第34話 冒険者ギルドに行けばハゲマッチョに絡まれるのは必然で
カロルと一緒に王都を行く。
良い天気で楽しいなあ。
ちなみに、カーチスとエルマーは部活に出るので、ゆりゆり先輩たちと一緒に帰りました。
コリンナちゃんも誘ったんだけど、冒険者ギルドに一ミリも興味が無いので、帰って勉強するそうです。
というわけで親友のカロルと二人きりで王都デートです。
わくわくするなあ。
「冒険者ギルドはどこにあるの?」
「裏道にあるのよ、ここを曲がって、そこよ」
おっ、ゲームの背景のまんまのぼろい建物があった。
ちなみにゲームでは、冒険者ギルドに行くのもデート扱いだったりする。
カーチス兄ちゃんとエルマーは冒険者ギルドが好きなんだが、他のキャラは冒険者ギルドに行くと嫌な顔をしてたなあ。
「中にはちょっとガラの悪い人もいるのだけど、マコトは大丈夫?」
「あ、別に平気だよ」
「じゃあ、入りましょう」
両開きのドアを開けて中に入ると、酒場みたいなテーブル席が並んでいて、悪者っぽい人たちがお酒を飲んでいた。
その奥に古ぼけたカウンターがあって、綺麗なお姉さんが座っている。
あそこが受付のようだね。
ゲームの背景だと、もうちょっと中に入った所から描いているかな。
ちょと、印象が違う。
飲み助の悪人どもを描きたくなかったのか、酒場が半分ぐらい写ってないね。
まあ、ゲームで重要なのは受付の方だしな。
早速、酒場の方からハゲマッチョがやってきた。
「おいおい、ここはお前らみてーなガキの来る場所じゃねえんだ、帰れ帰れっ!」
うおー、テンプレー、なんか感動的だなあ。
声優さんと声もにてるのな。
そういえば、カロルの声も、カーチスも、エルマーも、声優さんの声そのままなんだよね。
考えてみたら、不思議不思議。
「怖いよう、カロル助けて(棒)」
「え? どうして?」
「うん、私、ハゲマッチョが大の苦手なの」
「それにしては満面の笑顔なんですけど」
「気のせいよっ」
さあ、カロルの好感度よ、どんどん上がるが良い。
ジャリジャリジャリーンと、カロルのスカートの中から大量の鎖が落ちてきた。
本当に、どこに入ってるんだろうか、アレ。
「な、なんだあ、学園のガキどもめ、鎖を出したからって……、鎖?」
ハゲマッチョはカロルの足下の鎖を二度見した。
「ひいいいいやああああっっっ!! ごめんなさいごめんなさいっ!!」
受付嬢の人が飛び上がるように立ち上がり、全速力で奇声を上げながら駆け寄ってきた。
なんだかコワイ。
受付嬢は、そのまま、カロルの足下へジャンピング土下座した。
な、なんだ、これ。
カロルを見てみると、彼女も目を丸くしていた。
「オルブライトさまっ、ごめんなさいごめんなさいっ、うちのギルドマスターがごめんなさいっ!! なにしてるの、ギルマスも土下座よっ!! オルブライトさまの怒りをかって、ポーションの供給を止められたらどうするんですかっ!!」
「あ、いや、その、カロリーヌ・オルブライトさまですか? す、すいません、ギルドマスターのアレン・エドモンズと言います。ごめんなさい、ギルドへのポーションの供給は止めないでください」
アレン・エドモンズと名乗ったハゲマッチョはカロルに土下座をはじめた。
「ギ、ギルドマスターさんだったんですか?」
「はい、ごめんなさいっ」
「ギルマスには悪い趣味がありまして、魔法学園の生徒さんに絡んでですね。『平民の分際で』とか言われたら、『ふふん、こう見えても俺は伯爵なんだぜ』と言って、冒険者ギルドには身分の上下は無いと、思い知らせる遊びをしていたんですよ。そのうち、偉い人にぶつかって怒られるからやめなさいって、あれほど口を酸っぱく諌言していたのにっ」
何やってんだ、このハゲマッチョギルマスは。
「い、いやだけどさ、伯爵位より上の魔法学園の生徒さんは、みんな顔を覚えてるしさ」
ゲームのイベントでは、王子とか、エルマーとか、カーチスに絡んでいたけどなあ。
ああ、今回と一緒で、私が先に歩いていたからか。
「あの、ポーションの供給を止めたりしませんので、その、立ち上がってください」
「そうですか、助かります、申し訳ありませんでした、オルブライト嬢」
「本当に、馬鹿なギルマスでごめんなさいね」
大丈夫か、冒険者ギルド王都支部は。
「なに、呆れた顔してんだ。ふん、ここは、お前さんみたいなお嬢ちゃんの来るところじゃあねえんだぞ」
ああ、ギルマスが、私に絡んできたよ。
「なんだよ、平民の分際で」
私が乗ってあげると、ギルマスは嬉しそうに笑って。
「へん、実は俺は、伯爵さまなんだぜ、ああん」
と、言ってどや顔の後、チンピラスマイルを浮かべた。
「ギルマス、やめなさ……」
「うあああっ、おまえっ、ギルマスっ!! 貴様っ!! そのお方が誰か解っているのかーーっ!!」
怒鳴り声を上げて、酒場の奥から、銀色の甲冑を着込んだ騎士っぽい男が全力ダッシュしてきた。
