第321話 大浴場でお風呂のあとは、お見舞いにいく
大神殿のお風呂は東の方にある。
かなりでかい。
大神殿には宿坊もあるから、年末年始とか、お祭りの時とかは結構混み合うのだ。
近所の人にも格安で開放しているので、パン屋時代は良く入りにきたものだよ。
ちょっとお布施が高いので、大抵は近所の銭湯に行ってたけどね。
カポーンと大浴場に子供達と入る。
女子寮の地下大浴場の倍ぐらいあるね。
夕方というのに結構人が来ている。
子供達にかけ湯をして湯船につかる。
もう湯の元は入っているようで、お花のような良い香りがする。
女の子たちはきゃっきゃとお風呂の中で暴れている。
もう、子供は暴れ回るよねえ。
「あ、ナタリー、カロルから伝言があったわ」
「はい、オルブライト様から、何でしょう」
「明日はダンジョンに行くから、錬金のお仕事はお休みだって」
「そうですか、残念です」
ナタリーがしょんぼりした。
「来週は大丈夫そうだから元気だして」
「は、はいっ、そうですね」
ナタリーは錬金術師を目指しているだけあって真面目だなあ。
「そうだ、魔導具制作キットが魔法塔から発売されたのよ、一個買ってあげるよナタリー」
「本当ですか! ありがとうございます!」
「えー、ナタリーお姉ちゃんいいなあ」
「いいなあ」
「おまいらには来週クッキーを持ってきてやるぜ」
「わあいっ、クッキークッキー」
「わたしクッキー大好きー、マコ姉ちゃん大好き」
はっはっは、ちびっ子の心を掴むにはお菓子だぜ。
さて、体と頭を洗うか。
ざぶりと湯船から出るとダルシーがすっと現れた。
「ああ、そうだ、私の後に子供達も洗ってあげて」
「かしこまりました」
「ダルシーだー、ひさしぶりー」
「なんか元気になった、ダルシー」
「恋だな、恋をしたなー」
やれやれ、女児と言っても女の子、恋話が大好きだな。
「ちがうよ」
ダルシーが女児に向かって笑って言った。
「ダルシーの笑顔初めて見たー」
「マコ姉ちゃんの下で働いてるからかなー」
「そうだよ、すごく楽しい」
「よかったなー、ダルシー」
「よかったよかった」
孤児院の女児どもの縄張りは大神殿全体だ。
ダルシーの事も良く知ってる訳だよな。
ダルシーに体の隅々まで洗われたあと、髪も洗ってもらった。
あー、いつもながら気持ちが良いなあ。
そして、ダルシーはちゃっちゃと女児達を洗い始めた。
女児はきゃっきゃと喜んでいた。
私は湯船に戻ってのんびりそれを見ていた。
銃が蔓延したら、この子たちが大人になった頃、大戦争が起こって迷惑するんだろうな。
そんなのは嫌だな。
急いで山高帽をなんとかしないと。
洗い終わった女児たちと共に湯船で暖まる。
ほわあ、暖まります。
聖女の湯は良いね。
「あったかいれすー」
「ねんむい」
「夜中まで体があったかいんだよねえ」
女児たちの評判もなかなかのようだ。
暖まったので更衣室に行き、ダルシーにドライヤーをかけてもらう。
学園じゃないから、注目の的だなあ。
女児たちにもかけてあげるようにダルシーに頼む。
「ほわわわー、暖かい~~」
「わわっ、髪がすぐ乾くよっ、凄いよっ」
「気持ちがいいよう」
さて、身も心もピカピカになったので大浴場を出る。
私もつやつや、女児たちもつやつやだ。
男風呂の方から男児たちが出てきた。
「あっ、あはははは、キルギスがつやつや~」
「な、なんだよ、いいだろ」
キルギスくんがつやつやになって男前になっておるな。
ピカピカになったみんなと一緒に孤児院まで行く。
信者の人達が大浴場方面へ歩いて行くのが見えた。
「もしかして夜は凄く混むのかな?」
「うんうん、芋洗いになるよ」
「聖女の湯が凄いって、信者さんの中で噂になってる」
「リンダ師なんか、午前中に入ってる」
「私たちはマコ姉ちゃんと入りたかったから我慢した」
「よしよし、えらいえらい」
ちびっ子の頭をぐりぐりと撫でる。
彼女は目を細めて嬉しそうにしていた。
みんなで孤児院に着いた。
保母のシスターさんへ子供達をお願いする。
シスターさんたちは子供の扱いが上手いよなあ。
私も将来は、対子供スキルを身につけるんだ。
さてと、オスカーのお見舞いにいくか。
「次はオスカーですか」
「う、うん、そうだよ」
リンダさんに後ろを取られたので動揺した。
「ではこちらへ」
リンダさんは医療部の方へ私をいざなった。
医療部の方はあまり入った事が無かったけど、一歩入るだけで雰囲気が違うね。
前世の大病院が近いかな。
綺麗で清潔で暖かく、そして無愛想だ。
オスカーは二階の奥の部屋にいた。
「オスカーお見舞いにきたよ」
「あ、これは聖女さま」
起き上がろうとしたオスカーを手で制した。
「寝てていいよ、具合はどう?」
「そうですね、いきなり地獄から快適な場所にきて心が戸惑っています」
「そう、とりあえず、二三日、休暇のつもりで休むといいよ」
「ありがとうございます……」
オスカーはそう言うと目を伏せた。
重い沈黙が病室を包んだ。
「折れた剣だけど、鍛冶部に持って行ったら絶対良い物に打ち直してやるって、バルドロ部長が張り切ってね。魔剣にするから属性を聞いてこいって言われた」
「魔剣、ですか?」
「うん、剣の方は打ち直すから、オスカーも、立ち直るんだよ」
「はい、ありがとうございます。嬉しいです。俺の属性は風です。でも良いのですか、そんなにしてもらういわれは……」
「いいんだよ、私も部長もそうしたくてやってるんだ、オスカーが負担に思うことじゃないさ。夏の鍛冶祭のコンテストに出したいから、その期間は貸してくれって言ってたよ」
「それはかまいません。剣が……、生き返りますか……」
「ああ、生き返らせるよ。聖女派閥みんなの力でね」
「ありがとうござい……ます……」
オスカーの目から涙が落ちた。
ぱたぱたと毛布に涙が落ちる。
私もオスカーもなにも言えなくなった。
ただ、なんだか優しい感じの沈黙が病室に降りてきた。
「ほんとうに……、ありがとう……」
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