第32話 中華料理店の回るテーブルにテンションが爆上がりするのだ
黒塗りの高級馬車を二台連ねて、やってきました、芙蓉料理店カイエンです。
うおー、チャイナじゃ、チャイナじゃ、受付の人も、チャイナ服にお団子黒髪。
店構えは、背景の人は横浜中華街に取材に行きましたねという感じの高級感。
モデルは 萬珍樓かな、重慶飯店かな。
中に入ると、とってもきらびやか。
ゆりゆり先輩が予約してくれていたようで、個室に通された。
おー、丸い机に回るテーブル付きだよ。
うおお、中華街~って感じにテンション上がるー。
カロルの隣に座ろうっと、隣はメリッサ嬢、その隣はコリンナちゃんだな。
というか、なんでついてきた、コリンナちゃん。
「なにいぶかしげな顔をしてるのよ、マコト」
「なんでついて来たの?」
「カーチスさまが逃がしてくれなかったのよ」
「コウナゴは聖女派閥に入りたいんじゃなかったのか?」
「コウナゴって誰?」
少女魚?
「カーチス様がありがたくも付けてくれた私の愛称だそうよ」
「おまえ、その言い方はないだろうっ」
「あはは、カーチスがごめんねコリンナちゃん」
「午後の魔術の授業が、うえーん」
「一日ぐらいで泣くな、まだ取り返せる」
「コリンナさまの属性は土でしたよね?」
「はい、土ですう、オルブライトさま」
「では、お詫びに後で教えてさしあげますよ。ごめんなさいね」
「そ、そんな、オルブライトさま。恐れ多い」
コリンナちゃんは小市民だなあ。
カーチスが派閥参加希望と間違えて、無理矢理引っ張ってきたのか。
災難だったねえ。
私たちのテーブルに、お店の支配人らしい貫禄のある紳士がやってきた。
「いらっしゃいませ、アップルビー様、今日はいかがいたしましょうか」
「昼食なので、そうね、ランチコースでおねがいね」
「かしこまりました、お飲み物は?」
「紹興酒の古い物を一本入れてくださいな」
「かしこまりました」
昼間からお酒かあ、生粋の貴族は優雅で良いなあ。
私はお子ちゃまだから、お茶でいいや。
ずずず。
おお、ジャスミンティー。
「不思議な味の……お茶だ……」
「エルマーは芙蓉料理は初めて?」
「うん、初めてだ……、僕は、あまり……、料理に興味が、ない」
「王都には美味しい物多いのに」
「僕は……、マヨコーンパンさえあれば……あとはいらない」
「どんだけマヨコーンパンが好きなのよっ」
「あれは……、真理だ」
チャイナ服の給仕さんが、前菜のお皿を持ってきた。
わあ、チャーシューとか、クラゲとか、エビとか、綺麗に盛り付けてあるなあ。
「マコトさま、お酒はいかが?」
「いえ、私はお茶で」
「まあ、さびしいわ、カロリーヌ様はいかがかしら?」
「わたしもごめんなさい」
「まだ、一年生ですものね、これから夜会に合わせて、少しずつでもお酒になれた方がよろしくってよ」
夜会のお酒って、ワインとか、カクテルで、結構強いんだよね。
ん? で聖女の毒物無効って、アルコールはどうなるのかね。
心理的な害が発動条件なのかな?
完全自動発動だと、お酒どころか、ポーションも飲めないよ。
あ、メリッサ嬢と、コリンナちゃんが、紹興酒をちょっと貰ってる。
それは、結構強いお酒だぞ。
ビールか酎ハイだったら、私も、ちょっと付き合うのだけど。
「お殿方にも、ついでさしあげて」
「かしこまりました」
メリッサ嬢とコリンナちゃんにはお酌をしたのに、カーチスとエルマーにはボーイさんに頼むのね。
ぶれない所は、さすがはゆりゆり先輩だぜ。
前菜をいただこう。
もぎゅもぎゅ。
うん、横浜中華街で食べた物と同じ。
あそこの料理はかなりジャパンナイズされてるのになあ。
不思議な事だ。
コースの料理が続々と運ばれてくる。
エビチリ。
麻婆豆腐。
かに玉。
牛の骨付き煮込み。
唐揚げ。
エビチャーハン。
シュウマイ。
コーンスープ。
あー、懐かしい懐かしい。
食べながら、涙がでそう。
あと、ラーメンと餃子でないかなあ。
でないよなあ。
高級店だし。
「不思議な味ですが、とっても美味しいですわ、アップルビーさま」
「それはようございましたわ。王都でも随一の芙蓉料理をお楽しみくださいね」
「はいっ、ありがとうございますっ」
メリッサ嬢はゆりゆり先輩に落とされた感じだね。
コリンナちゃんは、もっしゃもっしゃと無言で食べている。
「マコトはお箸使うのが上手いわね」
「まかせてー」
全員にお箸は配られているが、使ってるのは私だけだな。
他の人は、ナイフとフォークだ。
「マコトさま、お箸とはどうやって使いますの?」
「ちょっと見ていてね、メリッサさん」
メリッサ嬢にお箸の使い方を教えたりして、楽しく食事は進んでいく。
「芙蓉料理は変わった味だが、美味いな、エルマー」
「そう……、だね。というか……、みんなで食べるのが……、新鮮で楽しくておいしいよ」
「そうですわね、芙蓉料理は丸いテーブルで、同じお皿の料理を分け合って食べるのが楽しゅうございますわね」
「そうですね」
カロルがうんうんとうなずいている。
なるほど、お貴族さまって、基本的に個食の家が多いんだよね。
カロルも、アンヌさんの作った料理を、部屋で一人で寂しく食べてるんだろうな。
お料理も、大方食べ尽くした所で、ゆりゆり先輩がパンパンと手を叩いた。
「さて、みなさま、アップルビーの寄子枠が余っておりますの、誰かポッティンジャー公爵家派閥で欲しい方がいらっしゃるなら、工作いたしましてよ」
「私は特に知らないなあ」
強いて言うなら、マイクーの妹のカトレア嬢だが、妹を入れると、もれなく兄もついてくるので勘弁だな。
「俺は、マリリン・ゴーゴリーが欲しい」
「気でも……、狂ったか、カーチス」
エルマーが目をむいてカーチスを見た。
というかマリリンって誰?
