第309話 205号室でだらだらしているとマルゴットさんが来る
お風呂をちゃっちゃと済ませて自室に戻った。
「マコト帰ったか、スラムはどうだった?」
コリンナちゃんが振り返ってそう言った。
「制圧してきたよ、戦力が多かったのでなんでも無かったね」
「そりゃ良かった、これで麻薬も終わりだね」
「まだまだ、警備騎士団と、神殿騎士団に一人ずつ麻薬患者がでたよ」
「え、神殿騎士団と警備騎士団!」
そりゃ驚くよな、前世だったら警察に患者が出たようなものだ。
「かなり麻薬が浸透してるみたいだね」
「金が動くんだろうな、中毒になったらどれだけ出しても薬が欲しくなるだろうし」
「そうみたいだね、ちょっと来週はあちこち検査して回らないと」
「聖女さまは大変だな。私が手伝えないのが残念だよ」
「コリンナちゃんには会計業務を手伝ってもらえてるから良いよ」
「そっちは私は儲けてるからさ、悪くてね」
「会計業務はお金が取れるスキルだから、安売りはしちゃなんねえ」
「そうだけどさ」
コリンナちゃんは苦笑した。
まったく、なんで私の回りは無欲な人が多いのかね。
私はハシゴを登って、自分のベットに寝転んだ。
ひゃあ、毎日のこの時間がのんびり出来て好きだなあ。
だらだらしてやる。
ガドラガ大迷宮のガイドブックを読む。
うんうん、こういうだらけた時間は大事よね。
勤勉なコリンナちゃんは机に向かって勉強してるけどねえ。
私はだらだらするんじゃい。
「おーい、マコトちゃん」
私のベットのカーテンをほとほと叩く、マルゴットさんの声が聞こえた。
「はーい」
「わりーんだけど、麻薬の事教えて」
マルゴットさんは胸の前で手を合わせ私を拝んだ。
「いいけど」
「お礼にお茶の奥義をダルシーに教えて上げる」
「教えてくださいっ!!」
わ、ダルシーが食い付くように現れた。
先にお茶の技術を教えてくれる事になった。
マルゴットさんはケトルから二つのポットにお湯を入れた。
「ここまでは技術はいらない、ただ蒸すだけ」
お茶っ葉はダルシーがよく使ってる、少しお高いお茶っ葉であるよ。
マルゴットさんはポットを手に取るとカップにそのままついだ。
「これがいつものダルシー式の入れ方」
「そうですね」
ダルシーは食い入るように見つめていた。
マルゴットさんはもう一つのポットを取り、高い位置からカップに落とした。
ああ、これは前世のテレビで見たことがあるぞ。
たしか、空気と混ぜ合わせるテクニックだ。
高い位置から魔法のようにカップにお茶が落ちていく。
「へえ、上手いもんだ」
コリンナちゃんが感心したように言う。
「時々、そうするメイドがいましたが……、お洒落ではなかったのですか」
「お茶と空気を混ぜる感じね、はい、飲み比べて見て」
ダルシーは、高い位置から入れたお茶と、そのまま入れたお茶を飲んだ。
「!!!!、こんなに!」
「ね、ちょっとした気づきなのよ」
「ありがとうございます」
「最近ダルシーは心を入れ替えてメイドに励んでいるようだから、お姉さんからのご褒美の助言だよ」
お、ダルシーがマルゴットさんに褒められた。
なんかご主人として嬉しい。
美味しい方のお茶をマルゴットさんについで貰って、コリンナちゃんと一緒に飲む。
「あら、美味しい」
「味に奥行きが出る感じだな」
ちょとした事なんだろうけどねえ。
あと、マルゴットさんの技量もあるだろう、ふっくらとした味わいが広がって美味しい。
そういや、アンヌさんも普通のお茶を美味しく入れられるからね。
お茶道、道険し!
「で、麻薬で聞きたいことって?」
「なんだか『塔』がしくじったらしくて、王宮行政府の麻薬の捜査がこっちに回ってきたのね、なんか患者の見分け方ってないの?」
「覚醒剤を飲むと目の瞳孔が散大するわ。これは薬をやった直後からだんだんと治るものよ」
「瞳孔が開いたら、眩しくないのか?」
「眩しいわよ、コリンナちゃん、だから色眼鏡を付けてる奴は注意ね」
「そうなの? 参考になるなあ」
マルゴットさんはメモに特徴を書きのこしていく。
「あとは、妙にハツラツにハッスルし始めた奴、赤面、大量の発汗の奴は要注意ね」
「マコトはなんでも知ってるなあ」
「なんでもは知らないよ、知ってる事だけ」
なんだよ、私はアニメのメガネキャラではないぞ。
「単に恋に浮かれてる奴もひっかかりそうだわね」
「まあ、それはしゃーなし」
浮かれてる人はすぐ解るから、ちょっと我慢してほしいね。
「あ、あと、王宮内だと、逆に瞳孔が針みたいに小さくなる奴がいるかも」
「覚醒剤とは別の麻薬?」
「効果は覚醒剤と似てるけど別の薬。コカインよ、鼻から吸引するから、鼻をぐずぐず言わせている奴は注意ね」
「別の薬まで……」
「『塔』の作戦部長を狙ったのがこれだから、別系統で上位貴族を狙ったルートがあるみたい」
「ありがとう、参考になったよ」
「どういたしまして」
マルゴットさんはカプッとお茶を飲み干した。
「じゃ、またね。ダルシーは練習すること」
「はい」
部屋の隅のチェストの上に茶器を乗せて練習していたダルシーが頭を下げた。
「ダルシー、ラクロス部の先輩方にも時々お茶を入れてあげなさいよ」
「え、良いのですか? 茶葉が減りますが」
「問題無いわ、先輩も嬉しいし、ダルシーも腕が上がって嬉しいし、良い事だわ」
「ありがとうございます」
うんうん、ラクロス三勇士先輩たちは良い人たちだからね。
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