第351話 夜お風呂に入ると通報が入る
ご飯が終わったので205号室に引っ込んで色々考える。
地図が無い。
カロルとお出かけの時に買った地図帳なのだが、飛空艇に置いてきてしまった。
エイダさんが古い地図と照合して船内に地図データを更新するって事で、置いてきたんだな。
航行士のテーブルには書類をめくるアームとカメラが付いてるので、それで読むらしい。
まったく、魔導頭脳は良く出来ている。
のだが、そのせいで手元に地図がないので明日の飛行計画が立てられん。
「なに悩んでんの?」
机の前で悩んでいたら、隣で勉強していたコリンナちゃんが声をかけてきた。
「明日の飛行計画だよ」
「マーラー領にひとっ飛びじゃないの?」
「カーチスのリクエストで武装の試射をしたいのだけれど、どこでやれば良いか、地図がないのでお困り中だよ」
「ふむ、こっそり図書館に行って取ってくるのはどうか?」
「学者さんが徹夜してる気がするからヤダ」
サーヴィス先生もご飯が終わったら図書館の方にいそいそと去って行ったしなあ。
地下秘蔵書庫は学者ホイホイであるよ。
「んじゃ寝てろ」
「お風呂行ってくるかな」
「またかい」
「お風呂は何回入っても良い物だ」
「しゃーないな」
コリンナちゃんが立ち上がり、チェストからお風呂セットを出した。
付き合ってくれるのか、ありがたい。
私のお風呂セットは収納袋内だから……。
あ。
「収納袋内の兎とかカピバラはどうしよう」
「明日の放課後にギルドへ……。ああ、マーラー領の冒険者ギルドに売ればいいんじゃないか」
「なんでマーラー領?」
「どうせ行くんだし、王都よりも狭いだろ」
「それもそうか、コリンナちゃんは頭が良いな」
私が立ち上がると、ダルシーが現れた。
なんかドヤ顔をしておる。
マコトさまのやることはお見通しですよ、みたいな顔だ。
くそう。
三人で外に出て、施錠する。
メイドさんたちはもうすぐ戻ってくるね。
担当のお嬢様たちが寝てから帰るので、部屋に戻る時間は色々であるよ。
「ダルシー、飛空艇の中で足りない物はある?」
「キッチンに調味料類がありませんね。シャンプーリンス類は置いてありましたので、口に入る物は保存してないようです」
「アンヌさんと相談して必要な物は揃えておいてね」
「かしこまりました」
「食器も買った方がよくないか?」
「一流の食器が揃ってたやん」
「一流過ぎて、割ったらとか考えて怖い。派閥員なんか別に安食器でかまわないだろう」
「茶器は安いの買おうか。確かに割ると痛いかも」
「あれらは博物館に展示すべき食器だからなあ」
ダルシーがポケットからメモ帳を出して書き込んでいる。
うむ、偉いぞ。
階段を地階まで降りて、大浴場の脱衣室に入る。
服をちゃっちゃと脱いで裸になって浴室へ。
夜も遅いから人はいないね。
かけ湯をして、湯船に入る。
あー、やれやれ、お湯がじわっと染み入るね。
ホルボス山の温泉は硫黄泉で結構強いから、あっさりしたお湯が肌に優しい。
いやいや怒濤の一日であったよ。
竜の子は拾うし。
「土曜になったら孤児院の子を連れて王都遊覧飛行をしようかな」
「そりゃいいね、子供たちは喜びそうだ」
「しかし、飛空艇が手に入ったけど、長旅はできないねえ」
「土日でも行事があるからな。泊まりがけだと遠くまで行けるが、今は近所を飛ぶぐらいだね」
「コリンナちゃんはどこか行きたい所ある?」
「私は王都っ子だから、あまりないなあ、他の子の領とかみたいね」
「うんうん、見たい見たい、時間を作って色々回ろう」
「貿易も儲かりそうだ」
コリンナちゃんが悪い笑い方をした。
うむ、商売は儲かりそうであるな。
書類関係はたのんだぞ。
ダルシーに体と髪を洗って貰い、もう一度お湯に入って暖まって、お風呂を出た。
ふう、さっぱりすっきり。
制服に着替えて髪の毛をドライヤーで乾かして貰う。
ビービーとエイダさんとの通信機が鳴った。
【マスターマコト、エイダです。すみません、今、良いですか】
「はい、なんでしょう?」
【侵入者が三人、崖をロープで下りて着陸台におります】
「まじ!!」
だれっ? 『塔』はまだ再起動してないはずだし、ポッティンジャー派閥の誰かかな?
【男子学生のようです。ゲートは開かず、その上ロープが短くて、帰れなくて泣き叫んでおりますが……】
えー……。
馬鹿か、馬鹿学生なのかっ!
この気候なら、一晩、外に寝かしておいても大丈夫だろう。
とは思うのだが、可哀想かなあ。
しょうがねえなあ。
「行くのか、マコト」
「しょうが無い、行ってくる」
「一緒に行こう」
「なんでよ」
「地下通路を全部、見通しメガネで見てない。脇道があるかもしれない」
「それもそうだね、行こうか。ダルシーもお願いね」
「かしこまりました。馬鹿学生は殴ってもいいですか?」
「ま、まあ、相手の出方次第で」
「わかりました」
なんで、ダルシーは残念そうな顔なんだろうなあ。
ちょうど地下だから良いね。
私たち三人は大浴場を出て、地階の奥へと向かった。
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