第365話 空の大怪獣マーラー襲来
「ちょうどいいや、マコト、あいつに接近してくれ」
「なにをするのよ、カーチス?」
「動く魔物に当てて初めて威力が試せるってもんだぜ」
何を言ってやがるのか、カーチス兄ちゃんは。
わざわざ野生動物を殺生する意味はないぞ。
と、思ったら、モーラーめはぐねぐねとこちらに向けて飛んで来やがる。
【あの生物はこちらの魔力反応に惹かれていますね】
ぐぬぬ。
「マーラー、なんて大きい……」
「ヒルダさん知ってるの?」
というか、マーラー領に近いから野生の魔物を知っていても不思議はないけど。
マーラー?
モーラーじゃなくて?
「うちの領の名前の元になったマーラーという魔物です。昔はよく領の近くで取れたらしいのですが、最近は乱獲で姿をみせなくなりました。山のこちら側に移ってきていたのね」
「なんで採るの、あれ?」
「もこもこしている所に剛毛が生えていまして、きちんと編み込むと防刃の外套が作れるんですよ。マーラー領のギルドに報告して冒険者を狩りにださないと」
「おい、マコト、運転しろ、マーラーの奴が近づいてきたぞ」
くそう!
私は心の中で毒づいて舵輪を握った。
【蒼穹の覇者号、戦闘機動に移行します】
「そうこなくっちゃな、マコト、胴体が狙えるぐらいに近づいてくれ」
「わかったよっ」
私は出力を下げ、舵輪を押し込んだ。
少し下に舳先が向いて、マーラーと正対した。
ガシャリと左右に船首が開いて魔導機関砲が顔を出した。
「おっしゃ、いくぜ、発射はこの引き金か? エイダ」
【画面の丸の中に弾丸は収束します。相対速度を計算して発射してください】
「いくぜっ!!」
カーチス兄ちゃんがガチンと操作レバーについた引き金を引いた。
ブモーーーーンという牛が鳴くような音がして、魔力弾丸がマーラーに向けて発射された。
機関銃というよりは、ホースで水を撒いてるような感じの光景だ。
魔力弾がマーラーのオレンジ色の胴体に直撃しバチバチと火花を散らした。
『まあ”あ”あ”あ”らあ”あ”』
なんとも言えない汚い吠え声を上げて、マーラーは空中でグネグネと暴れた。
「あまり効いてないかんじねっ」
カロルが声を上げた。
「言い忘れました、マーラーの毛は魔法防御力が高いのです。だからマーラー外套は防刃と抗魔法に優れています」
ヒルダさんが顔を上げて今更の情報を入れてきた。
「先に言ってくれっ!」
「マーラー領では常識なので」
「カーチス、マジックミサイルを試してみて。ヒルダさん、マーラーの攻撃法は?」
「空から下りてきて……、巻き付くですかねえ……」
「人死にが出る魔物なの?」
「動きが遅いので、それほど怖い魔物ではありません。毒もありませんし」
「あの毛が喉に絡むとイガイガするぞっ!」
いや、アダベル、食レポはいらんのだ。
「エイダ、ミサイルを使う、使用方法は?」
【一番から四番までの射出口を開きます】
足下から、カシャンカシャンと音がした。
射出口が開いたっぽい。
【自動的に標的固定をします、四角が赤くなったら、操縦桿の引き金を引いてください】
「わかった!」
サブ画面のマーラーの各所に四角形が合わさり小さくなって赤くなり、ピピッ! と音が鳴った。
エースコンバットだな。
「発射する!!」
カーチスが、カチカチカチカチと操縦桿の引き金を四回引いた。
マジックミサイルが白煙を引いてマーラー目がけて飛び込んでいく。
ドンドンドンドン!
マーラーの胴体の四カ所で炎の花が開いた。
「やったか!!」
ああ、これはやってないな。
『ま”ま”ま”あ”あ”あ”あ”あ”あ”ら”あ”あ”あ”!!』
汚い鳴き声を放ち、マーラーがぐねりながら飛空艇に向かって飛び込んできた。
私は舵を切り、船を旋回させて避ける。
結構動きが早いなこいつ。
「ミサイルもあまり効果がないね」
「とても抗魔力に優れているのです、マーラーの毛は」
なぜ、ヒルダさんは誇らしそうなんだ。
郷土の魔物だからか?
「エイダ、ミサイル射出口閉鎖、光ビーム砲を出してくれ」
「逃げちゃうのが正解だと思うよ」
「一発、一発だけ撃たせてくれ、な、マコト」
「しょうが無い、一発だけよ、外したら承知しないからね」
「わかったわかった」
【光ビーム砲展開します】
足下でギャリリリリと大きな物が動く気配がして、ガッチャンという音と振動がした。
【光ビーム砲展開しました。武器管制席のモニターを射撃モードに移行します】
おお、画面に十字と円の照準が出てきた。
武器管制席の操縦桿で移動出来るようだ。
【敵性存在を中央に合わせて引き金を引いてください。砲身を冷やす関係で再射撃まで十秒弱の射撃ロックが掛かります】
さすがは光ビーム砲、連射は出来ないのね。
「当てなさいよ、カーチス」
「わかってるよっ!」
振り返るとカーチス兄ちゃんは真剣な顔で前面のモニターを睨んでいる。
何かの補正が掛かるようで、ピピピと音がして、照準が赤くなってマーラーの胴体で固定された。
「光ビーム砲、発射!!」
一瞬モニター群が一斉に真っ白になった。
ビーーーーーー! と音が鳴って、一本の太い白い光線を残して映像が戻った。
光の速さで伸びたビームはマーラーの胴体を直撃して大穴を開け、そのまま前と後ろに切断した。
うっは、なんて威力だよっ!
マーラーの後ろ側は山に落下していく、前側は体をくねらせて逃げ出した。
「ふう、当てたぜ」
「……」
「……」
「……武装は機関銃以外封印しましょう」
「そうね、それが正しい気がする」
「何言ってんだよ、戦争につかえるぞこれ!!」
「使いません」
……。
あ、ポッティンジャー領の麻薬畑とかを焼き払えるな……。
その為の重武装か?
うーん。
まあ、後で考えよう。
まずは新入生歓迎ダンスパーティのドレスからだな。




