第336話 蒼穹の覇者号の操縦席
後ろを振り向くと、あのどでかいアダベルトの巨体が無い。
まさか本当に人化して美少女化しおったか!
「えーと」
「入ろう、早く入ろうよ」
「ま、まあいいか」
アダベルトにせかされて私はステップを上がり、船内に入った。
黄金の暁号は巨大な四層船で前世のフェリーぐらいあったが、蒼穹の覇者号は二回りぐらい小さい。
三層船かな。
その二層目に入れたようだ。
木で出来たシックな内装の廊下はシンと静まりかえっている。
「なんだ、動いてないのか?」
「魔力を供給してないからね」
ちょっと振り返ってアダベルトの両脇に手を入れて抱き上げる。
「な、なんだよっ」
「いえ、ドラゴンの体重のままだったらやだなあって思って」
「体積が減るから、普通に体重も見た目通りだよ」
アダベルトを床に下ろした。
「そうみたいね」
意外に天井が高い廊下を少し行くと、船首方向のドアがあった。
魔力板に魔力を流し込む。
しゃっと音を立ててドアが開く。
やっぱり、マニュアルの見取り図通りね。
中は操縦室だった。
振り返る。
奥に向けてもドアがある。
あの奥が客室になってるのだろう。
いいね。
操縦室に入る。
さて、どうやって起動させるんだっけか。
収納袋からマニュアルを取り出した。
「おーすごいなあっ、こんな風になってるのかー」
アダベルトは船内をきょろきょろ見回す。
みんなも操縦室に入ってきた。
操縦席は四畳半畳ぐらいの広さの部屋で四つの座席がある。
一番前に舵輪みたいな物が付いてるから、操縦席かな?
「アダベルトちゃん、飴舐める?」
「飴、飴ってなんだ? ええと」
「カロリーヌよ、よろしくね」
「アダベルトだ、我こそよろしくなっ」
「なんで、アダベルは子供っぽいしゃべり方になってんの?」
「え、ああ、古語だったからな、この時代の言葉だとこうだろ?」
「お上手よ、アダベルちゃん、はい、飴」
「ん? 宝石?」
「舐めるのよ?」
カロルが口に飴を入れると、真似をしてアダベルも口に飴をほうりこんだ。
「うわ、甘いっ! 蜂蜜? あ、なんかスースーする、面白いなっ、面白いなっ」
そう言うと、アダベルはガリガリッと飴をかみ砕いて飲んだ。
「もっとくれっ」
「もう、かみ砕いちゃ駄目よ、ゆっくり口の中で溶かすのよ」
「そうか、やってみる」
よし、アダベルの相手はカロルに任せておこう。
私は操縦席に座った。
うお、クッションが効いて、ふっかふかやぞ。
船内にも保護の魔法が掛かっていたらしく、百年以上前とは思えないぐらい綺麗だった。
これは期待が広がりますね。
まずは子狐丸をコンソールパネルの横に刺す。
ええと、上下どっちだろ、ああ、スリットが山形になってる方が上だな、きっと。
差し込む。
カチン。
次は、子狐丸を介して光魔法を船の光魔法タンクに流し込めば起動がはじまると……。
私は魔力を子狐丸に流し込む
流し込む。
流し込む。
さらに流し込む。
うわあ、もの凄く吸われるなあ、とてつもないぞ。
隣のゲージはエネルギーゲージか、あんなにつぎ込んで五分の一にも緑色のバーが伸びてない。
流し込む流し込む。
フイイイイイイイイン!
と何かの音がする。
ぱっと、操縦席の灯りがともって辺りが明るくなる。
【独立型魔導管制システム・エイダです。操作説明を行いますか】
はっ?
操縦舵の横の洗面器ぐらいの大きさのテーブルの上に美女の立体映像が浮かんでいるぞっ!?
なんだこれなんだこれ。
べらべらべらとマニュアルをめくる。
あ、魔導頭脳って奴?
「なにこれなにこれ」
【独立型魔導管制システム・エイダです。操縦の支援、船体とエンジンのコントロールをします】
「凄いわマコト、超古代の魔導頭脳よ、稼働してるのは初めて見たわ」
「五百年……前に……、最後の……魔導頭脳が……止まった……、と言われている……」
「きゃーっ! ドラゴンに、最後の魔導頭脳よっ!! 凄い発見だわ、マコト」
「凄い……、凄い……」
魔導マニアたちが耳元で騒いでうるさい。
「え、ええと何が出来るの?」
【航空移動の管制が出来ます。またマスターがお疲れの時は私が自動操縦をいたします】
「それは便利」
【三千クレイドルに及ぶ魔導空間レーダーで障害物も察知し、皆様の安全な空の旅をお約束します】
「それは凄い」
【また地形データを照合し気象レーダーと組み合わせる事で安全で最速の航路を割り出す事も可能です】
なんだ、このロストテクノロジーの塊は……。
とてつもないぞっ。
「あと、どれくらい魔力を溜めると飛行できるの?」
【マスターの魔力は純粋な光魔力ですから、短時間の飛行ならば、すでに可能です】
よかった。
体中の光魔力をふり絞らないといけないかと思ったよ。
私は子狐丸から手を離した。
「船の全機能はもう使えるの?」
【各機能のチェックにもうしばらく時間を戴きます。基幹機能に問題はありませんでした】
「そう、じゃあ、チェックがてら船内を探検してくるわ」
【はい、よろしくお願いします】
エイダさんは礼儀正しくて良いな。
蒼穹の覇者号は問題無く使えそうだね。
メンテナンスといってもどこに出せるのか未知数だったから助かるよ。
『エイダ殿、久しいなっ!』
【ホウズさまもお変わりなく、百六十二年と二ヶ月十六日ぶりでございます】
「知り合いなのか、ホウズ」
『そうとも、先々代の聖女ビアンカ殿に連れられて、この船には何回か乗ったのだ』
色々知ってるなら、こっちに情報よこせよ、使えない駄聖剣め。
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