第412話 エドワルダ・オダン女子爵の屋敷へ向かう
夜である。
馬車溜まりにカンテラを掲げた馬車が続々と集結してくる。
聖騎士団の馬車に比べて警備騎士団の馬車は音が静かだね。
聖騎士と警備騎士が競うように下りてきて私の前で並んだ。
「来ましたよ~~、あなたのリンダです」
「来ましたか」
「聖女正装は年越し祭ぶりですね。素敵です」
「あ、ありがとう」
ちえー、リンダさんが来おったかー。
「お呼びいただき光栄であります、聖女様」
「派遣要請を受けていただき感謝いたします」
警備騎士団のギヨーム団長も現れた。
この前と偉く違うなあ。
まあ、いいか、偉いさんと仲良くなって損は無いしね。
「ギヨーム団長、目標の家について調査は済んでいるか?」
「は、ロイド王子」
ギヨーム団長が地図を出してきた。
暗いのでランタンで照らしているが見えにくいね。
『ライト』
光球を頭上に打ち上げて辺りを照らす。
「これは明るいですな、助かります聖女さま」
「いえいえ」
「エドワルダ・オダン女子爵の屋敷はここですな」
私もロイド王子の横から地図をのぞき込んだ。
貴族街のはずれだね。
子爵邸にしてはかなり広いな。
回りは森で囲まれている感じだ。
「人物は洗ったか、ギヨーム団長」
「はい、ロイド王子。エドワルダ夫人は十年前にオダン子爵と死に別れ、爵位を継ぎました。八年ほど前から夜会の主催を始め、上品で行き届いた夜会と評判になり高位貴族を中心に人気を集めております。派閥は国王派ですね」
「どこでポッティンジャー派閥と繋がったかな。やはり山高帽の仕込みか」
「とりあえず、国王派の人気夜会主に麻薬ルートが食い込んでいたのは問題ですな」
ギヨーム団長が人ごとみたいに言っているのは、貴族の取り締まりは警備騎士の縄張りじゃないからだね。
貴族の取り締まり、告発は基本的に近衛騎士団の仕事なのだ。
いろいろと縄張りがあってややこしいよね。
ちなみに魔法絡みの犯罪は魔法塔が仕切る。
担当治安組織が複数あってややこしいのもアップルトン王国の問題であるよ。
警察作って、全部そこに押し込めれば良いんだけど、利権とかあるからね。
ちなみに、教会関係の犯罪は大神殿に裁判権がある。
めんどくさいねえ。
「とりあえず、屋敷の近くで待機して、私がサーチで偵察してから対応を考えましょう」
「そうですな、聖女さまのサーチ魔法は素晴らしいですから」
ギヨーム団長はよいしょしてくるようになったな。
まったく調子がいいな。
『よし、殴り込みだな! エッケザックスやリジンのように、今回は我を使うのだろうな、マコト!』
「あ”?」
『王都を破滅させようという毒婦を両断するのだろう! 聖剣の出番であろう、聖女マコトよ!』
「状況しだい、というか対人戦にホウズは威力が強すぎるよ」
『ず、ずるいぞっ! 次の順番は我、そうなっておるっ!』
「あー、考えておくよ」
私はカーチスの腰に差されたホウズの柄を持ってガチンとはめた。
まったくうるせえ聖剣だ。
魔王とかでてこない限り、お前の出番なんかねーから。
「たまにはホウズも使ってやってくれよ」
カーチス兄ちゃんが苦笑しながら言った。
「三クレイドの光魔剣を振り回す場面なんかなかなか無いんだよ」
「まあなあ」
「今の所、対人だとリジンが使いやすいし、対竜だとエッケザックスだし。魔王が出てきたら使うよ」
「しばらく出番が無さそうだなあ」
「ホウズが静かに眠れる世の中が平和で一番素晴らしい時なんだ」
「たしかにな」
カーチス兄ちゃんは抜けそうになったホウズの柄を押さえ込んだ。
「マコトッち、一緒の馬車に乗ろうよ」
「そうね聖女派閥はみんなで乗ろうか」
大型の馬車に、私、ロイドちゃん、カーチス兄ちゃん、エルマー、カロルで乗り込んだ。
御者さんが「ほーい」とかけ声をかけて手綱を慣らすと、ゆっくりと馬車は動き始めた。
「どんな人かしらね、マダムエドワルダ」
「とても気品があって機知もある淑女らしいね、オルブライトさん」
「毒婦なら良いんだけどなあ」
「どうして……?」
「悪党なら懲らしめるのに抵抗がないじゃない、エルマー」
「それも……、そうか……」
カーチス兄ちゃんがニヤリと笑った。
「荒事になるか? 敵騎士団がお待ちかねとか」
「ポッティンジャー派閥じゃないから騎士団は出てこないでしょう。出せるとしたらごろつきかな?」
「スラムの殴り込みには参加出来なかったからな、腕がなるぜ」
「何らかの罠が仕掛けてあると思うけどね」
夜に一人で来い、というのはそういう事だろうけどね。
どんな罠を張っているのやら。
まあ、リンダさんが居るから、どんな剣豪が出てきても対処できるけど。
狙撃は夜だから無理だろうし。
伏兵かな。
でも、さすがに、私が一人でのこのこ出てくるとは思って無いだろうし。
私だったらどうする?
うーーん。
考えていても結論は出ないなあ。
現場でサーチして考えよう。
夜の王都を聖騎士の白い馬車と警備騎士の黒い馬車が駆けていった。
気温は少し寒い。
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