第339話 飛空艇はホルボス村広場に着陸する
舵輪を傾けて飛空艇を旋回させる。
って、おおお?
飛空艇が傾かないぞ。
……、ああ、別に飛行機みたいに羽で飛ぶ訳じゃ無いから傾かないのか。
なんだか変な感じ。
水平のままぐぐっと景色が回って行く。
「飛空艇は旋回の時は傾かないのね」
【はい、上昇のさいは仮想翼によって揚力を操作しますが、旋回の時は四つの旋回翼の推進力の差で旋回いたします】
なるほど、それぞれのプロペラの力を変えて曲がるのか。
飛行機というよりもヘリコプター系の乗り物なんだな。
面白い。
さて、旋回は大体こんな感じかな。
私は舵輪を戻して水平飛行に入った。
あ、村が見えるよ。
結構な速度なんで、ぐんぐん近づくな。
「速度を落とすには」
【出力レバーを絞ってください】
あ、この四本のレバーがまとまった物は、それぞれのプロペラに別々の出力調整が可能なのか。
慣れてくれば変速的な動きもできそうね。
【少しずつレバーを逆転位置に入れて行ってください、制動力が掛かります】
「逆噴射ね」
「凄いわ、マコト、操縦の才能もあるのね」
いえ、メーデー民なだけです。
メーデーというのは前世の航空機事故の番組だな。
面白いのでスカパーで見ていたよ。
私の航空機の知識はだいたいそこからだ。
画面のマップが大きくなって、村の広場の位置と飛空艇の位置が一目でわかった。
ちょっとずつずれるのは風のせいかな。
ポンと音がなって下方向の映像が映った。
村人と、メリッサさんとマリリンがポカンとした顔でこちらを見上げている。
【着陸シーケンスに入ります、舵輪を押し下げてください】
「こうかな」
私は舵輪を前の方に押し込んだ。
ふわっと飛空艇は高度を下げていく。
【着陸脚展開。着陸まで、五、四、三、二、着陸】
「「「「「おおーっ!』』』』』
みなが拍手をしてくれた。
ありがとうありがとう。
だが、別に舵輪を押し込んだだけさー。
もっと慣れたらエースコンバットみたいに空中戦ができるようになるかな?
いや、何と戦うかは知らないけど。
【回転翼停止します。お疲れ様でした、マスターマコト】
「ありがとう、エイダさんもお疲れ様」
【私は機械ですので疲れません。お気遣いはご無用です、マスターマコト】
まあまあ、こういうのは気分だからさ、エイダさん。
「さて、みんな、お昼を食べて、温泉に入って、学園に飛んで戻ろう」
「「「「「はいっ」」」」
「おうっ」
「そうだね……」
操縦室を出て、出入り口に行くと自動的にドアが下に開いて階段になった。
「マ、マコトさま~~、なな、なんですのこれ~~?」
「ビアンカ様の飛空艇だよ、迷宮の隠し通路を行ったら見つけたよ~」
「「すごいですわ~、すごいですわ~~!」」
メリッサさんとマリリンは手を取り合ってぴょんぴょんと跳ねた。
えへへ、いいでしょ~。
村人たちも集まってきてわいわいと騒いでいる。
「こんな物があのしけた迷宮の奥にあったのか……」
「なんという凄い事じゃ」
「ああっ!!」
尼さんが教会の方から走ってきて、私の足下にひざまづいた。
な、なにごと?
「聖女さま!! 聖女マコトさまですねっ!」
「は、はい、そうですが、聖女候補生のマコトです」
「ああっ!! 我が教会に残された聖典の余白に、予言が書かれておりました。曰く『迷宮の奥より宝を持ち出す者あり、それぞ聖女の生まれ変わり』と、ご存じの通りホルボス迷宮はとてもしょぼいので、馬鹿馬鹿しいと笑われていたのですが、ああっ!! 本当の事だったのですねっ!!」
ビアンカさまめ~~。
とんまな古文書を残すんじゃないですよ。
「おおっ、聖女さまでしたか、それはそれは」
「聖女さまならホルボス迷宮から飛空艇を掘り出してもしかたがないな」
「そうだな、聖女さまだしな」
やい、村人ども、きさまらは聖女をなんだと思っておるのだ。
奇跡製造機じゃないぞ。
アダベルが興味津々という感じでキョロキョロと村を見ていた。
カロルが何かあったら止めるという顔で後ろに付いている。
私の嫁は世話好きだなあ。
「あら、そちらのお方は?」
「我はアダベルトだよ。お前は?」
「え、あ、その、メリッサと申しますわ、アダベルトさま」
「そうかそうか、よろしくな、メリッサ」
アダベルはそう言ってにこやかに笑った。
メリッサさんは当惑しているね。
まあ、そうだろうなあ、角が生えて尻尾があるしな。
「どなたですの?」
メリッサさんが寄って来て小声で言った。
マリリンも近くに寄ってきた。
「ドラゴン……」
「……竜人族の方ですの? そういう民族が北方の方にいるとは聞きましたけれど」
「うん、まあ、そんな感じかな。人慣れしてないし、常識が無いから教えてあげてね」
「わかりましたわ、お任せください、マコトさま」
「おまかせください」
マリリンもうなずいて微笑んだ。
いいのかお前ら、安請け合いして。
「とりあえず、お昼ご飯にしましょう、みんな」
「「「「「はーい」」」」」
「あー腹へった」
「うむ……」
私たちはホルボス村唯一の宿屋へと向かった。
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