第416話 子供を助けに小型馬車で急行する
中流貴族街の石畳の道を小型快速馬車は軽快に走っていく。
舘をマダムエドワルダと二人で走って後にして、警備騎士団と聖騎士団の馬車の中で一番速度が出せる物と言って、勧められたのがこの馬車だ。
馬車は四人乗り、馬は二頭立て、少し小さいので取り回しが良くて早い。
ただ、あまり乗り心地は良くない。
馬車の中は、私と、マダムエドワルダと、カロルと、エルマーでぎゅうぎゅうである。
マダムと二人で行くと言ったら、カロルとエルマーがムリムリ付いて来た。
まったく心配症だな、二人とも。
「ほっとくとマコトは無茶苦茶をするから」
「そうだ……」
「な、なんだよう、人の考えを読むなよう」
「わかりやすすぎるから」
「そうだ……」
ちえっ。
読心能力者には勝てないな。
マダムエドワルダはうつむいて沈んだ表情をしている。
そりゃ、自分の堅い信念がひっくり返されたら、そんな顔にもなるでしょうよ。
私は窓の外を見る。
がっくんがっくん馬車は揺れるが、その分早い。
魔法街灯が飛ぶように過ぎ去っていく。
もうすぐ、ビエロン子爵邸だ。
この家の若奥さんのオデットさんが子供にコカインを吸わせると言ってたらしい。
ちなみに、麻薬をやっていたのは奥方だけで、旦那さんはやっていない。
女性だけの麻薬患者ネットワークもあるみたいだね。
お茶会や夜会で広がったらしい。
「ビエロン子爵邸です」
「ありがとう」
私がドアを開けて御者をやってくれた聖騎士さんにお礼を言うと、彼はイヤイヤと言って頭をかいた。
この小型快速馬車は教会の聖騎士団の物だ。
私が下りるとカロルも下りてこようとした。
「カロルは待ってて」
「私も行くわ」
私は収納袋から羊皮紙を出してカロルに突き出した。
「な、なによ」
「エルマーと一緒に麻薬感知の魔導具を設計してちょうだい」
「……」
カロルはじっと羊皮紙を見つめた。
お、迷ってる迷ってる。
「これから会うのは子爵夫人よ、危険は無いわ」
「わ、解ったわ、麻薬感知の魔導具を設計するわよ」
よしよし、技術者の気を引くには設計を頼むに限るぜ。
カロルは羊皮紙を受け取ってしぶしぶ馬車の中に戻った。
エルマーが馬車の中で手を上げた。
奴もやる気のようだ。
「さあ、行きましょうエドワルダ夫人」
「はい……」
屋敷には大門の横に通用門があってノッカーを叩くと、庭にある小屋から若い騎士が現れた。
「なんですか。あ、エドワルダ夫人、どうなさいましたか、ずいぶん遅い訪問ですね」
「オデットに急ぎの用なの、開けてくださいまし」
若い騎士は通用門の鍵を開けた。
「奥様はまだ起きてらっしゃいますよ。家令に訪問を伝えますね」
「よろしくおねがいね」
「はい」
若い騎士は私の姿を見ていぶかしげな表情を浮かべたが、そのまま屋敷に入っていった。
まったく貴族の訪問は面倒臭いな。
「あ、家令の案内を待たないと無作法ですわ」
「急ぎなのよ、子供が死んだらどうするの」
家令なんか待ってられるか。
私は屋敷のドアを開いた。
渋い顔をしながらもマダムエドワルダは付いて来た。
「あ、なんですか? 無礼なっ、そんな礼儀がありますかっ」
品の良い初老の家令さんがずかずか家の中に入ってきた私をとがめた。
「大急ぎなのっ!! 奥さんはどこ?」
「あなたは? え、聖女さま? どうしてこんな夜分に?」
「答えなさい! 急ぎなのよっ!」
「お、奥様は寝室でございますが」
「マコトさま、二階の東翼ですわ」
私はだだだと廊下を走った。
エントランスの洒落た階段をだだだと駆け上がる。
東はこっちか。
「反対がわですわ、そっちは西翼です」
階段を上がりながらのマダムエドワルダに突っ込まれた。
私は踵を返して反対側の翼へ走る。
ダダダダダ!
一番奥の部屋からおっとりとした感じの垂れ目の夫人が現れた。
「なんですの、騒がしいですわよ」
「オデット夫人ですねっ! もうお子さんにコカインを吸わせてしまいましたか?」
「え? あ、エドワルダ、この子は誰なの?」
「それが……」
「答えろっ!! 最悪子供が死ぬぞっ!!」
「え、あ、あの、先ほど吸わせましたわ、とても幸せそうになって……」
「子供の居る場所は!!」
「こ、こちらの子供部屋……」
私は子供部屋のドアを開けた。
中は真っ暗だった。
『ライト』
光球を打ち込み中に入る。
ベットで女の子が寝て居た。
汗をかいて痙攣している。
はあはあと荒い息をついていた。
ヤバイッ!!
『ヒール』
まず麻薬を無効化する。
息が静かになった。
『キュアオール』
青白い光が頭を包むと、子供は安らかな表情になった。
ふう。
子供の目が開いた。
「聖女さま……、どうして?」
「こんばんは、お名前は?」
「スワンよ、どうして? 年越しのお祭りでも無いのに」
スワンちゃんはふんわりと笑って、そう言った。
「スワンちゃんが良い子だから特別に会いに来たのよ」
「そうなんだ、うれしい」
「もう、遅いから寝なさいね」
「うん」
スワンちゃんは目を閉じた。
『アナス』
沈静魔法をごく軽くかけた。
私はスワンちゃんの布団を直して、髪の乱れをすいてあげた。
――あぶなかったね。ゆっくりお休みね。
私はスワンちゃんを起こさないように部屋を出て静かにドアを閉めた。
廊下に出ると、オデット夫人と、家令さんと、騎士さんがこちらを凝視していた。
「スワンちゃんは寝てますから、どこか離れた部屋でお話しましょう」
「は、はい、なんですの? いったい?」
「ご説明しますから」
「では、こちらへ」
家令さんが私を誘った。
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