第40話 朝から忙しく働く私とコリンナちゃん
朝だあ。
メイドさんの起きてくる気配で目をさます。
私も起きないと。
んー、替えの制服はチェストの中だな。
カロルの貸してくれた制服は、カリーナさんが昨晩、持っていってしまった。
洗って、アイロンを掛けてアンヌさんへ返してくれるそうだ。
申し訳ない。
ベットのカーテンを開けると、メイドさんたちがお着替えの真っ最中である。
マルゴットさんはおっぱい結構あるなあ。
カリーナさんも意外に巨乳だ。
「おはよう、マコト起きたかい」
「おはよう、カリーナさん、マルゴットさん」
「おはようー、ねむいわ」
「あんたはいつも眠そうだね」
「大人の女には、いろいろあんのよー」
ごめんねマルゴットさん、余計な仕事を増やしちゃって。
「マコト、制服にはアイロンを掛けておくからね、あんたのチェストの上に置いておくよ。男の人の上着も一緒に」
「ありがとう、カリーナさん、悪いなあ」
「なに言ってんだい、下着とか洗うもんあったら、さっさと出しなよ」
「たすかりますー」
昨夜は、カリーナさんに、卒業するまで洗濯してもらう契約を結ばされてしまった。
顔見知りにドロワースとか洗われるのは、ちょっと恥ずかしいんだけどさ。
そんなに恩にきなくていいのになあ。
私が制服に着替えていると、コリンナちゃんが起き出してきて着替えだした。
「コリンナちゃん、早いね、目がさめちゃった?」
「私も食堂にいくわ、マコトは詰めが甘いから」
「え、悪いよ、それに、コリンナちゃんは料理はできないでしょ」
「ふん、やっぱり解ってない。とりあえず連れてって、そうすりゃ解る」
ん? なんだろう。
まあ、新しい職場に道連れがいると心強くはあるけど。
さあ、コリンナちゃんと一緒に、食堂へ出勤だっ。
食堂から登校するため、鞄も持っていくぜ。
パタパタと階段を降りて、一階は食堂のロッカールームである。
ドアを開けると、メリサさんと、四人のスタッフさんが居た。
「おはようございますっ、今日から食堂の責任者兼下働きの、マコト・キンボールですっ、よろしくおねがいします」
「お、おはようございます」
「……」
返事をしてくれたのはメリサさんだけかあ。
まあ、スタッフの人にとっては得体の知れない女生徒だしなあ。
いきなり責任者と言われても困るかな。
「イルダさんはどうなるんですか? 打ち首ですか」
「急に来て責任者って何よ、あんた誰?」
「お給料は? 払ってくれるんでしょうねっ」
「素人が調理場に来られても困るな」
いっぺんに言うなや、おまいら。
「だまれっ!! 飲食業の基本はまず挨拶っ!! 挨拶してから喋れっ!!」
私が、テーブルをバンと叩いて怒鳴ると、スタッフさんたちは黙った。
「「「「は、はじめまして」」」」
「挨拶の後は自己紹介っ! 私はマコト、キンボール男爵家の養女よ、その前はパン屋の娘をやっていたわ」
「ジョイアです、ストーブ番をやっています。マコトさまは、パン屋さんだったのですか、全然素人という訳ではないのですね」
ジョイアさんは、気が弱そうで、おどおどした女性だ。
ストーブ番だから、焼き物、揚げ物をする人だね。
「エドラだよ、スープ番。あんた、ひよこ堂の娘だね、聖女候補になったっていう」
エドラさんは太ってる、気が強そうな感じの女性だ。
主にスープやシチューを担当する人だね。
「そうだよ、舎監生のエステル先輩に頼まれて、しばらく食堂の責任者になったの、でもキッチン業務は初めてだから、現場では下働きをするわ」
四人は、ほおという感じに眉を上げた。
「ソレーヌ。ソース番。お給料は? 私は、支払いがあるから遅れると困るわ」
ソレーヌさんは痩せていて背が高い中年の女性だ。
ソース番は味の決め手になるソースや、オードブルを作るポジション。
「それは私がやるよ、コリンナ・ケーベロス、男爵家で、文官の卵だ」
「文官さんですか」
なるほど、私の詰めが甘かったか。
コリンナちゃんは優秀だな。
