第31話 お風呂でメリッサ嬢ときゃっきゃうふふする
さて、全身温まったので、体を洗おう。
池の水で、髪の毛から熱帯魚の水槽みたいな匂いがするよ。
私が、洗い場に出ると、メリッサ嬢もついてくる。
スポンジに石けんを付けて泡立てていると、彼女は何も動かない。
……。
「あのあのあのっ」
「体、洗えないの?」
「は、はいっ、い、いつもはカリーナが……」
「うん、洗ってあげるよ、背中出して」
「は、はいっ、その、ごめんなさい」
「いいっていいって」
自分の体を洗いつつ、メリッサ嬢の背中を洗う。
うわー、肌がきめ細かいー。
しかも、私よりもおっぱいあるな。
巨乳ってほどじゃ無いけど、良い感じのサイズのおっぱいに、桜色の乳首が。
うぇひひひ。
……。
前はー。
人様の体の前を洗うのはー。
いやあ、困ったなあ。
前はー。
カリーナさん、早く来ないかな。
「よろしければ、お手伝いいたしましょうか?」
おっと、カロルの眼帯メイドさんのアンヌさんが、いつの間にか横に居たーっ。
「おねがいできますか」
「お任せください」
「あ、ありがとうございます」
アンヌさんは、手際よく、メリッサ嬢を洗い始めた。
さすがに手慣れてるな。
カロルも洗ってもらってるのかな。
「マコト様に、お嬢様の制服の予備を持ってまいりました。脱衣室に置いてあります」
「たすかるよー」
カロルも私も背丈は似たようなものだから、着れるだろう。
お風呂場から205号室へどうやって行こうか考えてた所だった。
ドロワーズいっちょで、寮の廊下を行くのは、さすがに淑女としてどうよと思ってたんだ。
カロルの指示だろうな、本当に気が利くなあ。
手にシャンプーを取り、自分の頭を洗う。
もっしゃもっしゃ。
「マコトさまの制服はこちらで回収いたしました。ボタンが取れていましたので修繕して、洗濯の後、のちほど、お部屋にお届けします。ブロウライト様のお上着も洗濯の後お渡しいたします」
「ありがとう、なにからなにまで」
「いえ、仕事ですので、感謝はご不要です」
「感謝はいるよう、アンヌさん、ありがとうね」
「どういたしまして」
アンヌさんはクールでかっこいいなあ。
憧れてしまうよ。
リンスを髪に付け、シャワーで流す。
ふうう、これでドライヤーがあればなあ。
もう一度、メリッサ嬢と二人で一緒に、湯船で暖まっていると、カリーナさんがやってきて、着替えが用意できたと伝えてきた。
脱衣所に出ると、制服の上に、部屋の鍵と、私のお財布と、ハンカチが置いてあった。
中庭に脱ぎ捨てた制服から取り出して持ってきてくれたんだな。
「ありがとう、アンヌさん、たすかります」
「いえ、お着替えをお手伝いしますか?」
「大丈夫、制服だし」
「そうですか……」
なぜ残念そうな顔をするのだ、アンヌさん。
洗濯したてのドロワースを履き、制服を着ると、すっきりさっぱりなマコト嬢の復活であるよ。
メリッサ嬢も新しいドレスで、愛らしさ復活である。
「お風呂入るとさっぱりするよね」
「はいっ、ありがとうございました。マコトさまが居なかったら、私、溺れ死んでいたかもっ」
「んもう、泣かない泣かない」
「はいっ」
ばあんと脱衣所のドアが開いて、はあはあと肩で息をしている、ゆりゆり先輩が入ってきた。
「ああっ、もう着替えてますわーっ」
なんだね、ゆりゆり先輩。
「私も、マコトさまと、ご一緒にお風呂に入りたかったのですわ。ね、もう一度入りましょう、ねっねっ」
「えー、もうお昼休み終わるし」
あ、予鈴が鳴った。
お昼ご飯抜きだけど、まあ、私はエルマーとジョンおじさんとで実験だからいいか。
休み時間にクッキーでもかじろう。
なんだか、ゆりゆり先輩はハンカチをかみしめていた。
その後ろからカロルが、ひょこっと顔を出した。
「マコト、大丈夫?」
「へーきへーき、制服借りたよー、同じ体型なんだね、ぴったりだったよ」
「役にたって良かったわ」
「制服の貸し借り、尊いっ」
ゆりゆり先輩がうるさい。
「それでは、私はこれで、本当にお世話になりました」
「大丈夫? なんだったら医務室で寝てれば?」
どうせ、C組なんか碌な授業してないんだろうしさ。
「メリッサさま、お待ちになって」
「は、はい、なんでしょう、アップルビーさま」
