第421話 壁新聞の蒼穹の覇者号特集を読むのだ
みんなでわやわやと喋りながら登校する。
日差しが暖かいね。
玄関に入ると壁沿いに人だかりがしていた。
おお、壁新聞が更新されたかな。
人混みをかき分けて前に出るとやっぱり壁新聞が新しくなっていた。
しかも、今回は三枚であるよ。
「おお、格好いい」
蒼穹の覇者号の綺麗なイラストがトップに載っていて、思わず声を出してしまったよ。
かなり精密に描いてあって各部の説明が書いてある。
見出しに『聖女候補の飛空艇、蒼穹の覇者号特集』と書いてあって、私が飛空艇を探すきっかけになった関税十五倍事件から記事は始まっていた。
古文書などを頼りに王都近隣のダンジョンを探し、深層の隠し部屋で見つかったと書いてあった。
いやあ、キリリと引き締まった良い記事だねえ。
あのイケメン部長の文章かな。
すごく読みやすいね。
しかし、このイラスト良いなあ。
掲示が終わったら譲ってくれないかな。
額装して集会室に飾りたい。
二枚目と三枚目はイラスト入りで、ランチクルーズの記事であった。
操縦室、客室、ラウンジ、甲板と紹介をして、お料理、そして飛空艇からの王都の景色とかいろいろ魅力的に紹介していた。
「いいわねえ、私も飛空艇に乗りたいですわ」
「王都上空でランチクルーズは素敵ですわあ」
「どこに申し込めばよろしいのかしら」
「わかりませんわね」
おっと、ランチクルーズに乗りたいお客さんが結構いるね。
だが、お昼が忙しくなるから、新入生歓迎ダンスパーティが終わってからだな。
お金を取ってたまにやりましょう。
お申し込みはコリンナちゃんまで。
「マコトさま、どうですか、我が新聞部、渾身の記事は」
新聞部のレイラさんが後ろから声を掛けてきた。
えっへんという感じにドヤ顔をしている。
「素晴らしい記事だわ、レイラさん。一枚目の文章は部長さんかしら」
「ええ、部長の文章力は凄いでしょう。私は三枚目の文章を書きました」
「レイラさんの文章も表現力があって凄いですね」
「ありがとうございますっ」
レイラさんはとても嬉しそうだ。
「あのあの、聖女さま、次のランチクルーズはいつですの。是非申し込みたいですわ」
「デートに使いたいのでディナークルーズを企画してくださいませんか? 王都の夜景を見ながらデートしたら、私の彼もイチコロですわ」
「あはは、今の所は未定ですよ。新入生歓迎ダンスパーティが終わったら企画をしますから」
「マコトさま、広告を出すなら、魔法学園新報にお任せください、格安で広告枠を押さえますよ」
壁新聞に広告するのもありだなあ。
「その時はお願いしますね、レイラさん」
「はいっ、お任せくださいっ」
しかしディナークルーズか、女子寮食堂のスタッフが使えないなあ。
余所のレストランから頼むかな。
でも、イルダさんのお料理は美味しいしなあ。
考えものであるよ。
壁新聞の次の号は月曜日か、その時にでもあの格好いい蒼穹の覇者号のイラストをゆずって貰えないか聞いて見よう。
みんなで固まって校舎の中を行く。
だんだんと人が別れていき、A組に入った時にはカロルと私とカトレアさんとコイシちゃんだけであった。
「おお来たか、キンボール。早速だがマダムエドワルダを寄越せと近衛騎士団長が突き上げてきている、どうする」
「……。無視しなさいよ、ジェラルド。近衛なんか要人警護は上手いかもしれないけど、捜査は本職じゃないでしょう」
まったく開口一番、ウザい事を言いやがるな、このイヤミメガネは、
「だが、近衛騎士団にも面子が……」
「ダガン子爵を尋問しなさいよ。なんでもかんでも手柄を独り占めにするのは良くないわ」
「おはよう、キンボールさん。エドワルダ夫人は教会が尋問したいのかい?」
ケビン王子も寄ってきおった。
「おはようございます、ケビン王子。大教会には地下に牢もありますし、なかなか部外者も入れませんから。王宮は人が多すぎますし」
「解った、近衛騎士団長にはこちらから話を通しておくよ。昨日はありがとうね」
ケビン王子はにこやかに笑った。
「そうだ、キンボール。これを」
ジェラルドが羊皮紙の書類を渡してきた。
「なにこれ」
「お前の領地になるホルボス村周辺の行政区分図だ。ホルボス山は火山だから硫黄が採れるそうだぞ」
「ありがとう」
硫黄かあ。
火薬の原料の一つだけど、いらんな。
湯ノ花でも作るかな。
机に行政区分図を広げると、カロルとエルマーとケビン王子とジェラルドがのぞき込んできた。
「ホルボス山全体が領地なのね」
「そこそこの……、広さだ……」
飛空艇が出撃する谷も領地の中だね。
村は一つだけか。
「王都から近いから、馬でも行き来できるし、野菜も作っているらしいよ」
「教会の保養施設を作ろうかしらね。温泉も出るのよ」
「それは良いね。王家の皆で行こうかな。最近聖女の湯の元のおかげで一家みんながお風呂好きになったよ」
王家がきれい好きになるのはなによりだね。
でも、ロイヤルファミリーはくんな。
施設のグレードを高めないといけないじゃないか。
「代官はケーベロスにやらせるのか?」
「コリンナちゃんは学校があるからなあ」
「うちの領で信頼できる文官をだしましょうか?」
「カロルの家の文官かあ。それも良いね」
「何だったら、王家でも文官を出せるぞ」
「うえー、王家の紐付きは勘弁だなあ」
「あはは、ジェラルドは相変わらずだね」
「こまったら……、クレイトン侯爵家からも……、出せる」
「お養父様にも聞いてみるわ。これはキンボール家に下賜されるの?」
ジェラルドは首を振った。
「いや、マコト・キンボール聖女候補への一代領地だそうだ」
一代領地というのは、個人に送られる領地で、貰った人が死んだら国に帰るやつだ。
この褒美が良いのは、さらに恩賞を与えるときに、永代領地に代えて、実質二回恩を売れる所だね。
「そう、まあ、良いわ。私が死んだら関係ないし」
「キンボールさんは欲が無いよね」
「あと、騎士爵位か男爵位を授けても良いとおっしゃられていた」
「いらなーい。払う税金増えるし」
「まったく、お前と言う奴は」
ジェラルドが苦笑した。
爵位というのは、名声や地位が上がるのだが、結構税金も増えるのだ。
キンボール男爵分家が出来ると、国に収める税金は倍になるわけよ。
あと男爵家なら軍備は要らないのだけれど、子爵に上がると地位に合った家臣も揃えないといけないしね。
出世も良い事ばかりじゃないんだよ。
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