第396話 軍務大臣リシャール・シャミナード侯爵摘発!
「失礼します」
机について書き物をしていた軍務大臣は眉をちょっと上げた。
厳つい顔だけど、目が可愛い感じだな。
「なにかな? あ、これは国王陛下。ああ、謁見の間での諮問会議でしたな、もうそんな時間ですか」
これから三階の謁見の間で貴族さんたちを諮問会議を行うという名目で集めてあるのだな。
「諮問会議はこれからじゃ。それよりもだ、この聖女候補のキンボール嬢が、おぬしから麻薬の反応があると言っておるぞ」
軍務大臣はいぶかしげな表情を浮かべた。
「はて? 麻薬ですと? えー、新型の麻薬といえば錠剤と、吸引する物でしたな、左様な物は使っておりませんが」
というか、テーブルにコカインが一包乗っているんだが。
「あのそれは?」
「ああ、これかい? 妻が健康に良いと勧めてくれた薬だよ、鼻から吸い込むのでちょっと息苦しいけど、気分がすっきりするんだよ。錬金薬って聞いてるよ」
私はリシャール閣下の近くに寄った。
オプチカルアナライズを使う。
ピッ。
コカインだ。
「これは上流貴族にしか流れていない麻薬です。コカインと言います」
「え?」
「何年も使ってますか?」
「い、いや、今週ぐらいからだから三回ぐらいだが、麻薬なのかい?」
ほっとした。
重篤な中毒になるほどの回数ではないね。
「そうです、奥さんは出所を言ってましたか?」
「本当かい、それではエリーヌも危ないのかい! 大変だ、止めないと」
「それは良い、王宮から人をやって知らせよう。それよりも出所だ、リシャール」
立ち上がりかけたシャミナード侯爵は座り直した。
「夜会で友人の夫人から勧められたと言ってました。まさか麻薬だとは……」
「キンボール嬢、三回ぐらいだと、どうなのじゃ?」
「中毒にはなってませんね。一応治療しましょう」
「中毒になるとどうなるのだね、聖女候補くん」
「大臣の身近にアルコール中毒の人はいませんか」
「あ、ああ、親戚にいたよ。あんな風になるのかね」
「もっと依存性が強いです。中毒になると薬の事しか考えられないようになります」
「なんという事だ」
私はシャミナード侯爵の横に立ち、額に手を置いた。
『キュアオール』
まあ、三回ぐらいなら問題は無さそうだけど、軍務大臣に間違いがあったら困るからね。
回数が少ないうちで助かった。
「ああ、高揚感が無くなった、そうか、これが薬の効果だったのか」
「はい、気が大きくなって何でも出来るように感じます。でもその前向きな気分は偽物なんです。未来の自分から借りてきているような物ですから、必ず将来破滅します」
「なんというなんという薬を……」
シャミナード侯爵は怒りの表情を浮かべ体を震わせた。
この世界にとって麻薬は未知の薬物だからなあ。
前世でも、第二次大戦までは戦意高揚とか、職人が気合いを入れるために麻薬はよく使われていた。
何も知らない、この世界の人を麻薬にはめるのは赤子の手をひねるがごとしだろうよ。
麻薬チートだな。
そして私は気がついた。
これは、アフリカとか、南米の小国を支配するための手段によく似ている。
麻薬で政府中枢を麻痺させ、麻薬で稼いだ金で政治家に賄賂を送る。
都合の悪い存在は銃で暗殺する。
転生者の計画だな。
ポッティンジャー家は足がかりにすぎないや。
山高帽は自分が影の支配者になろうというのだろう。
倒さないと普通にヤバイね。
「リシャール、お前の傷が浅くて助かった。深い中毒で国を裏切られていたらと思うとぞっとするぞ」
「陛下、全くもって申し訳もありません。信頼を損ねるような真似をしてしまいました」
「よいよい、知らなかったのだから仕方があるまい。それよりも、上層部に食い込んだコカインの販売網を解明せねばならぬ。エリーヌ共々捜査に協力せい」
「ははっ、必ずや元凶を解明いたします」
シャミナード侯爵は深く頭を下げた。
ふう、軍務大臣が潰れてたらと思ったが、ほぼ無傷で助かった。
「それでは失礼します」
「ああ、聖女候補さん、ありがとう、助かったよ。諮問会議には僕もでるからね」
「はい、よろしくおねがいします」
私たちは執務室を後にした。
「ふう、良かったな、キンボール」
ジェラルドが声をかけてきた。
「軍務大臣が深みにはまって無くて良かった」
「だから僕があれほど、早くしろと言ったではないか」
「さすがにここまで食い込んでるとは思わなくてさー」
「マコトは善意で協力してるのですから、そんな言い方はやめてください、マクナイト卿」
カロルが怒って言った。
ありがとうねえ。
嬉しい。
「そ、それはそうだが……」
「そうか、王家としても気配りが足りなかったな。よし、今回の手柄に対し、王家から褒美を出そう、なにが良いか? キンボール家を子爵に上げようかのう」
「あー、お養父様嫌がりますよ。税金も上がりますし。家格に合わせた準備も大変ですし」
「うーむ、学者や役人の家は昇格を嫌がるからのう。かといって賞金などは無粋であるし」
「父上、今回の麻薬騒動は全てキンボールさんが探り出してくれた物です。全体の功績を賞しましょう」
「教会に献金でもしてくださいな」
「いや」
「いや」
「いや」
なんだよう、王様、ケビン王子、ジェラルドと首を横にふりやがって。
「教会ではなく、マコト嬢にだな、なにか授けたい。王家への借りが大きすぎるのでな」
「飛空艇の試験とか便宜を払って貰っているので、気にしてませんよ」
「聖女とは無欲な物よなあ。なにか欲しい物は無いか? 領地とか地位とか。子爵位ぐらいまでなら、マコト嬢にやれるぞ」
「面倒くさいので要りませんよ。あ……」
「何か思いついたか?」
「ホルボス山あたりは誰かの領地ですか?」
ジェラルドが宙に視線を走らせた。
「あそこらへんは王国領で代官を派遣しているな。欲しいのか?」
「ビアンカ様の基地があるからね、冒険者が入り込んで施設を荒らされるのも業腹かなあって」
「おお、それは良いな、ホルボス山一帯を領地として渡すか」
「しかし良いのかいキンボールさん。あそこはたいした産業もない農村だよ」
ケビン王子が言ってきた。
「大丈夫大丈夫、あそこらへんを貰えればお養父様が基地を研究できて喜ぶし」
ホルボス村には温泉もあるしなあ。
教会も巻き込んでヘルスセンターでも作ろうかね。
うしし。
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