第349話 地下通路に学者さんたちが感嘆の声を上げる
みんなを操縦室から追い出した。
船長が下りるのは最後なんだよ。
ダルシーとアンヌさんに船内に人が残ってないか見回りに行ってもらった。
生徒が部屋で寝てたりしたら大変だしね。
「誰もおりませんでした」
「総員下船完了です」
「じゃあ、下りましょう」
三人でタラップを使って下船した。
【お疲れ様でした】
「エイダさんもお疲れ様」
【私は魔導頭脳なので疲労はいたしません】
まったくもう、人工知能は頭が固いよ。
学者さんたちの姿がないので見回すと、あちこちで何か調べてやがる。
「いやあ凄いね、整備器具も百五十年前の超一流品だね」
「これは一財産だね。アンティークとしての価値もある」
「こっちには……、カタパルト機構が……、ない」
「ホルボス山基地に比べて渓谷が狭いからじゃないかな」
「なに! ホルボス山には魔導カタパルトがあったのか!」
「あった……、研究……、し損ねた……」
私は手をパーンと打ち鳴らした。
「さあ、帰りますよ、研究は後で!」
学者さんたちはしぶしぶ集まってきた。
私は学校側の魔力ドアを開けた。
「魔力ドアですか。光魔法だけに反応するならば、セキュリティも万全だわ」
「そうなんですよ、サーヴィス先生」
「学校の地下にこんな通路があるだなんて、長年通ったのに知らなかったわ」
それは知らないだろうよ。
皆で並んで通路を歩いていく。
学者さんはいちいち立ち止まるので、なかなか進まないのが困る。
「ここは何の部屋だい? 見ていっていいかね、マコト」
「ただの待合室ですよ」
私が解錠すると皆はどやどやと部屋に入っていった。
「ほー、応接セットにちょっとした流しか」
「格納庫での出発までの待合室かね」
「おお、ロッカーにはもこもこの服が、なんだろうこれは?」
「高空用の与圧服みたいですよ、長官」
「それはすばらしいね」
まー、学者というのは好奇心旺盛だなあ。
そうでなきゃ学者とかやってないだろうけどね。
ようやく学者さんたちの観察が終わったので先に進む。
曲がり角を左に行って、先の魔術ドアを開ける。
「まっすぐ行くとどこだね?」
「女子寮の地下に繋がってますよ、ジョンおじさん」
「なんともまあ、しつらえたような地下施設だね」
「本当にそうですね」
というか、ビアンカさまはどれくらい未来視して邸宅をたてたんだろう。
未来の学園に合わせて地下道を掘ったっぽいなあ。
ずんずん進んで図書館の地下室側の魔力ドアを開ける。
中で作業をしていた歴史資料館の職員の人が、私たちを見つけて挨拶をしてきた。
「なんと、ここに通じているのか!」
「ここはどこですか? キンボール教授?」
「学園の図書館の地下です、サーヴィス先生。稀覯本が山ほどありましたぞ」
「なんだって、それは聞き捨てならんなっ!」
「魔導の秘本も沢山見つけましたぞ、長官」
「貸し出しはしていただけますか、教授」
「まだ目録作りが済んでおりませんでな、もう少ししたら公開いたしますよ、サーヴィス先生」
もー、学者さんたちはあちこちで引っかかるなあ。
地下書庫で小一時間潰しそうであるよ。
「それでは、私たちは女子寮に帰りますよ。お養父様もジョンおじさんもご本に夢中にならないで、食事をしてくださいね。良い時間ですので」
学者さんたちが一斉に懐中時計を出して時間を確認した。
もうそろそろ晩餐の時間なんだな。
「サーヴィス先生も女子寮でお食事を取られては?」
「む、それは良いねえ」
「ルカっち、皆さんを連れて、男子寮食堂か、上級貴族レストランに行ってらっしゃい」
「そうだね、どうしますか、クレイトン長官?」
「そうだね、食事をしてからゆっくりと書庫の本をあらためよう。上級貴族レストランで私がおごろうではないか」
「サーヴィス先生はどうしますか?」
「ちまちまと上級レストランで食事はしていられんよ。久しぶりに女子寮食堂に行くよ」
「じゃあ、そういうことで、みなさまごきげんよう」
「ごきげんよう、マコトくん」
「あ、マコト、照明の魔力を入れて行ってくれ」
「わかりましたよ」
私は近くにあった魔力板に魔力を入れた。
ふわっと地下書庫の照明の光度が上がった。
私とカロルとサーヴィス先生は今来た道を引き返した。
足音がカツーンカツーンと響く。
「学者さんたちは。なぜ沸騰したみたいになってるんですか?」
「何を言ってるのかね、キンボール君、行方不明の蒼穹の覇者号はとても人気のある謎なんだよ。何本も推理された論文がでていたぐらいだ」
「そうだったんですか」
「それが現存して動体保護されていたなんて、学者冥利に尽きる話だね。キンボール教授が本を書くのではないかな」
本を出すのかあ。
書籍化お養父様だな。
家計の足しになってくれれば良いのだが。
「蒼穹の覇者号はビアンカさまの乗機と言うことで、贅をこらした内装に、独特の光魔力エンジンで、飛空艇マニアにとってとても人気があるんだ。厳重な格納庫があってよかった。グラウンドにあったらマニアが忍び込んでいたね」
「そんな人達がいるんですか」
前世の鉄道マニアみたいだね。
「飛空艇自体が少なくなっているからね。黄金の暁号などは、なんども侵入事件を起こされているよ」
「それは、また面倒な人達ですね」
「世の中にはやっかいな人間が沢山いるのさ」
学者さんたちもやろがい。
と、思ったが私は賢明なので黙っていた。
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