第417話 オデット夫人と家令さんに色々説明する
案内されたのは一階の応接室であった。
ソファーが高そうだなあ。
私はマダムエドワルダの隣に座り込んだ。
向かいにオデット夫人と家令さんが座り込む。
騎士さんは、夫人を守るように後ろに立った。
「麻薬は量を間違えると急性中毒症状を起こして死にます」
「「!」」
「さっきは危ないところでした」
「奥様、また薬をっ!」
「え、でも、心地が良いのよ、健康にも良いらしいし」
「ですが、値段も高く、財政を圧迫しております」
「へ、平気よ、我が領の税金を上げればいいわ」
マダムエドワルダは真っ青な顔をして立ち上がり、頭を深く下げた。
「オデット、ごめんなさいっ! あの薬は私が思っていたような楽園をもたらす薬じゃなかったのっ!」
オデット夫人は目を丸くした。
「う、ウソよ、エドワルダ、あなた、あんなに私に良い物って勧めていたじゃない」
「い、依存性が高いらしいの、それで、薬が切れると地獄のような苦痛が発生するわ。詐欺みたいな薬なのっ!!」
「な、なんなのっ!! そんな危ない薬だったの!!」
「ですから、私が何度もお止めしましたっ」
なんか、オデット夫人も家令さんも大事な事を知らないみたいだなあ。
「あの、麻薬をやっていた貴族は王府に名乗り出ないと厳罰って話は伝わってませんか」
オデット夫人は立ち上がった。
「なにそれ、知らないわっ!! そんな事聞いてないっ!!」
「もしや、旦那様の方に通達が……」
「旦那様は今日は?」
「一昨日から領地の方へ行っております」
子爵位の貴族なら通達は行ってるはずだけど、奥さんが麻薬をやっていたとは知らないから教えて無かったのか。
「近衛に捕まったら普通に爵位没収もありえますよ」
「ああ、ああっ!! なんてことなのっ!! エドワルダッ!! あなたのせいよ、どうしてくれるのっ!! 酷いわっ!! 長年の親友に対して何という仕打ちなのっ!!」
「ごめんなさい、オデット、私もさっきまで知らなくてっ、聖女さまに教えて貰ったの」
「どうしてくれるのっ!! 歴史在るビエロン家が廃絶されてしまうわっ!!」
「い、いえ、ビエロン家廃絶までは、最悪の場合ですが、奥様を離縁する事でなんとか」
「なんてことを言うのっ!! 私は離縁されるの? スワンにも二度と会えないの、そ、そんなのあんまりだわー!!」
オデット夫人は大粒の涙をこぼし、オイオイと泣いた。
これは、アレの影響だな。
私はテーブルに左手をついて体を伸ばし、オデット夫人の額に右手を当てた。
『キュアオール』
そんなに量はやってないな。
オデット夫人の瞳孔が開いた。
コカインだと瞳孔が針のように細くなるのよね。
「落ち着きましたか?」
「はい、聖女さま……」
「とりあえず、捜査責任者のロイド王子に話を通しておきます。通達を聞かなかったけれども、聞いていたら自首した、で、よろしいですね」
「おねがいします、おねがいします、こんな恐ろしい薬だなんて知らなかったんです。ああ、あああっ」
オデット夫人は涙を流した。
「コカインを回収します、全部出してください」
「は、はい、お待ち下さい」
オデット夫人は慌てて部屋を出て行った。
若い騎士さんが夫人が去って行った方を見てため息をついた。
まずいなあ、夫は通達を聞いているが、嫁が麻薬をやっていたとは知らないケースが出てきそうだ。
王都のあちこちの貴族家庭で騒乱が起こりそうだなあ。
うへえ、いやだいやだ。
オデット夫人が硝子瓶に入った白い粉末を持ってきて、私に差し出した。
サーチして見る。
カーーーン。
うん、コカインの反応は私の手元だけ、覚醒剤反応も無いし、阿片の反応もない。
私はコカイン瓶を収納袋に入れた。
「それでは失礼しますね。夜分遅く申し訳ありませんでした」
「あ、ありがとうございます、聖女さま、あなたはスワンの命の恩人です。本当になんとお礼を言っていいか」
「本当にありがとうございました。後の事は明日帰ってまいります当主と相談して解決したいと思います」
オデット夫人と家令さんがペコペコと頭を下げた。
親友であったマダムエドワルダの方は一瞥もしない。
それはそうだよなあ。
二人に送られて私たちはビエロン子爵邸を出た。
マダムエドワルダは馬車の前でしゃがみ込んだ。
顔をくちゃくちゃにして泣いている。
「が、学校の頃からの、親友だったの、本当に、仲良しで、も、もう、二度と会えない……」
ああ、辛いだろうなあ。
私が間違って、カロルと二度と会えなくなるような物だ。
気持ちは解る。
だが。
「涙を拭いて立ち上がりなさい、あなたは泣く権利も無いのよ、ただただあなたが麻薬を売った事で迷惑を掛けた人の被害をなんとか少なくするしか償う方法はないわ、気持ちを引き締めなさい」
「はい……」
マダムエドワルダは涙を拭いた。
さすがの私も、こんだけやらかした人間をどうやって許したらいいかわからないよ。
まったく、自分の事しか考えてない悪党だったら良かったのになあ。
悪党だったら、『塔』に尋問を頼んで終わりだし。
なまじっか純粋な人だからたちが悪い。
「次はどうしますか」
御者台の聖騎士くんが声をかけてきた。
「マダムエドワルダを大神殿で収監します。いいわよね」
「はい……」
「かしこまりました。確かに口封じが怖いですね」
「そういう事。そのあと学園に送ってね」
「かしこまりました、もちろんですっ」
すまないね、聖騎士くん、残業させちゃって。
快速馬車の戸を開けると、カロルとエルマーが羊皮紙を間において熱く語っていた。
「いえ、ここは光魔法のデータベースにコンタクトしないといけないブロックだから、もっと魔力がいるわ」
「しかし……、これ以上……、だと……、回路が……、持たない……」
「迂回路が……、あ、マコトおかえりなさい」
「おかえり……」
「ただいまー」
マダムエドワルダと共に快速馬車に乗り込んだ。
「子供はどうだった」
「なんとか助けたわよ」
「よかった。で、なんで浮かない顔なの?」
「これから巻き起こる貴族家庭の騒乱に心を痛めてるのよ。凄い事になりそう」
「麻薬は大変ね」
「まったくよ」
私はため息をついた。
馬車は大神殿に向けて走り始める。
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