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第36話 まずい料理に舎監も激おこ

 お風呂に行きたいが、あいにく洗ってあるドロワースが無い。

 前世のパンツよりもドロワースはカサが大きいのでチェストに沢山は入れられんのだな。

 洗い立ては昼間使っちゃったし。

 今日はお風呂はいいかな。お昼に入ったし。


 コリンナちゃんの実家は学園から近いのか、一時間もしないうちに帰ってきた。


「実家でご飯食べてくればよかったのに」

「そのつもりだったけど、お前の分作ってねえからと追っ払われたよ」

「世知辛い」

「下級官吏の家とはそういうものよ」


 コリンナちゃんはやれやれと首をふった。


「寄親の件は納得してくれたの?」

「困惑していたよ。法衣貴族は王家に忠誠を誓うもので、寄親寄子はあんまりやらないんだって」


 というか、王宮行政の木っ端役人なので、言ってみれば王家が寄親みたいなものだね。


「じゃあ、コリンナちゃんピンチじゃん、塩漬けになるの?」

「ことあるごとに塩漬け言うのはやめろ。あんた絡みで、身の危険があるからと言ったら納得してくれたわ。その代わり、寄子の義務は、お前が全部やれ、だそうよ」


 まあ、役人さんをやってたら兵隊出せなさそうだしね。


「というか、ケーベロス家って、騎士いるの?」

「下水道の仕事に騎士なぞいらないよ。一人として居ない」


 領地を持っていない法衣貴族に部下は居ないわけだね。

 お養父様おとうさまの所も騎士は雇ってないし。


 ちなみに、カロルの実家のオルブライト家は、超精強な騎士団を持っているそうだ。

 騎士はお金がかかるので大丈夫なのか、とも思うのだけど、オルブライト領は王国でも随一の富裕領だしね。

 錬金薬利権、おそるべし。


 伯爵位がどれくらい偉いかというと、大体県知事ぐらいかな。

 子爵で市長、男爵で町長って感じか。

 封建制度なんで、支配してる面積換算だけどね。

 そうするとカロルは、実質的に県知事!

 こう聞くとなんだかとても偉く思えるね。


 侯爵が、県を束ねる地方の長で、辺境伯は国境を接する地方の長みたいな感じか。

 公爵はちょっと特殊で、王族の親戚じゃないといけないので、王子とか王女とかと婚姻を結ぶか、王さまの兄弟が家を興さないとなれないのだな。

 アップルトン王国では、公爵家は三家しか無いのだ。

 アップルビー、アップルヤード、そして、ポッティンジャーの御三家であるよ。

 アップルが付いてるのを見て解るとおり、二つの公爵家は遠い昔に王族から別れた家系ね。

 徳川御三家みたいなもんであるよ。



 友達とお部屋で、だらだらとおしゃべりしている時間も楽しくて好きだ。

 コリンナちゃんは、カロルの次に好きだよ。

 まあ、カロルは私の嫁だから。


 ……私は乙女ゲーの世界で何をやっておるのかな?

 いや、イケメンよりもカロルの方が萌えるんだから仕方が無い。

 仕方が無いのです。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 コリンナちゃんと連れだって夕食をとりに食堂へ。

 なんだか、日を追うごとに食堂に来る人が減るなあ。


 今日のメニューは、鳥のソテーかあ。

 また堅いんだろうなあ。


「ぬきうちよ」

「わかりました」


 む、カウンターの向こうのお姉さんが、並んでいた鳥ソテーのお皿を引っ込めた。

 何してん?

