第326話 アチソン村でガレットを食べる
馬車がアチソン村に着いたのでドアを開けて外に出る。
んっんーんと背伸びをする。
三十分も馬車にゆられているのはやっぱり疲れるね。
コリンナちゃんも、カロルも、小さく伸びをしている。
二号車、三号車が止まってみんなが外に出てくる。
どうも、ここは村の広場みたいだね。
「あなたたちは魔法学園の生徒だねえ、まあ、良く来なすったよ」
村のばあちゃんが声を掛けてきた。
「そうだよー、小さいけど良い村だね。なにか朝ご飯食べるところは無い?」
「まだ早いから食堂は開いてないね。ガレットでも焼くから食べるかい」
「おお、良いね、ガレット、軽食になるね」
「じゃ、ちょっとまっててな。今用意するから」
人のよさそうなばあちゃんは家の中に引っ込んでいった。
まだ開いてないけど、小間物屋さんっぽいね。
「ガレットってなにかしら」
「そば粉のクレープだよ。いろいろな物をのせて食べるんだ」
「そうなんだ、たのしみね」
ばあちゃんは火鉢と丸い焼き盤を出してきて、ちゃっちゃとガレットを焼き始めた。
良い匂い。
生地を焼いて、ひっくり返し、卵を割って上に乗せて焼く。
卵が固まり始めたら、ハムとチーズを乗せた。
ああ、すごい良い匂い。
「はい、出来たよ、他の子もいるかい?」
ばあちゃんがお皿に乗せて私に渡してきた。
入れ替わるようにみんながやってきてガレットばあちゃんの前にならんだ。
「食べる食べる」
「欲しいみょんっ」
「美味そう……」
「素敵ですわね」
「田舎村で田舎風ガレットも風流ですわね」
広場にあったテーブルにガレットを持っていき食べる……。
あれ、ナイフとフォークが無い。
「マコトさま、これを」
ダルシーがナイフとフォークを出してきた。
「あ、ありがとう」
ダルシーが出してきたって事は私の食器なんだろうなあ。
なんだかダルシーは凄いね。
アンヌさんとダルシーが村人にお湯を貰いにいった。
お茶を入れてくれるそうだ。
「一休み一休み」
ダルシーが帰って来てケトルでお茶を入れてくれる。
高々とポットを掲げてお茶を注ぐ。
上手い上手い。
さすがダルシーだね。
味も美味しくなっているね。
コリンナちゃんが自分のガレットを持ってきて私の隣に座った。
彼女もリュックの中からナイフとフォークを取りだして食べ始めた。
「コリンナさまもお茶をどうぞ」
「ありがとう、だるしー。あーー、ぱりぱり美味しい」
コリンナちゃんがガレットを一口食べて歓声を上げた。
私も熱いうちに食べよう。
パクリ。
んーーーー、美味しいっ!
パリパリの皮の上に卵とハム、バターも利いていて美味しいっ。
カロルもやってきて私の左隣に座った。
「美味しい? これ?」
「すごく美味しいね。ぱりぱり」
「あら、本当、すごく美味しいわね」
カロルがガレットを一口食べて目を見開いた。
「ダルシー、お金を払ってきて」
「はい、マコトさま」
「あと、ダルシーとアンヌさんも一枚ずつガレットを食べなさい」
「いえ、それは……」
「ありがとうございます、マコト様」
アンヌさんが綺麗な所作でお辞儀をした。
ダルシーは、ガレットばあちゃんの前に行き、お金を払った。
そして、アンヌさんと並んでガレットを焼いてもらっている。
ばあちゃんは、焼き盤を二つ並べて焼いておる。
馬車駅だから、短時間で焼かないといけないんだろうなあ。
私とコリンナちゃんはガレットを食べ終わってお茶をちびちび飲んでいる。
カロルはまだガレットを食べていた。
さて、おトイレはどこかな。
私は立ち上がり、村人におトイレの場所を聞いた。
建物の裏だそうだ。
まあ、その、うむ、田舎トイレで用を足したのであるよ。
ぼっとん。
流水で手を洗って、広場に戻る。
「エルマー、ガレットは美味しかった?」
「すごく……、よかった……」
「美味いよなあ。時々遠乗りで、この村に来てもいいな」
「カーチスは自分の馬を持ってそうね」
「ああ、軍馬を実家から持って来たよ、今は学園の馬房で世話をしてもらっている」
騎士系の生徒で、上位貴族の子は自分の馬を学園に持って来ている事がおおいね。
武術の時間で乗馬も習うので、その時は慣れた自分の馬に乗れるわけだ。
私も馬を買えば時々ガレットを食べに来れるなあ。
とはいえ、男爵家の家計では馬は無理だなあ。
馬は生き物だから飼い葉とかいるし、
飼う場所も、お世話をする馬丁さんもいるのよね。
一応キンボール家も一台馬車があるので、馬を二頭飼っているのだ。
結構お金が要るので、私用を買ってとは言いにくいね。
教会に頼めば買ってくれそうだけど、なんか悪いしなあ。
お洒落部さんたちのテーブルの前を通り過ぎる。
「おいしかったね、ガレット」
「すばらしかったですわ」
「こんな田舎に素敵な軽食がありますのね。あっさりしてパリパリで病みつきになりそうですわ」
「素敵でしたわ」
エルザさんはそば粉は大丈夫だったのかな。
あと、思い切り卵が乗っていたが。
「最近は卵も大丈夫になりましたの。聖女の湯のおかげですわ」
「そんなそんな、エルザさんアレルギーが治る時期だったんだよ」
「いえいえ、そんな事はありませんわ。ありがとうございます」
エルザさんは深々と頭を下げた。
んもう、やめてくれよう。
席に戻ると、ダルシーとアンヌさんが茶器とシルバーを片付けていた。
「皆さんの茶器とシルバーを洗いますので、ちょっとだけお待ち下さいね」
「かまわないわ、おねがいね、ダルシー、アンヌさん」
メイドさん二人は手分けをして、村の水場で茶器とシルバーを洗っていた。
やっぱりメイドさんが居ると楽だなあ。
自分の手で洗い物とかもできるけど、人にやってもらうとラクチンだわね。
よろしかったら、ブックマークとか、感想とか、レビューとかをいただけたら嬉しいです。
また、下の[☆☆☆☆☆]で評価していただくと励みになります。




