第384話 王子どもにカロルが怒る
「マコトは疲れてるんですよ、捜査は明日以降にしてくれませんか」
カロルが立ち上がってジェラルドに噛みついた。
さしものジェラルドも気圧されて一歩下がった。
「い、いや、そのだな、オルブライト嬢、こちらとしても早く脅威を排除したく」
「そうだよ、オルブライトさん、一応諜報家の人に内偵はしてもらっているのだが、マコトくんでないと決定的な証拠にならないんだよ」
一応マルゴットさんは働いてはいるのね。
「だけど、マコトは日曜にダンジョン月曜にマーラー領と頑張りすぎで……」
「わかるとも、オルブライトさん、気持ちはとてもわかる。お友達の体調を気遣う君の気持ちは美しい。でもね、これは、新入生歓迎ダンスパーティまでにどうしても終わらせないといけないんだ」
!
あ、そうか。
「新入生歓迎ダンスパーティが終わったら帰っちゃう貴族が多いんだね」
「そう、新入生歓迎ダンスパーティは公的な夜会でもある。学園OBOGの貴族たちが集う晴れの舞台なんだよ。火、水、木でなんとか始末をつけたいんだ」
貴族といっても、ずっと王都にいる訳じゃ無いんだよね、半分ぐらいの貴族は領に帰って経営をしてるから、こういう行事が無いと一網打尽にはできないのか。
それで急いでるのね。
「それでも、王家はマコトに報いてるとは思いませんし、一昨日は飛空艇を横取りしようとしたじゃないですか」
「い、いや、その、あれは横取りなどではなくてな。普通大量の魔石を使う飛空艇は個人で持てる物ではないので、その、親切でな、色々とキンボールには世話にもなってるしな、ご、誤解だぞ」
しどろもどろなジェラルドは珍しいな。
大人しいカロルが声を荒げると、やっぱコワイよね。
「カロルありがとう、平気だから。大丈夫。麻薬は教会として撲滅しなきゃだし」
「でも、心配なのよ」
「へーきへーき、聖剣リジンを使ったからだるくなってただけよ、マジックポーションのおかげで本復したわ」
私は力こぶを見せるように腕を上げた。
いや、出ないけど、雰囲気でね。
カロルはまだ心配そうだ。
王家コンビは胸をなで下ろしているな。
「確かに麻薬捜査ではキンボールさんと教会に負担をかけているが、ここで撲滅しておかないと、将来、いや、一年後に不味い事になる。どうか力を貸してくれ」
ケビン王子が頭を下げた。
おおー、王家が頭を下げるなんて異例だなあ。
前も見た気がするが。
ああ、最初にケビン王子に会った時か。
あの時からずいぶん時間がたった気がするけど、一ヶ月ぐらいの事なんだよね。
王家コンビとも、ちょっとずつ仲良くなってる気はするな。
「で、放課後に王宮?」
「やってくれるかい、助かるよ」
「一応怪しい者はリスト化してある。その者たちの鑑定と、それ以外の感知を頼みたい」
「今日は王宮、明日は学園、明後日は『塔』でどうだろうか」
「うへえ、『塔』行くの?」
「しょ、職員だけでいい。内部はその、女性が立ち入るような場所では無いからね」
「王宮の庭に呼びつけますか。監獄に居る連中には必要無いでしょうし」
「そうだな、ジェラルド。そうしよう」
良かった、『塔』の中はエグい物見そうで嫌だよ。
しかし、意外に多いな。
王宮は行政府を含むのだろうなあ。
ドレスの試着は出来るのだろうか。
「私も同行します」
「オルブライトくんもかい、それは心強いね」
「僕も……」
「クレイトンが来て何をするのだ」
「敵を……、倒す……」
エルマーが懐から魔法の三節棍を出して構えた。
ああ、エルマーの師匠も探さないとなあ。
「め、珍しい棒だね」
「棒で何をするのだ?」
「魔法……、誘導体……」
王家コンビは黙り込み、そしてうなずいた。
うんうん。
「では、ランチクルーズが終わってからでいいかい?」
「午後の……、授業……」
「キンボールは魔法省長官と君に実験させられているだけだろ」
「実験は……、大事……」
「まあ、さぼろう」
「マコトが……、言うなら……、しかたがない……」
「私もさぼって付き合うわ」
「まあ、君らは魔法の授業は必要ないからね。良いか」
ジェラルドが懐から羊皮紙を出してきた。
「それから、上が蒼穹の覇者号の正式なコールナンバーだ。下が学園のコールナンバー。本来なら王城管制塔のナンバーもあったのだが、廃止されて失伝したらしい」
「おろ、こんなものが」
「交通局に言って貰ってきた、使いたまえ」
「わあ、たすかるよ、ありがとうジェラルド」
「か、感謝はいらぬ。いろいろと世話になってるからな、当然の礼だ。他にも、麻薬捜査の報償も考えている。その、お前と教会をただ働きさせる気はないのだ」
「そうかそうか、ケビン王子もありがとう」
「いや、気がついたのはジェラルドさ。僕は甘える気だったよ」
意外にケビン王子も素直だな。
一国の王子としてはどうかと、ちょっと思うが。
カロルの雰囲気も、少し柔らかくなった。
うむうむ。
アンソニー先生がやってきたので、私たちは席についた。
ランチクルーズの後に麻薬捜査か、忙しいなあ。
ドレスの試着は夕方か午後だね。
アンソニー先生のホームルームが始まった。
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