「これから聖女派閥のみなさまと、外に出てランチの予定ですの。メリッサさまも参加なさるべきですわ」
「わ、私は、ポッティンジャー公爵派閥……ですから、今はまだ」
「溺れているお友達を助けようともしない薄情な派閥は、やめてしまいなさいませ」
「で、でも、派閥から抜けると、貴族として……」
「聖女派閥に入ればいいではありませんか」
メリッサ嬢が派閥に入りたそうに、こちらをチラチラ見てくるな。
「いいよ、問題無いよ。メリッサ様も、あんなことの後だと、ポッティンジャー公爵の派閥の人と顔を合わせるのは辛いでしょ」
「それは、そうですが、その、父とも相談しないと」
「アンドレア家ですわね、あなたの領のワインは美味しゅうございますわね」
「あ、ありがとうございますっ、領民が頑張って作ってるんですよ。今期の新酒も良い出来でしたの、今度、アップルビーさまへお持ちしますわ」
メリッサさんの領地はワインが特産なんだ。
美味しそうだなあ。
こんど飲もうっと。
この世界、ワインは水代わりなので、学生もかぱかぱ飲んでます。
入寮歓迎会の時は、新入生だったので、羽目を外さないためにブドウジュースだったらしい。
「メリッサさまのお父様は頑固者ですかしら」
「い、いえ、優しくて温厚なお父様ですわ」
「では、お伝えしてね、アップルビー家が、アンドレア家の寄親になりたいと言っていたと」
「は?」
あ、メリッサさん、固まった。
ゆりゆり先輩はそんなにしてまでワインが飲みたいのか。
飲み助なんかね。
「あのあのあの、ご、ご冗談はおやめ下さい、ここここ公爵家が親戚でもない子爵家の寄親だなんてっ、ぜ、前代未聞ですわ」
「アップルビー家は、派閥運動をほとんどしてなかったので、寄子の枠が沢山あいてますの。これなら、メリッサ様のお父様も派閥の移動を渋ったりしませんわよね」
「そそそ、それは、しないと思いますがっ、その、卒倒するかもしれませんわっ」
あ、寄親になるって、そういう事か、公爵家に寄親になるぜ、といわれて、いやだ、と言う子爵家はいないわな。
寄子寄親制度というのは、一口でいうと、貴族の親分子分制度みたいなもんだ。
寄親は寄子に資金援助や技術供与、武具貸与等の利益を与え、寄子は寄親に人的貢献、まあ平たくいうと兵力の提供だよね、をするわけさ。
王家と貴族の関係を、貴族が縮小してやるみたいなもんだね。
「ユリーシャさま、寄子枠がそんなに空いてるんですか?」
「がらがらですの、親戚しかいないですわ。ですので、聖女派閥の参加家系にバンバンあげられましてよ」
公爵家の寄子権をそんなにバンバンあげて良い物なのかなあ。
そうか、新興で急成長した、ポッティンジャー公爵家派閥の寄子枠はほとんど空いて無いだろうね。
そのため、派閥といっても半分ぐらいは寄子寄親関係でない貴族家系だ。
敵対派閥を切り崩し放題になるなあ。
すごいなあ、公爵家すごいなあ。
「そんなにしてくれて、良いんですか?」
「かまわないですわよ、私の可愛い寮生のマコトさまと、カロリーヌさまの恋の成就のためですもの、なんだってしますわよ」
うへえ、ガチユリが脳に回ってるのかな。
ありがたいけど悪いなあ。
あ、そうだ、こんどお礼に、アップルビー領の教会に慰問にいこうっと。
「お嬢様、良かったですね、公爵家の寄子だなんて、旦那様は飛び上がってよろこびますよ」
「そうね、カリーナ、私は聖女様派閥の会合に出てくるわ、カリーナはお父様にお話を伝えてきて」
「わかりました、全速力でお知らせしてきますよ」
カリーナさんは、脱衣所を飛び出していった。
「さて、マコトさま、私たちも出かけましょうね」
「どこへ行くんですか」
「行きつけの芙蓉料理のお店がございましてね、そこに行きましょう」
芙蓉料理っ!!
平たく言うと、中華料理だね。
わあい、キンボール男爵家でも、これまで一回しか行ったことがないよ。
ちなみにこの世界、日本料理屋さんもある、蓬莱料理と言われてるね。
「カーチスさまと、エルマーさまを待たせてるわ、早く行きましょう、マコト」
「待たせてるんだ、早く行ってやらねば」
私たちは、脱衣所を後にした。
で、隣の洗濯所に、水をかぶったメリッサ嬢のドレスとか、私のドロワースとかを頼んで階段をあがるのだった。