あ、やべえ、ブレストプレートにくっきり聖心教のシンボルが彫ってある。
大神殿の関係者だ。
「え、な、なに、サイラス君、この可愛い子は、君の知り合いなの?」
「ギルマス!! 貴様ああっ!! このお方は、聖女様だぞ、頭が、頭が高いっ!!」
「ひいいいいいっ!!」
再び、ギルマスと、受付嬢と、うちの関係者らしいサイラスさんが、今度は私に土下座を決めた。
「やめろよう」
「そうはいきませんっ!! この愚かなギルマスが、我が大神殿の至宝たる聖女さまを恫喝するなぞ、言語道断っ! このサイラスが無礼打ちをいたしますっ!! ご勅命をいただきたくっ!!」
「いいよう、ただの冗談なんだしさあ。サイラスさんも落ち着いてよ」
「ああ、我が名を覚えてくださるとは、光栄の極み、そして、なんという慈愛に満ちたお言葉っ」
サイラスさんは感極まって泣き始めた。
ああもう、だから大神殿の関係者はいやなんだよう。
聖女愛が重すぎるっ。
カロルと目を合わせてお互い苦笑いを交わした。
「もう、いいから、私たちの用事を済ませたいのです」
「マコトの言うとおりね」
「はい、こちらでお伺いします。ギルマスは邪魔ですから、どっかに行ってください」
「えー」
不満顔のハゲマッチョギルマスは受付嬢に追っ払われた。
さて、カウンターについて、用事を……。
「なんでサイラスさんは、私たちの後ろに突っ立ってるんですか?」
「こんなむさ苦しい場所に、聖女さまと、そのお友達を、お二人だけで置いておくわけにはいけません。自分が護衛します」
「いいから、サイラスさんも何か用事があるんでしょ?」
「いえ、自分は魔物退治の依頼を一つ終わらせて、飲んでいただけですので、お気遣い無用です」
「教会騎士の人も、冒険者みたいな事するんですか」
「はっ、我々教会騎士団員は、リンダ隊長から、非番の時は、冒険者ギルドの依頼を受け、魔物を倒し、民を安堵し、実戦の勘をやしなうべしと、言われておりますっ」
教会騎士は、あまり戦争に出ないので、実戦の機会が無いからなのか。
訓練だけでは強くなれないからねえ。
もう、サイラスさんは放っておこう。
「では、オルブライトさま、薬草採取の依頼を百束分、納期は一ヶ月ですね。」
「よろしくお願いいたします。薬草はいつも通り、うちのメイドが取りにきますので」
「はい、うけたまわりました。掲示しておきます。いつもありがとうございます」
王都の薬草採取の依頼は、錬金術師が出していてくれてたのか。
大聖堂孤児院の子供たちが、お小遣い稼ぎにやっていたなあ。
私も護衛がわりに、よく一緒に行って、薬草を摘んだよ。
私が取った薬草が、回り回ってカロルの手でポーションになったりしたんだな。
カロルがサインした依頼書を受け取ると、受付嬢さんは、私の方を向いた。
「さて、聖女さまは、いかがいたしましょうか?」
「私は、冒険者登録に来ました」
「ありがとうございます。では、こちらの書類に、必要事項を記入おねがいいたします」
受付嬢さんが出してきた羊皮紙の用紙に、氏名、住所、連絡先などを書いていく。
「はい、ありがとうございます。こちらがギルドカードになります、血を一滴、ここの四角の所に垂らしてください」
銀のピンを人差し指に刺して、血を一滴ギルドカードに垂らす。
カードから、ふわりと柔らかい光が瞬いて、カードの登録は終わった。
これがあると、王都の城壁の外に出ても、また入るときに通行料がかからなくなるんだよね。
「最初のクラスは鉄色になります、依頼を何件かこなすと、銅色に上がれますので、頑張って下さいね」
「はい、がんばります」
受付嬢さんは、いろいろと注意事項を教えてくれた。
なるほど、色々約束事があるんだね。
ギルドカードを無くすと再発行に五千ドランクかかるらしい。
結構するね。
さて、これで、依頼を受けて、お金が稼げるぞ。
っても、鉄色の間は、そんなに儲かる仕事はないけどね。
早めに銅色まで上げたいな。
冒険の依頼は、酒場と受付の間にある掲示板に貼り付けてある。
薬草採取の依頼票を貼り付けている受付嬢さんの後ろから、依頼を覗いてみる。
お昼過ぎだから、あんまり張っていないね。
「新しい依頼は、朝の九時に貼り付けられますので、平日は、学生さんに割の良い依頼は当たらないかもしれませんね」
「学生は、本職の冒険者ではないので仕方が無いですよ」
本職はこれで食べていくのだから、本気度が違うよね。
残っている鉄色の依頼は、薬草採取とか、スライム討伐とか、街の掃除とかだね。
今度、薬草採取とかやろうかなあ。
「聖女さま、冒険に出られる際は、自分をご用命下さい、この命を捨ててでも、お守りいたします」
「考えておきますね。ありがとう、サイラスさん」
「ありがたきお言葉っ」
というか、教会騎士さんを冒険に連れて行けば安心だけど、うっとおしいので、やだ。
検討するだけで、サイラスさんは絶対に連れてはいかんぞ。




