリー・ホルスト!!!」
女生徒は命令さんに怒鳴り散らした。
なんだよ、命令さんは風属性かよ。
「可笑しいわねえ、薬に頼らないとC組の成績を維持できないなんて」
うるせえよ、余計な事言うな、命令さんめ。
女生徒が激怒した顔で命令さんにつかみ掛かろうとしたのをダルシーががっちり止めていた。
「今度はダルシーが代用監獄につれていきなさい」
「かしこまりました」
嫌だーと大騒ぎする女生徒をダルシーがムリムリ引きずっていった。
もう、迷惑だなあ。
「お騒がせしましたリュパン先生」
「あ、ああ、いえ、アンソニー先生」
アンソニー先生は静かにドアを閉めた。
「相変わらず、ホルストさまは不愉快ね」
「まったく……」
「笑う事は無いと思うなあ」
どこに居ても困ったお人であるよ。
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