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第413話 聖女サーチでオダン邸を偵察する

 そろそろエドワルダ・オダン女子爵邸の近くに馬車はさしかかった。

 窓を開けて、御者さんに声をかける。


「そろそろ止まってください」

「かしこまりました」


 今回の馬車は警備騎士団の物で御者さんも警備騎士さんだ。

 彼は手綱を引いて、馬車を止めた。

 なかなかの腕前だね。


 私は馬車の扉を開けて、道に下りた。

 道の先、遠くに森に沈み込むようにオダン邸が見えた。

 窓に灯りが灯っている。


 みんなもぞろぞろと下りてきた。

 ちょっと肌寒いね。

 私の服は冬用の聖女正装だから少しましなんだけどね。


 後続の馬車も次々に止まり騎士たちが下りてきた。


「あそこですか、ちょっと行ってたたき切ってきて良いですか」

「リンダさん、死んだ容疑者は麻薬ルートも吐かないし、共犯者の情報もくれないんですよ」

「そうですか、世俗というはややこしいですね」


 リンダさんはふんわり笑った。

 ったく、有能の癖に無能を装うのが好きなんだから。

 私の前以外ではリンダさんは温厚で有能だ。

 たんにじゃれついて来ているだけなのよね。


 とりあえずサーチで近場の状況を確認しよう。

 なんとなく、私を守るように、みんながまわりを囲んでる感じだな。

 ありがとう。


 人差し指と親指の間に一分子の細さの光の輪を作る。

 一瞬でそれを二千クレイドの大きさに拡大する。


 カーーーーン。


 私の脳の中に光が通過した場所の情報が3Dグラフィックみたいに浮かび上がる。


 辺りの森に伏兵は無し。


 屋敷の近くに伏兵は無し。


 屋敷の中、中央の広間に女性が一人居て、長椅子に腰掛けてお酒を飲んでいる。

 執事、メイド、下働き、料理人、馬丁、馬、全て居ない。

 女性が一人だけだ。


 屋敷の向こうの森にも伏兵はいない。


 ……、本当に一人で待ってるな。


 なんでまた?

 なんだか不自然だ。

 なぜ、下働きの人間がいない?

 夜会を催すには多数のスタッフが必要なはずだ。

 執事、メイド、料理人。

 夜会は多数の人間で動かす機械みたいな物だ。


 今はマダムエドワルダとおぼしき女性だけが静かにワインを飲んでいた。


 なんかあるな。


「どうだ?」

「舘には女性が一人、おそらくマダムエドワルダだね」

「伏兵は?」

「居ないね」


 舘に向けて歩き出す。


 敵の思惑が解らないなあ。

 あんな手紙を出したという事は、軍隊が急襲してもおかしく無いと思うはずだ。

 女性一人でどうするつもりなんだ?


 マダムエドワルダは、この国の貴族の女性として当たり前にアップルトン魔法学園の卒業生だ。

 成績は良い方だったらしいが、冒険者経験も軍の経験も無いし、凄い魔法使いだったという話は聞いていない。

 普通のマダムであるよ。


 解せん。

 もう一度サーチをかける。


 カーーーン。


 ペッパーボックス拳銃が一丁ドレスの後ろに隠してある。

 私をおびき出して射殺?

 いや、なんか不自然だな。


 ん? 違和感。

 ドレスの懐に、さらに何かを持ってる。


 カーーーン。


 特定、着火石。

 この世界のライターだな。

 火の魔石に簡単な魔法陣を刻みこみ、スイッチ回路に魔力を当てると火がでる。

 魔石の魔力が尽きると捨てる。


 アヘン用?


 アヘンの成分を乗せてサーチ。

 二階にアヘンの反応がある。

 水煙草だな。

 あれは熱源に炭を使うから不自然では無い……。


 黒色火薬でサーチ。


 カーーーン。


 ビンゴ!

