第387話 船長帽をかぶって挨拶をして歩くのだ
さて、各テーブルに挨拶をしてくるか。
「カロル、挨拶に行ってくるよ。操縦の方は大丈夫?」
「大丈夫よ、エイダさんが付いてるから」
【お任せください】
よしよし。
「俺も付いて行こう」
アーヴィング船長がにっこり笑って言った。
「都市上空を飛ぶには幾つか法令があるんだ。丁度良いから、甲板で説明しよう」
「ありがとうございます」
アーヴィング船長は親切だなあ。
「では、僕はオルブライト嬢に付いていよう」
「助かります」
「エイダくんが居れば大丈夫そうだけどね」
「それでも飛空艇の船長が横にいてくれると安心です」
「それは嬉しいね」
エルヴェ船長はカロルににっこり笑った。
むう、イケメンがカロルと話していると、なんだかモヤモヤするな。
私はこんなに独占欲が強かったのか。
知らなかったな。
ダルシーが現れた。
「マコト様、お食事はどちらにお持ちしますか?」
「私は操縦室に持って来て、挨拶回りが終わったら食べるわ、アーヴィング船長とエルヴェ船長はどうしますか?」
「俺も操縦室で食べよう」
まあ、後ろのベンチにミニテーブルが付いてるから食事も可能ね。
ちなみに各席にもミニテーブルが付いているので操縦しながらでも食事ができるのだ。
長旅だと、交代しながら違う物を食べるのだろうね。
そうすれば、片方が食中毒になっても、飛空艇の操縦はできる。
「じゃあ、行ってくるよ」
「いってらっしゃい」
「がんばれなー」
私は船長帽を直して操縦室を出た。
後ろにはアーヴィング船長が付いて来た。
最初はスイート船室だね。
旅客ブロックに入ってすぐの大きな部屋だ。
ノックをするとミーシャさんがドアを開けてくれた。
「あらマコト艇長、格好いいですわね」
ソファーでくつろいでお茶を飲んでいるゆりゆり先輩が笑って言った。
スイート客室は応接セットが付いてるので快適なのだな。
「本日はご搭乗ありがとうございます。艇長のマコト・キンボールです」
「これは艇長さま、とても素敵なクルーズにご招待いただき嬉しく思ってますわ」
メリッサさんが立ち上がって丁寧にお辞儀をした。
さすがはお洒落部、礼儀作法が完璧だね。
「だけど良いんですか、お部屋の中で、甲板にも席がありますよ」
「いいんですのよ、小さな窓から外は見えますし。素晴らしい調度に囲まれてリラックスするのも贅沢ですわ」
さすがは公爵令嬢だねえ。
マリリンは丸窓に張り付いてうっとりと外を見ている。
なるほどなあ、楽しみ方はそれぞれなんだね。
さて、アーヴィング船長を引き連れて中央廊下を歩き、船尾階段へとさしかかった。
「なんてまあ、金の掛かった船なのかね」
「ビアンカ様はお金持ちでしたから」
「王家が欲しがるわけだよ。これで魔石エンジンだったら危ないところだったな」
「実際、光魔力エンジンでなかったら接収されてますね」
「二億ドランクとか積まれただろうなあ」
「二億は安いですね」
「まあなあ、これだけの調度、航法魔導頭脳、とかを考えると、もっと積むか」
「でしょうね。うちの会計は手強いので」
蒼穹の覇者号のレンタルの料金交渉でもコリンナちゃんは頑張ってくれるだろう。
聖女派閥のスタッフは有能であるなあ。
階段を上がるとラウンジであった。
私の姿を見て、新聞部の子たちが歓声を上げた。
「艇長のマコト・キンボールです。本日はご搭乗ありがとうございます。皆様楽しんでいらっしゃいますか」
新聞部のユーグ部長が立ち上がり、綺麗な礼をした。
「このたびはとても素敵なクルーズにご招待くださり、新聞部一同感謝の念に堪えません。とても素敵な経験で心が震えました。マコト艇長」
「もうすぐランチが出ますのでごゆっくりお楽しみください」
「ありがとうございます。明日の号外の記事の質でお礼に代えさせてもらいます」
やっぱり部の部長ともなると如才ないね。
挨拶が素晴らしい。
「レイラ先輩、蒼穹の覇者号の乗り心地はどうですか?」
「素晴らしいわ、ぜんぜん揺れないし、うっとりしちゃう。黄金の暁号とはちがうわね」
「それは、まあ、掛かっているお金が違いますからね」
「下級貴族の乗る場所は二等船室以下だから。とても揺れて、三時間の飛行でみんな酔ってしまったのよ」
「そうなんだ、アーヴィング船長」
「まあ、学校と迷宮を往復する専用船だからなあ」
「あら、黄金の暁号の船長さんですの? ごめんなさいまし」
「良いんですよ、お嬢さん、次の飛行ではなるべくゆらさないようにしますので、おゆるしください」
「おほほ、がんばってくださいね」
ラウンジのソファーを離れた。
「黄金の暁号は、そんなに揺れるんですか」
「いやあ、経費削減に風の通る谷を縦断する場所があってね。そこのせいだろう」
「世知辛いですね」
「まったくだ」
コストカットのせいだったか。
学期に二回、学園からガドラガ大迷宮を往復するんだからなあ。
魔法学園の馬鹿高い学費の半分ぐらいは黄金の暁号の旅費とも言われているよ。
キッチンをノックすると、クララが開けてくれた。
中では皆さんが絶賛調理中だ。
「あら、マコト、格好いい帽子ね」
「艇長のマコト・キンボールだから。調理の方は問題無い?」
「問題はないわ、メイドさんとの連携も良い感じよ。もうすぐプレートを運び始めるわ」
「解った、頑張ってね。イルダさん、調理具の使い勝手はどうですか」
「マコトさん。とても良いですね。よほど腕の立つ料理人の意見を聞いてます。とても快適ですね」
「それは良かった、頑張ってください」
「はい、全力を尽くして、皆様を満足させますよ」
イルダさんはにっこり笑った。
んーー、彼女はプロって感じで良いねえ。
今日は美味しい物を食べる事ができそうだ。
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