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第305話 麻薬拠点で治療を始める

 プオーーーン!

 ラッパが鳴らされた。

 拠点制圧の合図だ。


「さて、ちょっと急ぐよ」

「え、どうして、マコト?」

「警護騎士団に死にかけてる人がいるから、死んだら回復できない」

「たいへん、急ぎましょう」

「わあ、まってくれ~、マコトっち、オルブライトさん」


 慌ててロイドちゃんが付いてくる。

 私たちは小走りで麻薬拠点の中に入った。


「これは聖女さま」


 ギヨーム団長が私たちに気がついて眉を上げた。


「重傷者を治しに来ました」

「それは助かります、いま本部にエクスポーションを取りに行かせた所です」

「不要です、怪我人は?」

「あちらです」


 重傷者は二階からの階段の近くにいた。

 頭蓋が割れて、泡をふいて痙攣している。

 デカブツのモーニングスター(柄付き)に殴られたようだ。


「しっかりしろっ、ジェイソンッ、しっかりしろぉっ」


 同僚だろうか、護衛騎士が涙声で声を掛けていた。


「聖女候補です、治しにきました」

「へ、は? だ、だけどジェイスンは」


 見れば床に空になったポーションの瓶が落ちていた。

 うむ、このおかげで即死をまぬがれたっぽいね。

 だけど、あと十分も持たない。


『エクストラヒール』


 まばゆい光に包まれたジェイスンさんの傷がみるみる治っていく。

 意識を取り戻し、彼は目をぱちくりさせていた。


「い、いまおばあちゃんが川の向こうで呼んでいたんだが……」

「ジェイスンッ!! 聖女様が、聖女様がお前を蘇生してくれたんだよっ!! よかったっ、よかったよーっ!!」

「そ、そうなんですか、あ、ありがとうございます、小さな聖女さん」

「小さいだけ余計だよ」

「あ、これはどうも」


 ジェイスンさんは頭をかいた。

 結構天然っぽい良い人だな。


「さあ、怪我をした人は来て、ポーションで治りそうなら、このカロルの所、指なんかの欠損、重傷は私の所へ来なさい!」


 私が大声を出すと、私たちの元へけが人がよろよろとやってくる。


「軽傷の怪我人は少ないね」

「ポーションで治したんでしょう。ポーションの在庫もありますよ、学園価格でお分けしまーす」


 カロルがそう言うと、騎士たちが列をなした。


「助かるよ、お嬢ちゃん、さっき使っちまってさ。本部の購買で買わなきゃいけないところだった」

「はい、千ドランクになります」

「安いね、助かる。しかもオルブライト印か、高級品だ」

「ありがとうございます」


 まあ、騎士さんたちは、まさかカロルがオルブライト印の元締めだとは思うまいね。


 こうやってカロルと一緒に警護騎士団を治していると、デブの首根っこを掴み、女を小脇に抱えたリックさんがやってきた。


「あ、リックさん、怪我したでしょ、治すよ」

「ん、たいしたことはありやせんよ」


 嘘だろう~、とアナライズをかけてみる。


 ピッ。


 右肘の靱帯が切れていて、足の骨にひびが入ってて何がたいした事が無いのだ。

 頑丈にもほどがあるぞ。


 とりあえず、子狐丸を抜いて、リックさんの肘を切りつけ、甲冑越しに治療する。


「おお?」


 足に子狐丸を突き刺してひびを治療した。


「おお、すごいもんですなあ。さすがさすが」

「というか、痛いならちゃんといいなさい」

「はっはっは、これぐらい、帰ってポーションをがぶ飲みすれば治りますし」


 なんという脳筋頑丈男なのだ。

 あきれながら私は子狐丸を納刀した。


 リックさんは部屋の隅にボスと情婦を降ろした。

 情婦さんは若くて綺麗な人だな。

 ワイン色の洒落たドレスを着ていた。


 地下に通じる小部屋から騎士が出てきて、ギヨーム団長に耳打ちした。

 彼は私の方へ歩いてきた。


「聖女さま、地下階に犠牲者が一人おります」

「犠牲者ですか?」


 中毒患者じゃないのか?


「学園の生徒で、えー、そのー、性的暴行をくわえられー……」


 うわ、それはキツいな。


「女子生徒ですか?」

「男子です」


 ……。

 うー、好みのシチュエーションではあるんだが、これは現実で、妄想や薄い本ではないからなあ。

 痛ましい感じだ。

 まいっったな。


「解りました、治療します」

「助かります、その、申し訳ありません」

「いえ、気にしないでください」


 ふと見ると、カロルの顔色がまっさおだ。

 あ、そうか、ちっ。

 カロルに乱暴したクソオヤジめ、死んでなかったらぶっ殺してる所だ。


「カロルはここでポーションを売ってて、私だけで行く」

「いく」

「でもさ」


 カロルは立ち上がった。


「大丈夫? 無理しないで」

「……、行くわ。私が行かないと、傷は治っても死んでしまうから」

「……」


 私はうなずいた。


「じゃあ、一緒に行こう、一緒に被害者を助けよう」

「うん」


 カロルの足が細かく震えていた。


「マコトっち……」


 私はロイドちゃんに向けて首を横に振った。

 彼は小さくうなずいた。

 ロイドちゃんの横の日の光の当たっている所にほこりがふわふわと舞っているのが見えた。


 二人で手を取り合って歩く。

 私の肘を握るカロルの手の圧力が痛いぐらいだ。


 地下に続く小部屋に行く。


「先に行きます」


 アンヌさんが現れて、階段を降りていく。

 地階は黒々と闇をたたえて静まりかえっている。


 カロルの気持ちを思うと、急にお腹の奥から真っ赤に燃える怒りの塊がわいて来た。


『ライトッ!!!』


 真っ暗な階段の下へ光球を打ち込んだ。


 ちくしょうちくしょうちくしょうっ!!!


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― 新着の感想 ―
[一言] カウンセリング、という技術体系が無いなら確かに経験者は一番カウンセラーに相応しいけど、ねぇ カロルもまた聖女と呼ばれるに相応しい献身だ まあ色んな意味でマコトが居るからなんだろうけど
[一言] カロルを幸せにしてあげてください。
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