 紙で巻かれた導火線が部屋を横切ってドアの下を通り、階段を降りて行ってる。


 角度を変えてサーチ。

 地下のサーチは苦手だけど、光分子が入り込める穴があればたぐれる。


 おおうっ。

 地下室に黒色火薬が入った樽が一杯だな。


 私は足を止めた。


「どうしたの?」

「罠が解ったよ」


 軍が攻めて来たら、舘にできるだけ引き込んで自爆。

 私だけだったら、自爆。

 なるほど、狂信的だね。


 さて、どうする?


 水の分子を乗せてサーチ。


 カーーーン。


 舘の裏に池があるな。


「カロル、土魔法で溝は掘れる?」

「出来るわよ」

「迅速に」


 カロルはチェーン君をスカートから出現させた。

 彼女は手を軽く振って地面に一直線にチェーン君を伸ばした。


『トレンチ』


 チェーン君の伸びた所に一瞬で溝が掘られた。

 おおお、魔法の誘導体にチェーン君の鎖を使ったのか。


「舘の向こうに池があるの、そこから溝を切って地下室を水没させたい」

「水は……、まかせろ……、動かす……」


 おお、そうか、エルマーは水魔法の達人だったね。

 忘れてた。

 二人が組めば潅漑用水路がすぐ作れるな。

 農業に便利。


「俺は俺は?」

「火は、今、ぜんぜん欲しくない」

「だめかー」


 私は振り返った。


「護衛ですか?」

「お願いできますか、リンダさん」

「聖女さまのお申し付けでしたら、なんでもいたしますよ」


 リンダさんは優雅にお辞儀をした。


「では、カロルとエルマーは舘を回り込んで地下室に水を引いて」

「解ったわ、任せておいて、マコト」

「まかせろ……」


 カロルが舘に鋭い目をやった。


「銃に使われる火薬?」

「それも五十樽ぐらい」

「どうなるんだ?」

「爆発するよ」

「「「「!」」」」


 この世界の人は火薬の事を知らないが、洞窟でのガス爆発や火山由来の水蒸気爆発は知っている。

 カロルは錬金術師だから爆発物も作れるし。

 あと、火系の魔法の最上位ぐらいに爆発魔法があったはず。


「樽……、だと……、水が……入らない……、のでは……」

「火を誘導させるために蓋が開いてるから入るよ」

「サーチの魔法は本当に掟破りだな。敵の計画が丸見えだ」


 まったくね。


「自分も爆発するのに、覚悟の上なのかしら」

「たぶんね。地下室に水が入ったら、私が一人で会いに行く」

「あぶねえぜ」

「銃を持ってると解れば大丈夫。暴発させられるし」

「一対一で会いたいのか」

「そうよ」

「解った、俺らは舘の外で待つ。やばい感じだったら外まで逃げてこい」


 バチン。

 カーチス兄ちゃんの腰に差したホウズが勝手にちょっと抜けた。


われを連れてはいかんのか』

「今回は子狐丸で行く。ホウズはまた次ね」

『うむ、武運を聖女マコト』

「ありがとうホウズ」


 カチンとカーチス兄ちゃんがホウズを納剣した。



 カロルとエルマーが小走りで道を行く。

 少し遅れてリンダさんも行く。

 あちら方向に敵性存在は無い。

 狐が一匹、兎が三匹だけだ。


 彼らが地下室を水没させて、戻ってきたら、突入だ。

 懐中時計を確かめると、八時二十分。

 もうすぐ約束の刻限だ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] あっ、危ねぇ!捨身の大爆発かよ!?マコトさんは割といつも命の危機に遭うですね。。。よく気付きましたね、グッジョブです〜
[良い点] カロルちゃん(錬金術師・ゴーレム使い)とエルマーくん(魔法使い)とリンダさん(剣士) 即席だけど高火力パーティー。 ウォーターカッターで建物に穴も開けられるし。 [一言] 使用人を逃す理性…
[一言] 使用人も巻き込んでふっ飛ばそうと考えてれば成功してたかも知れないのに、なんで導火線とか使っちゃうかな マコトを誘い込んで自身が地下にワインでも取りに行く振りして地下で自爆してれば厄介勢を纏め…
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