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第42話 本格的に女子寮食堂に朝食のお客さんが入りはじめまして

 二種のポリッジが煮えたので、コリンナちゃんと組んでカウンター業務であるよ。

 コリンナちゃんが下級貴族食のトークンをチェック、私が選んで貰ったポリッジを盛り付けて渡す係だね。


 下級貴族食は月に一度、寮費と一緒にまとめて払う。

 食費を払った証としてトークンメダルが貸し出されて、食事を貰うとき、それを見せるわけよ。

 四月のトークンは青、来月五月は黄色だね。


 早速、朝一番の生徒たちがやってきた。

 三人組の二年生だね、同じ部屋同士かな。


「ああ、またポリッジかあ」

「半分も食べられないからもったいないよね」

「でも、食費払ってあるしねえ」

「いらっしゃい、トークンを見せてください」


 三人組は眉を上げた。


「前はトークン確認とかしてなかったじゃない?」

「というか、生徒? アルバイト?」

「あー、トークンどこかな、あ、財布の中だ」

「責任者が替わったので、いろいろ変わったんですよ、先輩」

「えー、でも、あの塩からポリッジでしょう、どうせ」

「すっごく美味しくなりましたよ」

「「「うっそーっ」」」


 先輩たち信じてないなあ。

 三人ともトークンを出してくれたので、リクエストを聞く。


「塩ポリッジと、甘いポリッジがありますよ、どちらにします?」

「あ、金的さんだ。じゃ、じゃあ甘いの」

「わ、私は塩味にしようかな」

「甘いの甘いの、甘いのくださいな」


 甘いの二つに、塩味一つね。


「甘いのにはナッツか蜂蜜がかけられますが、どうします?」

「わ、私はナッツで、何これ、本当のお店みたい」


 いや、女子寮食堂は本当のお店ですよ。


「えー、塩味には何も付かないの?」

「ソーセージエッグが副食につきますよ」


 塩ポリッジの鉢の横に、ソーセージエッグの小皿を置いた。


「え、豪華でいいなあ、でも私は甘いの、蜂蜜たっぷり」


 リクエスト通りの物をカウンターに並べる。

 あと、サラダを三つ。

 これも、しなびたお野菜にヒールをかけて、パリパリシャンとさせてある。


「うおお、サラダが新鮮、はじめて」

「ああ、美味しそうな匂い、早くたべようよ」

「うんうん賛成賛成」


 お茶をつぐのも、もどかしげに先輩たちは席についた。

 そして、一口食べて歓声を上げた。


「「「おいしーっ!!!」」」

「なにこれなにこれ、本当のお店みたいに美味しいっ!」

「うわあ、塩ポリッジなのにしょっぱくないっ!!」

「甘い、美味いっ、あまうまっ」


 かっかっかっ、と三人とも偉い勢いで食べてますな。

 うんうん。


「美味しかったーっ! 明日は塩味食べようっと」

「サラダまでおいしかった、女子寮食堂はついに改心したのかっ!」

「明日もまた、甘々を食べよう、甘々」


 三人の先輩は容器回収口にトレイを置いた。


「金的さん、美味しかったよ、明日も美味しいの?」

「金的はやめて下さい先輩、マコトです。しばらくはずっと美味しい予定ですよ」

「そうかそうか、マコトさん、また明日ね」

「美味しかった、明日は甘いやつをたのむねー」

「はい、ありがとうございます」

「今日の甘々は、よい甘々だね、私は明日も甘々、また明日ね、マコトさん」

「はい、お待ちしています」


 私は、去って行く先輩三人に深々と頭を下げた。

 ナッツ先輩、塩味先輩、甘々先輩だな。

 マコト覚えた。


「うん、美味しいと言って貰えると、なんだか嬉しい、これが飲食業の醍醐味なのか」

「そうだよ、コリンナさんも、将来飲食業の会計に入っちゃいかがだい?」

「うん、考えておくわ」


 コリンナちゃんも飲食業の喜びに目覚めたようだ。

 うんうん。


 三人の先輩が食堂を出て行くと、入れ替わりのように生徒がぞくぞくと入ってきた。

 みんな早いなあと思ったら、部活の朝練に行く人たちのようだ。

 みんな一様に「美味しい」と歓声をあげてくれる。

