第373話 森の木霊亭のフルコース 食前酒から魚料理
セバス爺ちゃんの先導でマーラータウンの広場を歩く。
そろそろ日も落ちて辺りは暗いね。
森の木霊亭は大きいレストランであった。
マーラー領特有の木造作りの三階建てだね。
「いらっしゃいませ。御領主様」
「私の大事なお友達たちですから、よろしくおねがいしますね」
「かしこまりました、どうぞこちらへ」
黒服の支配人らしい中年の男性が私たちを階段にいざなった。
シックだけど高級そうな内装で凄いね。
お値段も結構しそうである。
「会計はこちらに回してね。最近ドライヤーとかで稼げているから」
「いえ、運送料の相殺のうちですので、ご心配なく」
ヒルダさんはふんわり笑ってそう言った。
むー、貴族らしい気の廻し方だなあ。
上手い。
二階の個室に通された。
結構大きめの部屋でパーティも出来そうだね。
上座に通されたが、身分から言うとゆりゆり先輩が上だろう。
彼女と目があったら胸の前で手をひらひらさせられた。
「派閥の行事なので、領袖が上座ですわ」
「むう」
「あとは、親しい人の近くに自由にお座りなさればよろしいわ。堅苦しいお食事会ではございませんもの」
そりゃまあ、そうだね。
私が上座に座ると、自然にカロルが右に、コリンナちゃんが左に座った。
そこから、順々に、学園長とアダベル、ヒルダ先輩、ゆりゆり先輩、二年生のライアン君、オスカー、そのあと、剣術部、エルマー、お洒落組、鍛冶部と並んで座った。
「お食事の前に何かお飲みの物はいかがですか、マーラー領のスパークリングワインを取りそろえておりますよ」
男の子たちは口々に食前酒を頼んでいた。
「私たちはどうする? マコト」
「私は飛空艇の操縦があるからいらないよ。カロルとコリンナちゃんは飲みたかったら良いよ、マーラー領のお酒とか滅多に飲めないでしょ」
「そうだなあ、一杯だけいただこうかな」
「コリンナが飲むなら、ちょっと付き合うわ」
カロルとコリンナちゃんがお酒を頼んだ事で、女子組もお酒を頼み始めた。
食前酒を飲まないのは私だけか、運転手は辛いよ。
だけど、飛空艇を墜落させたら申し訳無いしね。
初めての夜間飛行になるわけだし。
エイダさんが付いていれば計器飛行も出来るだろうけど、何があるか解らないからね。
用心に超したことはない。
食前酒が運ばれてきて、それぞれのグラスにお酒が注がれた。
「わあ、なんだシュワシュワだっ、美味しいっ!」
「そんなにゴクゴク飲む物では無いのだよ、アダベル」
うーん美味しそうだなあシャンパン。
シャンパーニュ地方が存在しないのでスパークリングワインらしいが。
アダベルは大丈夫か?
暴れたりするなよ。
ワインリストが運ばれてきて、みな適当に頼んでいる。
カーチス兄ちゃんとメリッサさんが詳しいな。
メリッサさんの領は産地だからね、さすがである。
カロルとコリンナちゃんもワインを選んでいる。
「聖女さまは何をお召し上がりますか?」
ソムリエさんが私に聞いてきた。
結構品数の多そうなワインリストだなあ。
「飛空艇の操縦がありますので、お水をください」
「かしこまりました」
くそう、マーラーワインが飲みたい。
が、我慢我慢。
「オードブルです。赤鳥のテリーヌとマーラー豚のパテになります」
ギャルソンさんがオードブルのお皿を前に置いてくれる。
パクリ、
おおー、美味しい。
赤鳥とはアップルトンの山間部にすむ山鳥であるよ。
マーラー豚のパテも脂がのっていて美味しい。
「んー、うまいっ!」
「アダベル、散らかさないで食べなさい」
「わかった、ガクエンチョ」
なんだか、学園長とアダベルは、祖父と孫娘な感じで微笑ましい。
なかなかシルバーを上手く使えないアダベルに根気よく学園長は教えている。
微笑みを浮かべていて、幸せそうだな。
学園長にアダベルを頼んで正解だったね。
スープが来た。
「オニオングラタンスープでございます」
おお、良いね。
飴色タマネギスープの上に焼いたバゲットが乗っている。
良い匂いだなあ。
イルダさんと同じぐらい美味しいね。
ここがマーラー領一のレストランかな。
美味い美味い。
続けて、芽キャベツのサラダが出た。
苦みが美味しいなあ。
王都に比べて山地だから、ちょっと旬がずれてる感じね。
地域によって素材の味も違うから楽しいな。
シャクシャク。
皆も楽しんで食べているようだ。
「美味しいね、ここ」
私が、ヒルダさんに話しかけると、彼女はにっこりと笑った。
「マーラー領一のお店ですわ。賓客が来ると、ここのシェフが舘に調理に来ますのよ」
「どうりで美味しいわけだね」
貴族領の一番のレストランは外交の武器だったりするんだよね。
伯爵領ぐらいになると行政府の長官とか、同格の貴族さんとかが来るからね。
カロルとかゆりゆり先輩の領にも腕自慢の料理人がいることだろうなあ。
食い道楽の旅がしたいなあ。
「白鱒の岩塩焼きでございます」
魚料理が来た。
結構大きい切り身の鱒の焼いた物だ。
パクリ。
ああ、美味しいね。
塩の塩梅が良くて、鱒の味を引き立ててる。
「魚うまっ、うまっ」
「そんなに一気にほおばらないのだよ」
「うむうむっ、魚は美味い!」
学園長がアダベルの頬をナプキンで拭いてあげている。
いやあ、お世話してもらって助かるなあ。
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