第338話 蒼穹の覇者号は離陸する
【マスター、機器のチェックが終了いたしました】
甲板で空の旅を夢想していたら、エイダさんの声が聞こえた。
船の中ならば、どこでも声を届けられるようね。
「わかりました、では初飛行しましょう。目的地はホルボス村ね」
【かしこまりました、では、メイン操縦室にお戻り下さい】
了解~。
みんなを引き連れて階段を降りて二層目にいく。
壁にはしっかりとした手すりが付いてるね。
飛行中揺れた時のためかな。
操縦室に入る。
【操縦士席におかけください】
「他の三つの席はなに?」
【右側の席は副操縦士席です。左側の席は火器管制席、後ろの席は機関士席です】
うお、火器管制の席もあるのか。
「それぞれの席に人が乗って無くて大丈夫?」
【問題はありません、操縦士席に乗っていただければ私が他の席の役割を代行いたします】
自動操縦も出来るのだから、基本的に人はいらないんだろうね。
ビアンカさまが熱心に操縦するとも思えないし。
私は操縦席に付いた。
アダベルがちゃっかり副操縦士席にすわっておる。
「というか、あんたは降りなさいよ」
「え、なんで?」
「あんたの家、ここでしょ、私たちはこれで帰るんだから」
「え?」
アダベルの表情が曇った。
「もうちょっと、マコトとかカロリーヌと遊びたい」
「ビアンカさまとの誓約は切れたの?」
「切れたよ~、もうどこに飛んで行っても自由なんだ~」
「引っ越しするの?」
「しない~、お宝運ぶのが面倒くさいし」
まあいいかあ。
百何十年も飛空艇を守ってくれた恩があるしなあ。
ドラゴンの姿になれば飛んでここに帰ってこれるしね。
「アダベルは人間の世界が見たいの?」
「見たい見たい、狂犬聖女につかまる前は人化できなかったから、人間の世界みたい~」
「じゃ、大人しくしてなさいね」
「わかったー、マコト」
なんだかなあ、ドラゴンは野良猫じゃないのだが。
ビアンカさまの思し召しというか、あの悪聖女は普通にこれを狙ってただろう。
まったくもう、性悪なんだから。
「エイダさん、副操縦士席のスイッチ類は無効にしてね」
【現在はメイン操縦席のみ機能しております】
むむ、エイダさんには隙が無いな。
操縦席に付き、舵輪を持って前を向く。
というか、前方の窓は細くて視界が悪いな。
副操縦室の方が操縦しやすそうじゃない?
【メインサブ魔導ディスプレイ起動】
パパッと前方の壁が明滅すると、外の景色が映し出された。
うっはー、なんだこれ。
マニュアルを見る。
右の数値が高度を表していて、真ん中の円の中に四角と水平棒がついた物が水平儀か。
私は詳しいんだ。
メーデー見てたからな。
【左手のレバーを押し上げて下さい】
「こう?」
左手にある太いレバーを前に倒すと、足下から、ギュワアアアアンと小さな音がした。
【一番から四番回転翼に動力接続】
ファンファンファンと頭の上で何かの音がする。
プロペラが回りだしたかな。
【蒼穹の覇者号、離陸します】
ちょっとふわっとした浮遊感がすると、飛空艇は少し浮いた、らしい。
「おお~」
「すげえ」
「出力が……、半端ない……」
【ホルボス基地魔導シャッターを開けます、一番、二番、三番、四番】
前方にあった両開きの扉が音をたてて開く。
一枚、二枚、三枚、四枚。
外が見えた。渓谷がまっすぐ伸びている。
【魔導カタパルトを使いますか】
「うはー、どんだけロマン基地なんだー。よし、行こう! エイダさん、カタパルトを使って」
【かしこまりました、マスター】
ファーンファーンと警報が鳴り、赤いパイロンが光輝いた。
カシャンカシャンと出口の向こうへレールのような物が伸びていく。
【蒼穹の覇者号! 発進!!】
ふわっと速度が上がり飛空艇は滑らかに加速してカタパルト内を疾走していく。
「なんと……いう、加速力……、魔導力場誘導……」
「すごいわ、前期魔導文明のアーティファクトかしら」
「研究……、研究したい……、マコト……、止めるんだ……」
「加速中に止める馬鹿はいないよっ、なに、また来て研究すればいいよっ」
「ぐぬぬ……」
「うむむ……」
あー、なんだか魔法省の魔導マニアどもが押しかけてきそうだなあ。
アダベルのお宝をどこかに隠さないといけないかも。
王家に接収されたりしたら可哀想だしね。
お養父様も、お宝にラベル付けたりしそう。
まあ、そういう事は後々、今は飛行を楽しもう。
飛空艇は凄い速度になってカタパルトを抜けた。
木々が突風で次々と倒れていく。
【マスターマコト、上昇してください】
「ええとこうか」
舵輪を両手で持って引き上げる。
おおっ、上昇するっ!
角度が上に向いた。
渓谷がどんどん下に動いて行く。
前方には空。
真っ青だ。
うわーいっ!
「もういいかな」
【はい、お見事な操縦でした】
よせやい。
お世辞を言う機能まで付いているとは、魔導頭脳は凄いな。
私は舵輪を元に戻した。
飛空艇は水平飛行に移ったようだ。
「すごい、空にいる」
「青いみょん、山が下だみょんよ」
「わあ、凄いなマコト!」
「おー、自分の羽以外で飛んだの初めてだー」
みんなに褒められたが、私がやったのは舵輪を引っ張っただけであるよ。
たいした事はないのです。
「エイダさん、ホルボス村に行きたい、方向は?」
【後方になります、船首を回頭ねがいます】
ベインッと音がしたと思ったら、メインディスプレイに地図が浮かんだ。
丸に三角が蒼穹の覇者号、赤い丸がホルボス村のようだ。
よし、お洒落組にも飛空艇を見せてやるぜっ。
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