 うんうん、いいねいいね。


 やっぱり甘々ポリッジが人気のようだ、昨日までの塩からポリッジの印象なのか、塩味ポリッジの出足は鈍い。


 そんななか、塩味を選んだ黒髪おかっぱの一年生が、テーブルの塩瓶から、大量のお塩をポリッジにかけていた。


「あれは、塩からポリッジ完食四天王の一人だわ」

「その四天王の二人は、私とマコトか……」

「その通りだよ、コリンナさん」

「しょっぱいの好きな子なのね」


 しかし、あんまり塩分を取ると病気になるよ。

 おかっぱさんは背も小さいので心配であるよ。


「あれは北の地方の出身だね」

「そうなんだ」

「北の方は野菜があまり取れないから、冬は塩漬けで保存した野菜を取るんだ、そのせいでしょっぱい物大好き民族になってしまうらしい」

「北方恐るべし」


 おかっぱさんが塩ポリッジを完食して、食器返却口へトレイを持ってきた。


「美味しかったみょん、押し麦かえたん?」


 見事な北方なまりだなあ、おかっぱさん。


「はい、今日から変えましたよ」

「ほんでは明日も美味しいみょんね、うれしやうれしや」

「いっぱいお塩入れてましたね」

「すまんにゃあ、うちんとこの領、貧乏でにゃあ、痛んだ押し麦は塩辛うして食べるんみょん。そのせいで、なんやポリッジは塩が利いてないと食べた感じがせんみょん」


 痛んだ押し麦を塩辛くして食べるのは北の風習だったのか。

 メリサさんか、エドラさんが、北方の出身なのかもね。


「甘いポリッジもありますので、試してくださいね」

「甘いのにゃあー、うちの家、朝から甘いもの食べる習慣が無いみょんよ、明日も塩ポリッジを楽しみにしてるみょん」


 そう言って、おかっぱさんは笑って去っていった。

 家や地方によっても、食文化は色々なんだねえ。


 食堂がざわついたので見てみると、エステル先輩とユリーシャ先輩、あとメリッサさんが来ていた。


「いらっしゃい、下級貴族食トークンを提示してください」

「ない」

「ないですわ」

「はい、トークンです、コリンナさん」

「メリッサさんは、マコトに注文を入れて下さい」

「私はやっぱりナッツ入りね、マコト様、甘いポリッジでナッツを入れてください」

「メリッサさん、ナッツ好きよねえ」

「大好きなんです、ひよこ堂のパンも、ナッツドーナツが一番好きですっ」

「はい、ナッツ入り、熱々だからゆっくりたべてね」

「はいっ!」


 メリッサさんは嬉しそうにトレイを持って、テーブルに向かった。


「トークンを持ってない人は現金払いで、五百ドランクとなります」

「はい、コリンナくん」

「ありがとうございます、エステル先輩」

「塩ポリッジもあるのかあ、塩にしようかな」


 エステル先輩、昨日、甘々ポリッジを食べたしね。


「あら、お財布が無いわ」

「こちらでーす、おじょうさまー」


 ミーシャさんがゆりゆり先輩にお財布を渡した。

 ゆりゆり先輩はお財布から小銀貨五枚を出してコリンナちゃんに渡した。


「はい、エステル先輩の塩と、ユリーシャ先輩の蜂蜜入り甘ポリッジです」

「お、ソーセージエッグ付きかあ、良いね」

「おいしそうですわ」


「ミーシャさんはどうします?」

「え、わたしはメイドなのでー」

「あら、忘れていましたわ、これ、ミーシャの分ですわ」

「まいどありー」


 ゆりゆり先輩はミーシャさんの分の五百ドランクを、コリンナちゃんに渡した。


「おじょうさまー、メイドはしつむちゅうに、しょくじはとれませーん」

「今日は特別よ、良いから頼みなさい、聖女候補さまの手作りで縁起がいいわ」


 いや、私は作ってませんけどね。

 でも、言いませんけどね。


「わーい、うれしいですー、では、しおポリッジをおねがいしまーす」

「はい、ありがとうございます」


 塩ポリッジとは、見た目に寄らず大人っぽいな、ミーシャさん。


 先輩方はテーブル席に自分のポリッジを運んで、食べ始めた。


「おいしいですねー、おじょうさまー」

「ええ、おいしいわね、ミーシャ」

「昨日までの美味しく無いポリッジが嘘のようです」

