第418話 マダムエドワルダを大神殿に置いてくる
快速馬車は走るよ~。
王都をガラガラと走るよ~~。
揺れるし音がうるさいので眠れないよ~~。
乗り心地が悪いよ~~。
カロルとエルマーとマダムエドワルダが青い顔になってきたので、ヒールをかけてあげた。
そりゃ、車酔いにもなるよな。
自分にもかけたらスッとした。
酔いかけていたようだ。
「ありがとうマコト」
「寝たいならアナスかけるけど?」
「いいわ、麻薬感知器の回路を考えなきゃ」
「しかり……」
「あまり根をつめないでね、後でサーヴィス先生に相談すれば良いよ」
カロルはしかめっ面をした。
珍しい表情だから目新しくて可愛い。
「光魔法のデータベースを参照する回路にすごく魔力が必要なのよ」
「参照しなきゃいいじゃん」
「え、でも参照しないで感知とか出来ないわよ」
「三種類だから少量の現物を松ヤニとかの樹脂に詰めて参照すれば良いんじゃない」
「あ!」
「お……!」
カロルは慌てて羊皮紙を開いた。
エルマーがそれをのぞき込んだ。
カロルの手にいつの間にかアバカスが現れて、早い速度でバチバチやっている。
エルマーは羊皮紙の余白で筆算を始めた。
私は『ライト』を唱え、小さな光球を二人の上に浮かべた。
「松ヤニは耐久性が悪いわね、ガラスだわ」
「麻薬を……、ガラスに……、吹き込めば……、良い……、長持ちする……」
「魔力は持ちそう?」
「等級……、がいる……、が……、市販の……、光魔石で……、可能だ……」
カロルとエルマーは満面の笑みを浮かべた。
「できそうだわ、マコト。ありがとう」
「どういたしまして」
二人とも技術者で良いなあ。
「出力は、三種類の色のライトとブザーね」
「合理的……」
サーチの魔導具じゃなくて、オプチカルアナライズの魔導具だね。
できれば、一回の走査で馬車全体ぐらいをカバーしたいね。
等級の高い光魔石は値が張るが、王家に出させれば良いね。
サーヴィス先生に監修して貰って、そのあと錬金印刷して生産すれば必要分は揃いそうだ。
馬車は大神殿前で止まった。
「では、行きますかマダムエドワルダ」
「お世話になります」
ドアを開けると、リンダさんが居て、ステップを展開してくれていた。
「あ、ありがとう」
「いえいえ」
ステップがあると階段みたいに馬車から降りられるのよ。
私は大抵、えいやと飛び降りるんだけどね、淑女はステップを使う。
マダムエドワルダも優雅に下りてきた。
「マダムエドワルダを大神殿で収監してください」
「ふむ、明日、近衛が怒ってやってきそうですね」
「ロイド王子には話を通しておくよ、ポッティンジャー派閥の暗殺が怖い」
「解りました、尋問は?」
「そちらも進めてください、マダムエドワルダ顧客リストなどは?」
「ありません、全て記憶しております」
「解りました、ではこちらへ。サイラス!」
「ははっ!」
騎士団の中からサイラスさんが現れた。
「ご婦人を一号監獄へ、丁重に扱え、今回の騒ぎを収拾する鍵だ」
「かしこまりました、さ、こちらへ」
マダムエドワルダは私の前で歩を止め、深く頭を下げた。
「私のような価値の無い罪人に暖かいお心使い、ありがとうございました」
「あなたが居なかったら、つまらない罪で破滅する善人たちが出るわ。自分の利益のために動いたクズは破滅して良いけれど、善人はできるだけ救いたいの。協力してね」
「かしこまりました、全力で捜査に協力いたします」
マダムエドワルダはサイラスさんの先導に静かについて行った。
「純粋に薬で楽園が来ると、信じ込んでいたのですね。哀れな」
「山高帽のやった事をすべて焼き尽くす。リンダさんも協力してね」
リンダさんは、おやというように眉を上げた。
「私は未来永劫、聖女さまの僕ですよ。言われるまでもありません」
優雅にお辞儀をしたリンダさんを置いて私は馬車に乗り込んだ。
「では、よろしくね」
「はい、よろこんで」
前世の飲み屋の店員ですかあなたは。
リンダさんがドアを閉めてくれて手を振ってきた。
私も小さく振った。
なんだか、すごく満足そうな顔をしておるな。
「今日は一日が長かったわね」
「もう十時だね。疲れたけど、多分学園に戻ったら、ロイド王子と警備騎士団がまだいるわね」
「そうね」
「つかれた……」
今日は飛空艇でランチクルーズしたり、王宮捜査したりで疲れたな。
ガラガラと快速馬車は学園に向かってひた走る。
お、実家前だ。
さすがに灯りは消えてるね。
パン屋は朝が早いから。
さっくりと快速馬車は学園の馬車溜まりに着いた。
ドアを開けて飛び降りる。
「んもう、すぐ飛び降りるんだから」
「いいじゃん」
私はカロルの為にステップを広げてあげる。
「今日はありがとうね、トマスくん」
「あ、ありがとうございます聖女さま。光栄です」
御者をやってくれたトマスくんをねぎらう。
彼の名前を思い出したのは、さっきというのは秘密だ。
「おかえりー、マコトっち」
「おかえり、マコト」
黒塗りの馬車から、ロイド王子とカーチスが現れた。
「ただいまー、ロイド王子、カーチス」
「マダムエドワルダは?」
「大神殿に置いてきたよ。こっちでガードするから近衛には上手い事言っておいて」
「むー、近衛騎士団長怒るだろうなあ」
「怒らせておけば良いのです。王宮よりも大神殿の方が安全かと思われます」
「君もそう思うかい、ギヨーム団長」
「王宮は多数の下働きが動きますからな」
そう、『塔』の安全も確保できてないし。
王宮地下牢獄の安全も怪しいものだ。
「今日はありがとう、マコトっち」
「マダムエドワルダの証言でやばい事に気がついたわ」
「なになに?」
「貴族の奥様は麻薬禁止の通達を聞いていない可能性があるわよ」
「「あっ!!」」
ロイド王子もギヨーム団長も想定外だったようだ。
「盲点だったなあ、当主が麻薬をやって無くても、妻子がやってる可能性があるのか」
「ビエロン子爵夫人が、知っていたら必ず自首をした、禁制の薬だと知っていたら手は出さなかったと言ってたよ。手心を加えてあげてよ」
「そうだな、通達が届かなかった場合は考慮に入れよう」
「助かるわ、ずいぶんショックを受けて泣いてたから」
「子供は助かったのかい?」
「ええ、間に合ったわよ」
「知らないとは怖いことですな」
ギヨーム団長が髭をひねりながらしみじみと言った。
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