「メレー。パティシエだよ。パン屋の娘ならパンが焼けるね、焼きたてパンを食事につけたら喜ばれるんじゃあないかい?」
メレーさんは、目が細い、にこやかに笑っているように見える人だ。
パティシエは、デザートを作るポジション。
上級貴族食の晩餐には、必ずデザートが付くからね。
下級貴族食には、なにも付かないけど。
「パンはおいおい焼いていきましょう」
実家に行って酵母を取ってこないとパンは焼けないし、後回しにしよう。
「そうしておくれ、出入りのパン屋の態度が酷くてね」
「他の仕入れ業者の態度も酷いし、品物も良くないわさ」
「そこらへんも改善します」
メリサさんが前に出た。
「メリサです、副料理長です」
副料理長だったのね、あのポリッジの美味しさも納得だな。
コリンナちゃんがメリサさんの前に出た。
「食堂の帳簿を出して、あと、金庫の鍵、全員の雇用契約書を出して欲しい。チェックして検算する。金庫の中身を調べて、仕入れと賃金が払えるか確かめる。私も授業があるから、手早くやりたい、残務したら、放課後にまた来る」
「わ、わかりました、ありがとうございます、コリンナ様」
「ありがとう、コリンナちゃん、来てくれて助かったわ」
「ふ、これからよ」
「え?」
これから、まだ文官向けの問題があるの?
「まずは、私とコリンナちゃんに三角巾とエプロンをください」
メリサさんが、さっと出してきた。
ぱっぱと身繕いをして、コリンナちゃんにも着せてあげる。
「朝ご飯の準備をしましょう。上級貴族食はイルダさんの決めておいたメニュー通りに」
「「「「「かしこまりました」」」」」
「下級貴族食はポリッジです。甘い物と、塩味と二つ作って、希望によってよそってあげてください」
「あ、甘いのは無理だよ、押し麦が……」
「エドラ、材料は良い物になったのよ」
「ほんとうかいメリサさん、見せておくれ」
ポリッジは、スープ番のエドラさんと、副料理長のメリサさんが担当かな。
「甘い物には、蜂蜜か、ナッツのトッピングを希望者につけてあげてください。塩味には、ソーセージエッグの副食をつけます」
「下級貴族食だってのに、贅沢だねえ」
「市井の料理屋で五百ドランク出せば、それくらいは普通に付くよ。貴族の女子寮の食堂が平民の物より貧しい食事をだしてどうするんだ」
コリンナちゃんが吐き捨てるように、ソレーヌさんの言葉に反駁した。
「そりゃまあ、そうだね、すいません、コリンナ様」
「これまでのやり方は忘れなさい、マコトの目的は、ちゃんとした価値のある食事を、女子寮食堂で出す事だよ」
「ありがとう、コリンナちゃん」
マジ助かるな。
コリンナちゃん、マジ天使。
「舎監生のエステルさまや、副舎監のユリーシャさまも、下級貴族食のポリッジを食べに来ますので、張り切って作ってくださいね」
「なんだってえ、公爵さまのお嬢様や、侯爵さまのお嬢様も食べに来るのかい? これは腕がなるね」
「食数は五十食程度でいいかしら?」
メリサさんが聞いてきた。
「百食、客の出足によってはもっと追加する」
「え、そんなに出る? コリンナちゃん」
「馬鹿だなマコトは、聖女候補の作るポリッジだぞ、試しに食べたがる奴がいっぱいだ。女子寮の噂の早さをなめんな」
「上級貴族食を召し上がってらっしゃるお嬢様が、ポリッジを食べたいとお願いされたら、どうしましょうか?」
「下級貴族食を申し込んで無い奴らは、辺境伯だろうと、侯爵だろうと、現金払い、それが一番手間がないわ。カウンターでの徴収は、私がやるから」
これかあ、私の詰めが甘い部分は。
現金客とその徴収の手間とか、考えてもいなかったよ。
さすがはコリンナちゃんだぜ。
さすコリ。
「さあ、それでは作業にはいりましょうっ!」
「「「「「はいっ」」」」」
食堂スタッフたちは良い返事をして、厨房に散っていった。
さて、私もお賃金の為に働こうっ!
お賃金お賃金、私、お賃金の為なら何でもするわ。




