第377話 ホルボス山でお引っ越し
画面の遠くに台状のホルボス山が見えてきた。
「あの台状の上ってどうなってるのかな」
【普通の卓状火山です。特に人家は無く登山道が通っているだけです】
そうなのか、平たいのに。
なんとなく台状だと何か建物を置きたくなるが、下界との行き来が不便になるんだろうなあ。
ホルボス山の中腹の渓谷にホルボス山基地はある。
【邪竜アダベルトが住んでいた場所に飛空艇の着陸場があります】
「カタパルトの所から入るんじゃないんだ」
【飛空艇射出口は離陸のみですね】
なるほど、飛空艇の着陸口を使ってアダベルは住み着いていたのだな。
出力を下げて速度を落とし、下面カメラ映像を見ながら微速前進する。
あ、魔力塗料かなんかで画面上には着陸マーカーが見えるね。
きっちりと船体マークと着陸マーカーを合わせて、舵輪を押し込む。
【着陸台まであと五十クレイド、四十クレイド……】
私は着陸脚ボタンを押した。
ガチャンと下方で音がする。
【着陸脚展開、高度1クレイドで後方よりエントランスに侵入してください】
高度計を見ながら相対高度1クレイドで舵輪の押し込みをやめ、後ろに倒して微速後退である。
洞窟に飛空艇が包まれて行く感じで結構緊張する。
プロペラのパラパラいう音が壁に反響して響いてくるね。
【エントランス侵入成功、格納庫ゲートに船首を正対するよう回頭ねがいます】
私は舵輪を左に少し回した。
ゆっくりと船は回頭していき、格納庫ドアと正対した。
アダベルの溜めこんだお宝は左側にあるね。
では、舵輪を押し込んで、着陸。
【蒼穹の覇者号、タッチダウン】
格納庫のドアが左右に開いた。
【邪竜アダベルトの宝物を移動させるには、格納庫内の貨物コンテナをお使いください。四パックあります】
「おー、そんな物が!」
【今後ビアンカ邸基地が主な格納場所になるので、その他のオプションパーツの移動をお勧めします】
「オプションパーツ?」
【低速飛行の為の安定翼や、長距離移動用の光魔力増槽などがあります】
い、色々趣味の物を作ってるなあ。
安定翼とかクルーズによさそうだけど、組み立てる人手がないな。
鍛冶部にでも頼むかな。
魔導ハンドが動いて、格納庫の隅からコンテナを引き出してきた。
私は伝声管の蓋を開けた。
「おしらせします、艇長のマコト・キンボールです。本船はホルボス山基地に到着しました。今からアダベルのお宝をコンテナに詰める作業を行います、お手空きの方はご協力ねがいます」
どやどやと、廊下に人がやってきた気配がする。
でででででとアダベルが操縦室に走りこんできた。
「マコト、あの箱にしまうのか?」
「そう、金貨とか宝石とか細かい物もあるからね、あの箱に詰めて甲板に乗せるわ」
「そうかそうか、頑張って片付けるっ!」
まあ、たしかに、子供のおもちゃのお片付けっぽいよね。
皆を引き連れて船の外に出た。
アダベルの宝の山を見る。
金貨とか宝石多いな。
銀貨はほとんど無く、銅貨はぜんぜん無い。
ふと横を見たらチェーン君が大きなコンテナを抱えてきていた。
「ありがとね、チェーンくん」
彼はなんのなんのというように手をひらひらさせた。
絶対自我あるよな、こいつ。
私の前に置かれたコンテナは私の背と同じぐらいの高さだった。
これに宝をパンパンに入れたら魔導ハンドでもないと動かせないな。
「えーと、まずは種類別にコンテナに入れていきましょう。金貨と宝石を中心に。ガラクタっぽい物はアダベルに判断してもらって廃棄で。ちょろまかし禁止ね、船に乗るとき光サーチするからねー」
派閥員の何人か、というかカーチス兄ちゃんとメリッサさんがギクッとした顔をした。
おまえらー。
「これはまた、凄い財宝だね」
「凄いでしょ、ガクエンチョ」
アダベルが誇らしげに胸を張った。
「学園長、アダベルにお金の概念とか教えてくださいね」
「そうだな、悪人に騙されては可哀想だ」
「お金の使い方を覚えるまでは学園長が管理してあげた方が良いとおもいますよ」
「ふむ、そうだな。お小遣い制にするか」
そうですね。
子供はお小遣いを貰って、足りなーいを覚えるのだ。
使い放題だと節約も覚えないしね。
金貨の箱と、宝石の箱、他の物の箱に分けて宝を入れて行く。
色んな形の金貨があるな。
じゃらじゃらじゃら。
「なあなあ、マコト、あの石持って行っていい?」
アダベルが指さしたのは庭石みたいなすべすべした岩であった。
「何する物?」
「竜になったとき、頭をあそこに乗っけると涼しくていいんだ」
「ただの岩じゃないの、却下」
「えー、涼しく良い石なんだよ-」
「ここに来て竜になって涼めばいいじゃない、王都で変身したらだめだよ」
「それもそうか、難しいなあ、人の世界は」
エルマーが武器や防具の腐れた物を持って来た。
「アダベル……、これなに……」
「ああ、前の洞窟の時にぶっ殺した冒険者のやつ。捨てていいよ」
それはそれは……。
「だいたい、こんなに大量のお宝どうしたの」
「村々に行くと人間が真っ青になってくれた。くれないと建物を壊した」
邪竜、邪竜がおる。
「そうやって楽しんでたら狂犬聖女がやってきてぶん殴られた。彼奴は凶暴だ」
なるほど。
「お前は人は食わないのか?」
「食わないよカーチス。お父さんに人だけは食べるなと教えられた。人を食うと魂が堕落して怖い奴が来て殺されるって言ってた」
偉いぞ、竜父、教育方針は正しい!
アダベルが人食いしてたら、ビアンカさまも生かしてはおかなかったろうね。
「魔剣……、一本ある……」
「なにー、見せろ見せろ、エルマー」
バルトロ部長がどたどたとやってきて、エルマーの手から錆び錆びの魔剣らしい物をひったくった。
「確かに魔力があるな」
「皇国風の……、拵え……」
バルドル部長は鞘から抜き放ち、柄を外して中子を見た。
「皇国のバンシル工房のもんだな。属性は……、土だな。頑強の魔法がかかってる」
魔剣を持ってた皇国の剣士さんは何を思ってアダベルに挑み、そして破れて行ったのだろうねえ。
「整備して売るか、そこそこの値が付くだろうよ」
「それが良いかもね」
ここは迷宮内ではないので、物品が地面に食われることなく朽ちているのだろうなあ。
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