「うん、味わい深い味だね」


 好評のようですなあ。

 よしよし、これでお賃金も期待できそう。

 お賃金お賃金。



 列にマルゴットさんが並んでいた。

 見ると、上級貴族席にヘザーさんがいて、笑って手をふってきた。


「甘いポリッジを一つおねがいね」

「ヘザー先輩の分ね、私が出すことになってるわ」


 コリンナちゃんへ、お財布から五百ドランクを渡す。


「まいどありー」


「マルゴットさんも食べない? お世話になってるからおごるよ」

「そう? じゃあ、お嬢様に配膳をすませたら、いただくわ」


 マルゴットさんは、いそいそとヘザー先輩に配膳した後、蜂蜜入り甘ポリッジを注文してパクパク食べていた。


「おいしかったわ、また明日もいい?」

「ヘザー先輩と同じ条件で五日間おごりますよ」

「マコトは太っ腹ね、そういう所が好きよ」


 私に投げキッスをして帰っていきおった。

 マルゴットさんは、諜報メイドなのにお茶目な人だなあ。


「マコト、コリンナおはよー」

「きたね、カロル」


 カロルがアンヌさんを連れてやってきた。

 やあ、あたりにぱっと花がさいたみたいだね。

 カロルは可愛いね。


「トークンは無いね、五百ドランクだよ、カ、カロル」


 コリンナちゃんはまだカロルを呼び捨て慣れてないなあ。


「アンヌの分もだから、千ドランクね」

「お嬢様……」

「いいのよ、聖女さまのポリッジだから縁起物なのよっ」


 まあ、私は作って無いけどね。

 そして、当然言わない。


 カロルはお財布から大銀貨を一枚出して、コリンナちゃんに渡した。


「カロルは塩ねー」

「塩ポリッジ作ってくれたのっ、わ、ソーセージエッグ付きなの、お得っ」

「まあ、普通の値段だよう、アンヌさんはどうする?」

「あ、甘いので、ナッツを入れてください」

「はいよう」


 カロルとアンヌさんの分をちゃっちゃとよそって、カウンターに出す。

 慣れてないのか、カロルは回りの人のやり方を観察してお茶とかついでいる。


「おいしいわね、アンヌ」

「はい、お嬢様、甘いのも美味しいです」


 カロルにも好評のようだ、良かった良かった。

 朝ご飯は一日の活力の源だからね。

 しっかり食べましょうぞ。


「美味しかったわマコト、明日もまたくるね」

「うん、待ってるからね」

「ごちそうさまでした」


 アンヌさんが食器をまとめて、容器回収口に置いてくれてた。


「じゃあ、また後で、教室で」

「うん、またあとでねー」


 カロルとアンヌさんは食堂を去って行った。

 喜んで貰って良かった。



 七時半ぐらいになって、お客の入りが増えた。

 この時間が朝食のピークっぽいね。

 朝ご飯の時間は八時までだから、後三十分だね。

 忙しい忙しい。

 甘々ポリッジが少なくなってきたぞ。


「エドラさん、甘々ポリッジ追加、ええと」

「三十食ぐらいだね」

「了解したよ、やれやれ、こんなに朝ご飯が混むのはいつぶりかねー」


 エドラさんは、大鍋にミルクを入れてコンロにかけた。


「今日はこんなもんだが、明日はもっと混むな」

「もっと?」

「あの塩からポリッジが美味しくなったんだ、噂になるし、試しに食べようという客がくるね」

「五十食足しかな」

「甘々五十、塩二十、計七十食足しにした方が無難」

「そんなに」


 コリンナちゃんの顧客分析が光り輝くのであった。

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― 新着の感想 ―
[良い点]    美味しいものを美味しいと食べる  女の子達は可愛いですね    ソーセージエッグ付きはやっぱりお得だと  思います(*´艸`*)  明日はどんだけ売れるかな  楽しみ楽しみです  
[一言] 食事が美味しくなって良かったですね~ いつも楽しみにしてます。最近一日に二話投稿されるので幸せです! 大変な時勢ですが、頑張ってください! 応援してます!
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