第316話 大神殿に行きキルギスくんの様子をみる
「で、あんたたちは何なの?」
「は、はい、その、大工です、こいつも、こいつも」
大工1は大工2と大工3を指さした。
「俺らは下町で同じ現場にいたんですが、監督に疲れが取れる薬だって貰いまして」
「く、薬を飲むと頭がすっきりして頑張れたんですが……」
「だんだん薬を飲まないとイライラするようになっちまって」
「なんとも聖女さまにご迷惑を掛けて申し訳ねえ」
「すいやせんでした」
「どんな罰でも受けます」
三人の大工は土下座をした。
「まー、災難だったねえ。サイラスさん、この人達に事情を聞いて、そのあと神殿でご飯を食べて貰って、帰してあげて」
「そうですな、それがよろしいです」
サイラスさんはにっこりと笑った。
こうしてみると温厚なおじちゃんなんだがなあ。
聖女ファンは怒ると怖いぜ。
「そんな、俺たちは薬ほしさに聖女様に無体を働こうと」
「なにか罰をお与え下さい」
「おねがいしますおねがいします」
「ああ、じゃあ、下町教会で屋根が雨漏りしてるって聞いたから直してあげて、それでいいよ」
「そ、そんな事で」
「ありがてえありがてえっ」
「その代わり、もう怪しい薬を飲んじゃだめよ」
「はいっ、あたりまえでさあっ」
「もう薬はいやですっ」
「本当にありがとうございやすっ」
まったく純朴な大工さんたちをあんなにしてしまうのだから、覚醒剤ってコワイよね。
聖騎士団が大工三人衆とボウガンヤクザ二人を大神殿に連れて行った。
入れ替わるようにリンダさんがやってくる。
「お疲れ様です聖女様」
「ありがとう、リンダさん」
あ、なんか内心すごく怒ってるな。
「奴らの組は殲滅してかまいませんね」
「問題無いよ、背後にコカインをばらまいている奴が居るからたぐれるといいね」
「神殿の調査部が総力を上げて黒幕を追い込みます」
「おねがいね」
リンダさんと一緒に大神殿に行くと、律儀な不良たちが掃除をしていた。
「ちゃーす、聖女さま」
「ちゃーす、リンダ師」
「なんだその口のききかたはっ!!」
リンダさんが切れて、どかんどかんと二人を蹴り転がした。
「さーせん」
「さーせん」
「早く神殿関係者らしい言葉使いを覚えろっ」
「「了解っすー」」
まあ、そんな短期間にしゃべり方は変わらないよな。
とりあえず真面目に寺男をやっているようで感心感心。
階段を上がって行くと孤児院の子供達がわあっと走り寄ってきた。
「マコねえっ、マコねえっ!」
「おかえりなさいっ、マコトおねえちゃんっ!」
「ただいま、みんな元気にしてた」
「してたしてたっ! げんきげんきっ!」
「新しい子も入ったよっ! なんか荒っぽい子」
荒っぽい子と呼ばれたキルギスくんが口をへの字に曲げて歩いてきた。
「やあ、キルギスくん、神殿は慣れた?」
「慣れねえ、ガキどもうるせえし」
「えー、そんな事言っちゃ駄目だようっ」
「そうだよそうだよ、キルギスー」
「おまっ、なに呼び捨てにしてんだっ」
「僕の方が孤児院では先輩だしー」
「このやろうっ!」
キルギスくんが殴りかかろうとしたら、子供達は笑ってわっと逃げた。
「殴らないんだ」
「一回殴ったら、リンダにボコボコにされた」
「子供の躾は暴力が一番です」
野蛮な世界だなあ。
「あと、リンダ師と呼べ」
リンダさんはポカリとキルギスくんを殴った。
「いってーなー」
「居心地はどうよ?」
キルギスくんは上を見てちょっと考え込んだ。
「わ、わるくはねえな、飯も美味いし、ベットはふかふかだし、あったけえし」
「そか」
「ガキどもも、まあ、その、親切だしよ、悪くねえ」
「うんうん」
「何よりナイフじゃなくて、剣を教えて貰えるのはいいぜ。俺はリンダを追い越してこの国の最強を目指してやるんだ」
「リンダ師とよばんか」
ポカリ。
「ぐぬぬ、いつか追い越してやるからなあっ」
「ああ、私の技術の全てを教えてやる。お前は才能があるから」
リンダさんはキルギスくんの頭をやさしく撫でた。
彼は目を細めて嬉しそうに笑った。
「そのうち腕が上がったら護衛してやるからよ、聖女サン」
「無礼者、聖女さまだ」
ポカリ。
そんなに叩かなくても。
「孤児院に戻っていろ、夕方に稽古だ」
「わかった、じゃあなっ」
キルギスくんは孤児院の方へ駆けていった。
「神殿になじめそうね」
「スラムとは大違いですからね、戸惑う事もあるでしょうが、何とかなるでしょう」
子供はすぐ慣れてしまうからね。
早く大きくなって私を警護してもらいたいものだ。
階段を上りきり、勇者聖女の立像が建ち並ぶ回廊をいく。
いつ来ても良い雰囲気の場所だよなあ。
あ、こんにちわマリアさま。
この前勇者と聖女の時代展を見に行ったので、だいぶ勇者と聖女さまのお名前を覚えたぞ。
一番奥の女神像についた。
ひざまずいてお祈りをする。
――もー、ビアンカさまが時を超えて悪戯を仕掛けてきてこまります、説教してください。
などとお祈りをした。
さて、教皇様にご挨拶である。
教皇さまのお部屋に行くと、リンダさんがドアを開けてくれた。
「やあ、マコト、いらっしゃい。良く来たね」
「教皇様もお変わりなく」
「大神殿は特に何も無くてね、いまは麻薬を追っているんだって?」
「はい、放っておくと王都が滅びかねませんので」
「そんなにかね」
「はい、かなり依存性が高い麻薬が入り込んでいます。できれば一掃したいと思っています」
教皇様はうんうんとうなずいた。
「わかった教会として全面的に協力しよう、全ての教会権力をつかいたまえ」
まあ、事後承諾で使ってますけどね。
聖女候補は権力があって便利であるよ。
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