第415話 マダムエドワルダを懲らしめる
マダムエドワルダは両手を挙げ陶酔した表情を浮かべている。
シャンデリアの魔法灯がシャリリリリと音を立てた。
何も起こらない。
「どうして?」
マダムエドワルダは憮然とした表情で地下室に続くドアを見つめた。
「水の匂いがしない?」
下の方から微かに水の匂いが立ち上がっていた。
「……まさか」
「地下室は水没してるわ、導火線は途中で消えたと思うわよ」
「ど、どうしてっ!!」
「秘密、伊達に聖女候補を名乗ってないって事。ダルシー、腰の後ろの銃を奪いなさい」
ダルシーがマダムエドワルダの後ろに現れて銃を奪った。
「なっ!! どこからっ!」
「ダルシー、組み伏せて」
「かしこまりました」
ダルシーはマダムエドワルダの腕を取り関節を極めてダアンと床に倒した。
私はダルシーの差し出す銃を受け取り収納袋に入れた。
「舌を噛んでも治すからね」
「なぶりものにするつもりなのっ! 殺しなさいっ!」
「そんな事はしないよ。マダムエドワルダ、あなたは薬を切らした事はあるの?」
「な、無いわ。ディラルさまが沢山下さったから」
「禁断症状に苦しむ人を見たことは?」
「あるわ、でも薬を渡せば……」
「薬は高いのよね」
「ディラルさまの楽園の時代を作るには沢山の資金が必要で……」
「違うわ、あいつの目的はお金よ」
「そんな事は無いわっ!!」
「マダムエドワルダ、あなたの脳から薬の成分を飛ばします」
「!」
「そうよ、禁断症状と同じ状態を作るわ」
「や、やめてちょうだい……」
「禁断症状を味わった後、麻薬が楽園を作る薬だとまだ言えるなら、あなたを解放してあげるわ」
「……そ、そんな酷い薬のはずは無いわ、禁断症状も楽園が来て薬が潤沢になれば皆に行き渡って対策は必要なくなるのよ」
「馬鹿ね、楽園が来たら、あいつが肥え太るだけで薬は依然として高いままよ。どんな金持ちも資金が尽きて破滅よ」
「……」
マダムエドワルダは怯えを含んだ目で私を見た。
「楽園なんて無いわ、どんな物にも代償があるのよ」
私は脳内でヒールのターゲットに阿片の成分を思い浮かべた。
ヒールを漫然とかけると広範囲に効果が発動するが、ターゲットを決めると、その成分のみが消え失せる。
『ヒール』
青白い光が私の手から発生してマダムエドワルダの額を包み込んだ。
私は彼女から離れた。
ダルシーも関節技を解き姿を消した。
マダムエドワルダは真っ青な顔色になった。
額から顔から大粒の汗が浮かび上がった。
ぶるぶると震える。
「こ、こんな、こんなっ……、あ”あ”あ”っ」
脳細胞が欠乏した阿片の成分を欲しがり誤動作をする。
それが禁断症状の正体だ。
マダムエドワルダは体をゆらして獣のように唸った。
「うそよっ!! こ、こんな事ってっ、苦しいっ、苦しいっ、た、助けてっ」
彼女は床をのたうち回る。
禁断症状の苦しさで見栄も外聞も無い、ただ傷ついた獣の様にのたうち回る。
いきなり立ち上がり走りだそうとしたので足を払って床に転がした。
「どこに行こうというの」
「に、二階っ! 行かせてっ! 阿片を! 阿片を吸わないと! 気が狂ってしまうっ!! アアあっ!!」
「これがあなたの楽園の薬の禁断症状よ」
「助けて、助けてくださいっ!!! お願いしますっ!! 阿片を下さいっ!!」
私は、彼女と同じ症状だったのに、他の人を先にやってくれと言っていた三年生の事を思いだしていた。
あの人は凄い人だったんだな。
麻薬を貰うために私を襲ってきたボリス君や、大工さん三人組の顔が浮かんだ。
楽園を阻止する悪魔と思い込んで私を撃ったダガン子爵の顔を思い出した。
「この苦しさから逃れる為に中毒者は何でもするのよ。それこそ何でも。あなたは何人もの人生を破壊してきたのよ」
マダムエドワルダは悲鳴を上げ続け返事をしない。
これ以上は無駄だな。
彼女に報復したいわけじゃないし。
『キュアオール』
彼女の表情が緩んだ。
だが、脳の損傷はまだ残ってる感じだ。
『キュアオール』
もう一回。
『キュアオール』
マダムエドワルダの脳を完全に治療した。
彼女は荒い息を吐きながら呆然と腰を抜かしていた。
「こ、こんな、こんな……」
ぶわっと彼女の両目に涙が湧き上がり、ぼろぼろと頬を涙が伝い下りた。
「簡単に脳が破壊される上に、治せるのは私しかいないわ。治療薬も無いのよ」
「そんな、そんな、ディラルさまは禁断症状なんかたいした事は無いって……」
「あいつは麻薬を食って無いんだから、誰が禁断症状で苦しもうと、あいつにとってはたいした事ないわよ」
「そんな、そんな事が出来る人間がいるだなんて……」
「あなたはそんな悪魔の甘言に乗って沢山の人に麻薬をばらまいたわ」
マダムエドワルダは驚愕の表情を浮かべた。
「こ、殺してください! 私を殺してくださいっ!! わ、私はなんて恐ろしい事をっ」
私は彼女の頬を打った。
パアン!!
「死んで楽になろうとか許さないからねっ! あんたは全部の情報を吐きだして薬を売った全ての人を救う義務があるんだっ!!」
マダムエドワルダは顔をゆがめた。
そして子供のように声を上げて泣いた。
綺麗なタイルを張ったダンスフロアに何度も何度も額を打ち付けて泣いた。
マダムエドワルダが顔を上げた。
「大変だわっ!! 友達が、友達が子供に今晩コカインを与えるって言ってたわっ!」
「ばっ、馬鹿じゃないのっ!! どこの誰っ!!」
子供に麻薬とか頭がおかしい。
急いで治療しないと!
最悪急性中毒で死ぬぞっ!
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