第318話 エドモン組長がぎゃーぎゃー吠える
「い、いや、その話がちがうだろ」
「話? あんたと話した事無いけど」
「い、いやそうじゃなくてよお。こうやって覚悟を見せたら、さすがは大人物って感心して、みんなで許し合ってハッピーとかさ」
馬鹿じゃねえのか、この組長?
「あ、あれだろ、教会に分け前が無いから怒ってるんだろ? な、相談に乗るからさ、お互いWinWinって事でよお」
ぎりっとリンダさんの殺気が膨れ上がった。
どうどう。
「お前、命をかけて、死衣を着て、女房子供と子分を救いに来たんだろ。普通に貫徹しろよ」
「ふざけんなっ!! 教会がなんだっ!! てめえ舐めてんのかっ!! ぶっ殺すぞ!」
何言ってんだ、このオヤジ……。
組長は懐から何かを出して……。
「あぶねえ、聖女さんっ!!」
律儀な不良の兄の方が私の前に立ち塞がる。
ばっ、ちょ、まっ!!
ズガーーン!!
律儀な不良が肩を打ち抜かれ階段を転げ落ちた。
ばっきゃろー、なんだその銃はよおっ!!
火縄じゃない、いくつもの銃身を束ねて発火機構を付けている。
フリントロックのペッパーボックス拳銃!
「ぶっ殺してやる、ぶっころすっ!! 教会がなんだっ! 俺は麻薬で儲けて、銃を使って王都で君臨するんだっ!!」
飛び込もうとしているリンダさんを手で押さえる。
「ですが」
「まかせて」
リンダさんが一歩下がった。
彼女に組長をバラバラにされては情報が取れないしね。
「跪け、聖女め、跪いても殺すがなあ、げへへへ」
私は震える足取り、の真似をして、律儀な不良の元でしゃがんだ。
「へへへ、聖女さんを守れた、本望ですぜ……」
「うっせえ馬鹿、喋るな」
『ハイヒール』
私は不良兄の傷を治した。
「へへへへ、逆らってごめんなさいって言えよ、ああっ?」
「うるせえ、お前こそ、そこに手を付いて、ごめんなさいと言え、苦しまずに処刑してやるぞ」
組長は怒りの表情を浮かべて、銃を振り回した。
「貴様っ!! 王都の王者になる俺様に向かってっ!! なんて口のききかただあっ!!」
フリントロックのペッパーボックス銃は連射が効くと言っても、銃身を手で回さなきゃならない。
一発。
一発障壁が持てばいい。
ボウガンの矢で砕ける障壁では銃弾を弾けない。
一発食らう覚悟で行くか。
脳をやられない限りはどこでも治せるし。
私は子狐丸を抜いた。
「かかかっ、やろうってのかよおっ!! 銃の威力はすげえぞっ!! 連発出来るぞっ!! ああ、お前を殺して王都に俺は君臨してやるよっ!!」
薬でラリってるかと思ったが、瞳孔が普通だ。
普通に底抜けの馬鹿なんだなこいつ。
組長は銃をこちらに向けた。
銃口がトンネルのように黒々と見える。
!
あ、そうか。
組長が引き金を引いた。
ドカーーン!!
「ぎゃああああっ!!」
ペッパーボックス銃は暴発して砕け散った。
組長の右手も粉々になった。
「あーっ!! なんでだー!! なんでだー!!」
「銃ってのはな、銃口塞ぐと爆発すんだよ」
一瞬の思いつきだったけど、上手くいった。
銃口の中に障壁を作って塞いでやったのだ。
組長は右手を押さえて悲鳴をあげて転げ回っていた。
「さあ、お前には二つの取れる道がある。女房子供と子分を助けて普通に死ぬか、女房子供、子分、財産を教会に渡して死ぬかだ」
「死ぬのはいやだーっ、死ぬのはいやだーっ、女房と子供と子分、それに財産を差し上げます、王都にはもう近づきませんっ、ですから命だけは命だけはー」
「なんだよ、全部を捨てて自分だけが助かろうってのか?」
「助けて~、助けて~~っ」
ウジ虫野郎めっ。
「楽に死にたければ、言え、お前に麻薬の取引を持ちかけ、銃を持たせてのは誰だ?」
「山高帽~~、山高帽と呼ばれてた男です~~、ああっ!! 痛い、痛い~~、ご慈悲をっ! 聖女さま~!! 痛い~~」
「うるせえ。山高帽は今どこにいる?」
「さ、さっき会いましたっ、聖女がきな臭いからもう王都から逃げるって、痛い痛い痛い~~」
!
くそっ!!
逃げ出したかっ!!
「どこの門で出るって言ってたかっ?!」
「ひ、ひがしもん~~です~~、あがががっ!! 痛い痛いっ!!」
東門から伸びる街道を行けば、三日でポッティンジャー領に着ける。
しらない間に十傑衆の一人が潜り込んでいたのか。
「リンダさんっ!」
「解りました、聖女さま、こちらへ。サイラス、こいつを治療して地下牢へぶちこんでおけっ!」
「了解しましたっ!」
若い聖騎士がリンダさんの白馬を引いてきた。
私は、リンダさんの前にまたがる。
あ、山高帽を追っかける前にやることがある。
「やい、野次馬の中のヤクザの連中に告げる!! 大神殿は王都への麻薬汚染を許さないっ!! 全力を使って撲滅する!! 関わった奴は全員厳罰に処す!! 帰って親分と相談しろっ!! 自首して来るなら罪は一等減じる!! 聖女候補マコトの名にかけて、かならず麻薬を撲滅する!! 絶対だ!!」
エドモン組長を見に集まった群衆が一瞬沈黙した。
そして、爆発するように歓声を上げた。
私は拳を上げた。
「「「「「聖女!! 聖女!! 聖女!!」」」」」
聖女コールが鳴り止まない中、リンダさんが白馬に拍車を入れ王都大通りを駆けだした。
「急ごう、絶対に捕まえなければ」
「そうですね、必ず殺しましょう」
ああ、同感だね。
麻薬に次いで、銃まで作り始めた転生者は許すことはできない。
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