第391話 ランチクルーズが終わり飛空艇は着陸する
蒼穹の覇者号は王都の北門上空を飛行している。
右手には広大な王立墓地が広がってるね。
これから西門を経由して、それから学園に着陸する。
のんびりした遊覧飛行だ。
船内映像を見ると、特等室に居たゆりゆり先輩とお洒落部が船尾に向けて移動しているのが見えた。
階段を上がって甲板に行くのかな。
特等室といえど、ずっと部屋の中は退屈だろうからね。
私はお茶を飲む。
香りが広がって美味しいね。
ダルシーも腕をあげているようだ。
のんびり商業街を左手に見ながら飛行していく。
地上を写した映像に、子供がこちらを指さしている姿が見えた。
王都っ子にとって、飛空艇見るのは、ちょっとした事件だからなあ。
私も良く黄金の暁号を見たなあ。
一回だけ白銀の城号も見た事がある。
あの船は王族を乗せる船だから王城の二階に発着場があるんだよね。
やっぱり飛空艇は良いね。
乗ってるだけで楽しい。
普通の週はあまり遠出はできないけど、夏休みになったら派閥のみんなと海とか行きたいね。
着陸すれば、どこででも泊まれるし、飛空艇は便利な物なんだな。
西門上空にさしかかった。
今日も入城を待つ荷馬車の群れが渋滞してるなあ。
室内に掛けられた時計を見る。
うんうん、スケジュール通りだね。
「カロル、着陸もやる?」
「任せて、マコト」
お、カロルもやる気だね。
「次は……、僕が……、覚えたい……」
「んじゃ、次の時はエルマーね」
「楽しみ……」
私は腕組みをして深くうなずいた。
うんうん。
操縦できる人間が増えれば、いざという時に心強いね。
地図画面にポポッっと音がして赤い線が引かれた。
学園にいたる航路図のようだ。
「航路も自動か、航行士いらないなあ」
「そうなんです、暇でしかたがないです」
コリンナちゃんが口を尖らせてアーヴィング船長に言った。
「おお、でもちゃんと地図に航路が書けてるじゃないか、上出来上出来」
「本当だね、ケーベロスさんは、そういうお家の人かい?」
「親は下水道局なんで違いますね。図書館で航法術の本を借りて見よう見まねです」
「それは凄い。魔導頭脳がいるから必要は無いんだけど、もしもの時に地図に航路が引けるのは良いね」
「卒業したら、航行士の資格を取って交通局に来なよ、ケーベロスさん」
「いえ、私は財務局を目指してますから」
「女性で財務か!」
「すごいねえ、実現したらすばらしいよ」
船長二人によいしょされて、コリンナちゃんもまんざらでは無いようだ。
コリンナちゃんは文官関係なら何でもできそうだね。
「エイダさん、自動運転を切ります」
【了解しました。こちらのボタンを押して下さい】
「はい」
カロルがボタンを押して、操舵輪を握った。
船は学園に向けてゆっくり旋回していく。
ちょっと緊張してるみたいね。
がんばれー。
飛空艇はゆっくりと学園に近づいていく。
私は伝声管の蓋を開けた。
「おしらせします、艇長のマコト・キンボールです。本日はご搭乗まことにありがとうございました。もうすぐアップルトン魔法学園に着陸いたします。身の回りの物などお忘れ物が無きようご注意下さい」
「アナウンスも堂に入っていますね」
「アナウンス嬢として雇えないかな」
「二年生の最初のガドラガ行きの時にお手伝いしても良いですよ」
「そりゃあいい」
私と二人の船長は顔を見あわせて笑った。
船は学園の敷地上空にゆっくり侵入していく。
中庭で座っている生徒たちが手を振っていた。
【先に微速前進後退で着陸マーカーに船体マークを合わせてください】
「はいっ」
舵輪を小刻みに動かしてカロルは船を操った。
【蒼穹の覇者号、着陸シーケンスに入ります。舵輪を押し込んでください】
「わかりましたっ」
がんばれがんばれ。
人が操縦しているのを見ると思わず拳に力が入っちゃうね。
船はゆっくりと垂直降下していく。
学園が下からせり上がってくる感じで、ちょっと面白い。
【ボタンを押して着陸脚を展開してください】
「は、はいっ」
カロルはボタンを押した。
下の方からガチャンと音がする。
【五十クレイド、四十クレイド、三十クレイド、二十クレイド、十クレイド、五クレイド、蒼穹の覇者号、タッチダウン】
ずしんと軽い振動があって、地面に降りたのが解った。
ふう、と言って、カロルが袖口で額の汗を拭う。
わかる、離陸と着陸は緊張するよね。
私は手を叩いた。
拍手は操縦室のみんなにうつってパチパチと鳴り響く。
「あ、ありがとうございます」
「すばらしいね、オルブライトさん。うちの若手操縦士なんかよりも、ずっと上手いぐらいだ」
「そんな、アーヴィング船長、褒めすぎですよ」
「いえ、初飛行とは思えない見事な操縦でしたよ、オルブライトさん」
船長さんたちは褒め上手で良いね。
「エイダさん、ハッチを開けて、降りるわ」
【ハッチのレバーはこちらになります】
私はエイダさんに教えて貰ったレバーを押し下げた。
プッシューと蒸気が抜ける感じの音がする。
「あれ、マコト、いつもは最後なのに」
「クルーズ飛行だったから、降りてくるお客さんに艇長が地上で挨拶するのよ」
「なるほど」
「カロルは乗客が全て降りたか確認してから降りてきて」
「了解したわ」
カロルにサムズアップをして、私は操縦室から出た。
ハッチの前に行くと、ゆっくりと上から開く所だった。
開ききったタラップを降りて、私は一足先に地上にと降りた。
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