「俺は真面目だ、エルマー、あれは逸材だ、聖女派閥に取り込んで鍛え上げれば、良い武力になる」
「あ、そちらですのね」
「さすがに、令嬢としてはいらん。あと、コウナゴ、お前も聖女派閥に入れ」
「いやです」
「ちっ、計算高い女め。解った、特別に、ケーベロス家をブロウライト家の寄子にしてやる、これなら問題はあるまい」
「お断りします」
カーチスは落雷が落ちたかのように愕然として、コリンナちゃんを見つめた。
「なん、だと?」
エルマーと、カロルも驚愕している。
男爵令嬢が、辺境伯令息の寄子の誘いを断るのは、異例中の異例なのだろう。
「あらあら、では、アップルビー家の寄子になりましょうよ、ねっ」
「あ、あの過分なご配慮、痛み入りますが、私はお勉強を頑張らないといけないので、派閥抗争に時間を割く余裕がないのです」
「お勉強だと? コウナゴ、お前はB組ではないか、いくら勉強したところで、たかが知れているだろう」
「私は、入学試験の時に、体調を崩して、テストの点が散々だったのですよっ! だから、一年生の間は勉強を頑張って、来年A組に入って、もっと頑張って、卒業時には首席を取るんです、それで、王宮行政府の財務局に入るんですっ!!」
お~、すごい上昇志向だなあ。
王宮行政府とは、文官の最高位だねえ。
偉いよ、コリンナちゃん。
「立派な……、夢だ、コリンナ嬢……、僕は応援、する」
「ありがとうございますっ、クレイトンさまっ」
「コウナゴの癖に生意気な」
カーチスの悪態に、コリンナちゃんはプウとふくれた。
かわいい。
「コリンナさまは、聖女派閥に入るべきですわ」
「お言葉を返すようですが、アップルビーさま、私は……」
「私は、かわいいコリンナさまが殺されるのを黙って見てられませんのよ」
「こ、殺されるって、どうしてですかっ?」
「派閥に入っていらっしゃられない、マコトさまの同室のご友人なんて、格好の攻撃目標ですわよ」
「あ……」
「私でしたら、そうですね、コリンナさまのご実家へ圧力を掛けます、それで、あなたを密偵として自陣にひきいれますわね」
「あーーーー」
うわ、派閥抗争えげつない。
「私よりも、何段か落ちる陰謀家でしたら、コリンナさまをさらって、マコトさまを脅迫いたしますわね。切った指とか送りつけて」
「ひっ」
こわいっ、怖いこと言わないでっ!
「脅迫内容なんてどうでも良いんですのよ、単におとなしくしろ、でも良いですし。そして、マコトさまが恐怖なされたら、塩漬けの首でも送りつけますわ」
「「「「こわいっ!!」」」
「ここまで行くと、教会がためらわずに聖戦を発動いたしますから、本当は悪手なんですが、頭の悪い陰謀家とは度しがたいもので、成功した時の事しか思い浮かばないおろか者なんですのよ」
コリンナちゃんが、脂汗をだらだらと流しておられる。
というか、入寮歓迎式に致死性の毒殺を仕掛けてきた事を考えると、あり得るからとても嫌だ。
「コリンナちゃん、死んじゃ駄目だよう」
「わわわ、私だって、ししし、死にたくないわよ、マコト」
「だから、俺の家の寄子にしてやると言っているんだ、理解力の足りないコウナゴめ」
いや、カーチス、あんただって、さっき理解してなかったでしょ。