 列の後ろを見ると、ゆりゆり先輩と、エステル先輩と、メリッサちゃんが居た。

 下級貴族食のカウンターに舎監さんと、副舎監さん、という事は……。


「ねえ、あなたの鳥も取り替えてあげるよ。それ、新人が焼いたやつだから、ね」

「……いえ、これで良いです」


 証拠保全じゃい。

 おねえさんに奪い取られないよう、サラダとパンを素早くトレイに乗せてテーブルに持って行く。


 コリンナちゃんと席に着いて、お茶をくんできたりしていると、ゆりゆり先輩と、エステル様と、メリッサちゃんが、同じテーブルにやってきた。


「マコトさまっ、こんばんわ、ご一緒しても良いですか?」

「いいよん、一緒に食べよう。ユリーシャ先輩と、エステル先輩もよかったら、一緒に食べましょう」

「ありがとうございます。ではお言葉に甘えますわね」

「助かるよ、マコト君」

「こっちに証拠も保全してますから、抜き打ち対策の奴と食べ比べをしてみましょう」

「気が利くね、マコト君」

「さすがは、マコトさまですわ」


 エステル先輩と、ゆりゆり先輩は、ニヤニヤと悪そうな笑顔を浮かべた。

 うん、先輩方の持っている鳥のソテーは、見るからに肉質が違うね。


「馬鹿だなあ、すり替えるって事は、ごまかしているのを自認してるって事なのに」

「悪いことをする人たちって、呆れるほど楽天的よね」


 コリンナちゃんと、顔を見あわせて、こちらでもニヤニヤと黒い笑顔を交わした。


 私が取ってきた、色が変な鳥のソテーを三等分して、エステル先輩とゆりゆり先輩のお皿にのせた。

 代わりに二人が、良い焼き色の鳥ソテーを切って私の皿に入れてくれた。


「ああ、私も食べ比べがしたいですわ」

「メリッサさまは、私のを少しあげますよ」


 コリンナちゃんが、メリッサさんのお皿に、自分の鳥ソテーを切って入れてあげた。

 メリッサさんは、自分の鳥を半分切って、コリンナちゃんのお皿にのっけた。


「じゃあ、子猫ちゃんたち、まずはまずい方からだ」

「了解でーす」


 五人で一斉に鳥ソテーを口に入れる。


 もっきゅもっきゅもっきゅもっきゅもっきゅ。


「これは駄目だ」


 エステルさんがハンカチを出して、鳥の残骸をぺっとした。


「飲み込めませんわね、これ」


 ゆりゆり先輩も脱落。


「うえー、まずいですわ」


 メリッサちゃんはお皿に吐き出した。


 もっきゅもっきゅもっきゅもっきゅごくん。


 貧民二人は飲み込んだぜい。

 良く噛むのがコツ。

 そのうち味がしなくなるから。


「これはー、想像以上だったね」

「朝のポリッジもまずいんですよ」

「塩味の泥ですね」

「そんなにですの?」


 美味しい方の鳥を口に入れてみる。


「おいしーっ」

「入寮歓迎会の時の味だねえ、美味い美味い」


 おっと、パンも違うな。

 私は自分のパンを割って、エステル先輩とゆりゆり先輩のトレーに乗せる。


「堅いですわ、パンと言うより靴底を食べているみたいですわね」

「これは酷いね、ある程度はしかたがないとは思っていたけど、このままでは病気になる子がでる」

「どうするんですか、キッチンに怒鳴り込むんですか」


 エステル先輩は優雅にふふんと笑った。


「そんな事はしないさ、学園長に報告をあげるだけだよ、それで学食の味は良くなると思うよ」

「ここまでだと、業者を変えた方が良いかもしれませんわ」

「上級貴族食は、きちんと美味しいのだけどねえ」

「下級貴族食を食べなくてはならない身としては、美味しくなってくれると助かります」

「そうだね、乏しい家計から無理をして学費を払っている家だって沢山あるんだ。辛い思いをさせて申し訳なかった」

「いえ、エステル様のせいではありませんから、謝罪はいりませんよ」

「僕とユリーシャは舎監だからね、この女子寮であった辛いこと悲しい事は全部僕らの責任だよ」


 なんという聖人かっ。

 コリンナちゃんも感動の笑顔であるよ。


 キッチンから、中年の女性が私たちのテーブルにやってきた。


「あの、エ、エステルさま、な、なにやら手違いがありましたようで、その」

「……僕は、何か君に意見を求めたかい?」


 いつもにこやかなエステル先輩が、アラスカの空みたいな冷たい目を女性に向け、氷点下以下の冷たい声で言った。


「ですが、そのっ」

「僕の家は、どんな地位なのか知っているかい?」

「こ、侯爵さまです、で、ですが」

「君に直答を許した覚えはない、下がりたまえ」


 うっはー、怒ったお貴族さまはこえー。

 女性はコック帽を握りしめてブルブル震えている。

 顔が赤黒くなり、怒りで顔がゆがんだ。


「飢えに苦しんだ事もない、貴族の娘に私の気持ちは解らないよっ!!」


 女性はコック帽をつかんだ手で、私たちの座るテーブルを、バンと叩いた。


「「「「……」」」」


 食堂が水を打ったように、シンと静まりかえった。

 うわああ、庶民が、侯爵令嬢を怒鳴ったあ。

 たたた大変だ、吊るし首もあり得るぞ。

 

 エステル先輩はパチリと指を鳴らした。

 護衛女騎士ドミトリーガードが音も無く寄ってきて、女性の肩をつかんだ。


「彼女はお疲れのようだ、静かな所で休ませてあげたまえ」

「はっ」

「わ、私だって、私だって、できるだけ良い物を出したいわよっ!! 美味しいって言ってほしいわよっ!!」


 女性は引きずられていく。

 なにか理由があるのかねえ。

 おっと、女性と目が合ってしまった。


「あんた、あんたは聖女なんだろっ!! 私を助けてっ!! 助けてようっ!!」


 へ、私ですか?

 まずいポリッジを出す人を助けるいわれは無いんですが。

 私は小さく顔を横に振った。

 な、なんですか、その裏切られたって表情は、私は知りませんがな。


 女性はわめきながら食堂から連行されて行った。


「愚かね、これで業者の変更が確定だわ、美味しい料理を作るシェフでしたのに」

「こまったな、明日の朝食が出せなくなるね」

「今から業者の手配は無理よ」


 明日の朝ご飯は中止かあ。

 私はパン買ってあるから良いけどね。

 ふむ、だけどなあ。

 少ないとはいえ、何人かは下級貴族食を食べてる生徒がいるわけで。


「なんだったら、私が作りますけど」

「は? 君は聖女候補だろう?」

「パン屋の娘でもありますが」

「「あっ」」


 コリンナちゃんが顔をしかめた。


「マコトが作るポリッジかあ……、甘い?」

「ミルクで煮れば甘いのも作れるけど」

「私は、蜂蜜を入れたポリッジが好きですわ」

「ユリーシャ先輩、材料次第ですから」

「わ、私のは、ナッツ、ナッツを入れてくださいっ、マコトさまっ」

「ええい、個々に注文を付けるんじゃありませんっ」


 私は、君らのママじゃないんだっ。


「では悪いけど、明日の朝食を頼まれてくれるかい、マコトくん」

「いいですよ、朝ご飯を食べないと、お勉強もはかどりませんし」

「聖女候補が作る朝ご飯か、うん、なんだかとっても楽しみになってきたよ」


 そう言ってエステル先輩はにっこり笑った。


 ところでお賃金は出るのかな?

 お賃金、お賃金、私、お賃金だいすきっ。

 うへへ。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 中抜きと横流ししていたってことなのかな
[良い点] 『大体県知事ぐらいかな』 ここを『大分県知事』と読んでしまったために吹いてしまいました。 大ウケでした!
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