第399話 放課後にアンソニー先生にたいそう褒められる
謁見の間から廊下に出た。
とりあえず三階をサーチする。
カーーーーン。
うむ、特に反応は無い。
というか、三階は武具倉庫と食堂だけかと思ったら、謁見の間と広間があるな。
先に説明されていた施設と違うな。
「この階の大広間で新入生歓迎ダンスパーティがあるの?」
「そうだとも、新入生歓迎ダンスパーティと卒業記念ダンスパーティは王宮の三階で行われる」
「そうなのか、学生を学園から移動させるのが大変そうだね」
「三階まで赤い絨毯で動線を作って控え室に入れるらしいぞ」
そうかあ、準備が大変だね。
「三階は他に患者無しだよ」
「そうか、では四階の王族の生活の場だな」
「一度帰る。そろそろ授業が終わる」
私は廊下に飾られた時計を指さした。
「ええっ、あと二階分ではないかっ!」
「放課後、学園の患者を治療してから、また来るよ。どうせ地下牢の患者たちも治さなければだし」
「ふむ、そうだな。わかった」
「我々は、近衛に捜査の手順を指示しに行こう」
「そうですな、ケビン王子」
「んでは、また後でね」
「わかった、また後でな、キンボール」
「また後でね、キンボールさん」
「じゃ、行こうか、マコトっち」
「ロイドはこっちだろう」
「そうですぞ、ロイド王子」
「え~~~!」
ロイドちゃんは自分でも王家派か聖女派か解らなくなっているな。
さて、一度学園に帰ろう。
私が階段に向かって歩くと、カロルとエルマーが付いて来た。
「いやあ、沢山いたねえ」
「もう、心臓に悪いから危ない事はやめてよね、マコト」
「びっくり……、した……」
「好きで銃撃された訳じゃないやいっ」
しかし子爵位まで投げうって麻薬と心中とは、愚かというか、崇高というか。
事実を知ったら家族や領民もやりきれないだろうなあ。
などと考えながら王宮を後にして、王宮門をくぐり学園に帰って滑り込みな感じでA組に戻った。
アンソニー先生の今日のホームルームは新入生歓迎ダンスパーティのお話だった。
ダンパに参加する生徒はクラス単位で王宮に移動するので、日曜日の午後四時に一度クラスに集まってから移動する、とのこと。
全校生徒単位での移動だから大変そうだね。
さて、皆で起立して礼である。
アンソニー先生が私の席に近づいて来た。
「キンボールさん、それでは行きましょうか」
「はい、行きましょう」
む、カロルとエルマーが立ち上がった。
「私も行っていいですか?」
「僕も……」
「えーと、申し訳ないのですが、中毒患者のプライバシーがありますので、ご遠慮してほしいのですが」
「でも、中毒患者にマコトが襲われないか心配です」
「心配……」
んもう、二人とも心配症だなあ。
ってもさっき銃撃されたからしょうが無いか。
「二人とも、私は平気だから集会室で待ってて、他の子のドレスのお世話をして待っていてよ」
「本当に大丈夫なの?」
「心配……」
「大丈夫ですよ、何かありましたら私が盾になりますから」
「……」
「……」
「……」
「なんですか三人とも、その疑わしそうな顔は、こう見えても先生は意外に強いんですよ」
そうは見えないが、アンソニー先生の心意気を買おう。
あと、ダルシーも居るしね。
心配そうな二人に手を振って私はアンソニー先生と一緒に廊下に出た。
「お二人は心配そうですね、麻薬患者に関わるとそんなに危険だと思ってるんですかね」
「まあ、さっき殺されかけましたけどね」
「……はい?」
「いえ、自首してきた患者なら大丈夫でしょう。それ以外の患者は私を殺すと薬が供給されると思ってる奴もいるみたいで」
「……本当の事ですか?」
「本当ですよ、麻薬の商売には大金が動きますし、麻薬患者になると理性が飛んじゃいますからね」
「……ど、どうしてそんな危ない事を」
「いや、私しか感知できませんし、治療もできないんですよ、いつも聖女候補だと威張っている対価みたいなもんですよ」
アンソニー先生は立ち止まった。
そして私の肩に両手を置いた。
「あなたのやっている事は素晴らしい事です。他の誰にも理解されなくても、私はあなたを誇りに思いますよ、キンボールさん」
「や、やだなあ、そんな大げさな」
「あなたは礼儀などがまだまだ駄目ですが、お友達思いで人の事を第一に考えられる善人です。偉いですよキンボールさん」
ふわっと胸の奥に喜びが湧いてきた。
ああ、なんだかアンソニー先生に褒められると嬉しいなあ。
「ありがとうございます、アンソニー先生、嬉しいです」
「何を言いますか、あなたは私の誇るべき生徒です。まあ、礼儀作法ももう少しがんばりましょうね」
「はーーい」
礼儀作法はちゃんとしてると思うんだけどなあ。
実践が出来てないのか、突発的に思いつきで動くのが悪いのか。
まあいいや。
医務室に入ろうとしたらダルシーが出てきて先に開けた。
「こちらのメイドさんは? キンボールさん」
「うちの諜報メイドのダルシーです」
「はあ、諜報メイド、そういう職業の人もいるのですね、初めて見ました」
先生は派閥闘争とか政治運動とかしてなさそうだしね。
良い所のおぼっちゃんで、代々王家派閥でしょう。
私はダルシーの後に付いて、医務室に入った。
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