第398話 鉄砲を避けたらカーチスの父ちゃんが現れた
うかつだった。
まさか子爵以上しか参加出来ない諮問会議で銃をぶっ放す馬鹿がいるとは思わないじゃないですか。
とっさには銃口に障壁も張れないし、とりあえず反射的に体を丸めて床を転がった。
ビシ!
と、私の元居た位置に着弾し絨毯に穴が空いた。
あぶないあぶないっ。
見るとくるんとした髭の中年が慌ててペッパーボックス銃の銃身を回そうとしていた。
くそう、二発目は撃たせんぞっ!
銃口を障壁で塞ごう、と、思ったら、なんだがゴツイおっちゃんがくるりん髭の中年の腕を掴んで持ち上げていた。
「おまえ、うちの派閥の領袖に何をしてくれてんだ」
む、ゴツイおっちゃんは誰だ。
もの凄い胸の厚さのマッチョで大男、赤い髪と髭もじゃだ。
「は、離せっ!! ブロウライト卿!! 奴は薬による楽園の到来を邪魔する魔女なんだっ!! 殺さないといけないんだっ!!」
ブロウライト……。
ああ、カーチス兄ちゃんのお父さんか!!
なんか面影がある。
「カーチスのお父さんですか?」
私が近寄ると、彼はにっこりと笑った。
「いつもせがれが世話になってるね、領袖。フィルマン・ブロウライトだ、よろしくな」
なんだなあ、ワイルドだなあ、フィルマン父ちゃん。
「その武器を取ってください」
「こいつか、あいよ」
フィルマン父ちゃんは銃をくるりん髭からもぎ取って私に渡してくれた。
私は銃を収納袋にしまった。
「マコト嬢、その武器は?」
やべえ王様が興味をしめしおった。
「ストーンバレット系の弾を撃ち出す魔導具です」
「おお、そんな物があるのか」
適当にごまかしてやれ。
物理で鉛を打ち出すとか王様は知らなくて良いんだよ。
銃がどんなに恐ろしい物なのかは、たぶんこの世界では、私と山高帽とカマラさんしか知るまい。
この世界の魔法には必ず投射型魔法が初歩にあるので、その一種と思って、そこから考えが発展しないのだね。
カロルでも、エルマーでも、思いつかないっぽい。
銃が怖いのは、物理反応を使った武器だという一点だ。
つまり引き金さえ引ければ、女子供でも他人を殺せるということ。
魔力や体力によらずに、市民を兵隊にできるのさ。
どんなに魔法が使えても、どんなに剣が上手くても、百人の市民が持つ銃器にかなわなくなる。
それが、この世界の人が、思いも寄らない事なのだ。
なにせ、こっちの世界は、みんな魔法が使えるからね。
山高帽は銃器を量産して、麻薬を作り、南米みたいな国を作るつもりだろう。
まさにヤクザ知識チートなわけだ。
奴が銃器の有効性を証明する前に潰さないといけない。
絶対だ。
くるりん髭が私を睨みつけた。
「お前がいるから、薬の楽園が来ないんだっ!! 貴様はアップルトン、いや、世界の全ての人間の幸福の邪魔をしているのだっ!! この魔女めっ!!」
「おっさん、あれは幸福の薬じゃないんだ」
「騙されんっ!! 騙されんぞっ!!」
私はくるりん髭オヤジの額に手を置いた。
『キュアオール』
げ、一発では治らないか。
『キュアオール』
ま、まだかよ。
『キュアオール』
よし、瞳孔の拡散が治ったな。
オヤジは黙って私を見つめていた。
「あ、ああああっ」
「崖から飛び降りたのは、おじさん、薬のせいだけど責任を取るのはあんただからな」
「あああああっ!!」
「爵位も剥奪されて、財産を金に換えて、家族みんなが酷い目に遭うけどしかたがないな」
「ああああああっ!!!」
「人に言われてやったなら、そいつにも罪をなすりつけなよ。そいつにも責任を取らせないといけないよ」
「わ、私はーっ!! 私はーーっ!! 私はーーーっ!!」
顔が紅潮して歪んでいた。
涙があふれ出ていた。
オヤジは膝を付いた。
自分が何をやったのか理解してしまったのだろう。
オヤジはただただ悲鳴を上げ続けた。
「やかましい、衛兵!! ダガン子爵を引っ立てよ」
王様の命令でダガン子爵は引っ立てられていった。
気がつくとフィルマン父ちゃんが私の横に立って、頭をなでなでしていた。
「うん、可愛いなあ、マコト、お前、家の嫁にならんか」
「嫌ですよ、カーチスにはエルザさんが居るでしょうに」
「三男の嫁が決まってなくてなあ、どうだい?」
「まっぴらごめんです」
私はブロウライト家の家風には馴染めそうに無いぞ。
「はっきり言うなあ、生意気で良いな、うんうん」
「ご無沙汰しております、フィルマン様」
カロルが見かねたのか、前に出てフィルマン父ちゃんに挨拶をした。
「お! へええ、そうかそうか、学園は良かったみたいだな、カロリーヌ」
「はい、ご心配をおかけしました」
「うんうん、ますます気に入ったぞ、マコト、エルザの代わりにお前をカーチスの正妻にするか」
なんでそうなるんだ。
脈絡が解らん。
「え~、やだ~~」
私が断ると、フィルマン父ちゃんはガハハと笑った。
なんか豪快な人だなあ。
「ごほん、もう良いかな、ブロウライト卿」
「失礼いたしました、国王陛下」
そう言って一礼した後、フィルマン父ちゃんは貴族の列に戻った。
「それではこれにて諮問会議を終了する。皆の物、麻薬について何か情報があれば、いつでも教えてくれ、麻薬禍は国難じゃからな」
拍手が起こり諮問会議は終了した。
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