第301話 スラムの麻薬拠点に向けて出発する
魔法塔の下から上までサーチして、計算嬢含めて七人の中毒患者を見つけた。
全員『キュアオール』で完治させた。
結構時間が掛かったよ。
後処理は保安局の人に任せて私とエルマーは学園に戻る事にした。
「けっこう……、いた……」
「これは、王宮の組織にも患者がいそうだね。しかもコカインの方もいそう」
「意外に……、蔓延……」
「みんな麻薬の知識が無いから、錬金薬の一種と思って使っちゃうんだろうね。錬金由来の物は魔力が尽きると効果が綺麗にほどけるけど、化学由来の物は脳に損傷がでるから」
「マコトは……、詳しい……」
まあ、前世の知識なんだけどね。
化学麻薬を知らない、この世界の人間には麻薬売り放題の中毒はめ放題だなあ。
このままではいかんなあ。
馬車は素早く走って学園についた。
ドアを開けて飛び降りるとちょうどホームルーム終業の鐘がなった。
「マコトさま、こんにちは、あなたのリンダでございます」
「あ、はい。こんにちは」
馬車溜まりに、リンダさん以下神殿聖騎士団がずらりと並んでいた。
もう来てるのかよっ。
その反対側に、グレイの甲冑を着込んだ騎士たちが並んでいた。
王宮警護騎士団だね。
前世のおまわりさんみたいな役割の騎士団さんだね。
王都内をパトロールしてたり、重要施設の警護をしてるのをよく見る。
「僕は……、部活へ行く……、がんばって……、マコト……」
「わかったよ、頑張るよ、エルマー。いってらっしゃい」
エルマーはふんわり微笑むと校舎の中に入っていった。
さて、警護騎士の偉い人に挨拶をするか。
ええと、あの髭の中年かな、一番前にいるし。
「お初にお目にかかります、聖心教司祭のマコト・キンボールと申します」
「ふんっ、尼さんにも、坊主騎士にも用はないわっ、お前たちは後ろで引っ込んでいろっ」
あ、やな感じの人だな。
「なんだと……」
あーあ、リンダさんが殺気をバリバリに出して前に出てきてしまった。
「それが、警備騎士団の聖女さまに対する態度なのか……」
「ふんっ、こんな小娘、聖女でもなんでもない、おおかた実績作りにロイド様のご親征に付いてくる寄生虫であろう」
あーあ、後ろの聖騎士団が一斉に殺気だっちゃったぞ。
それにあてられて警備騎士団も殺気を放ち、両者にらみ合いだ。
なんで、騎士ってみんな馬鹿なんだろうな。
「マコトっち、ちわ~、あれえ、どうしたの?」
ロイドちゃんが校舎から出てきて、ほがらかにこう言った。
うん、空気読めよな。
「ロイド王子! 進言いたします、治安維持活動に恋人にしたいと思う女児を連れて行くのは指揮が乱れると思われます。即刻この者に退去するようにご命令を」
「……、ギヨーム・ブトラン伯爵、それは冗談で言っているのか」
さっと、ロイドちゃんの声が冷えた。
こういう切り替えが出来るのが、さすが王族って感じよね。
「そ、それは……」
「取り消せ、マコト嬢は麻薬の感知と治療に必要な存在だ、神殿騎士団の方々も警護騎士団だけでは手薄になるからマコト嬢が好意で呼んでくれたものだ、見下す事は許さん」
ギヨームさんの額に汗が浮かんだ。
ロイドちゃんを舐めきっていたのだろう。
「と、取り消します。申し訳ありませんでした」
「僕は気楽に生きるのが好きだが、規律がなんたるか知らない訳ではない、勘違いするな」
「は、はっ!」
ロイドちゃんはこちらを見て、苦笑して肩をすくめた。
「皆の者っ!! これより王都を汚染する麻薬の拠点を強襲するっ!! 相手は小勢であるし、拠点の守りも薄い、だが、油断するなっ! スラムは王都ではないっ!! 凶悪な敵が潜む可能性もあるっ! 心して当たれっ!!」
「「「「「応っ!!」」」」
意外に格好いい所もあるな、ロイドちゃんは。
いつもはぽややんではあるが。
「神殿騎士に命令しますっ! 敵は善男善女を食い物にする法敵ですっ! 我々はバックアップで拠点を包囲し、猫の子一匹外に出さない事を心がけてください!」
「素晴らしい、マコトさま」
目をキラキラさせんなよ、リンダさん。
「よし、行こうか、マコトっち」
「その前に」
私は声を潜めた。
「魔法塔で中毒者が七人でてる。意外に根が深いよ」
「なにっ!」
「王宮にも居る、と、思う」
「王宮にもか」
「そう、元凶のグレイブを潰したから油断してた、麻薬のネットワークは広がってるかもしれない」
「まずいね」
「とにかく、この場に中毒患者がいないか調べる」
「やってくれ」
人差し指と親指の間にナノサイズの光の輪を作る。
添付属性として、覚醒剤を乗せ、水平方向へ一気に開く。
ピーーーンッ。
目をつぶった脳内に3Dの画像が浮かんでいく。
反応あり。
二人。
一人は警護騎士団、一人は聖騎士団。
聖騎士団にも?
私は聖騎士団に向かって歩き出した。
青年、年若い騎士だ。
今年入ったばかりかな。
「リンダ師、この人を拘束」
「レジス! 貴様、何をしたっ!!」
「覚醒剤の反応が出ました、神殿へ移送して事情を聞いてください」
「聖女さま、私は、私はーっ!」
レジスさんは泣き崩れた。
私はその頭に手の平を当てた。
『キュアオール』
「こちらへこいっ! 聖堂騎士の恥さらしめっ!!」
サイラスさんがレジスさんを連行して行った。
歩いて大神殿に向かうのだろう。
「はっ、神殿騎士団と威張っていてもその程度よ」
なんで余計な事を言うかな、ギヨーム団長は。
うかつな人だな。
私は警護騎士団の中に分け入った。
こちらも若い、にこやかなイケメンだな。
「あなた、麻薬をやってますね」
無言で若い騎士は剣を抜き、私に切りつけてきた。
ちっ、こっちは刺客系かっ!
パリーン!
無詠唱で張っていた障壁が砕け散り、彼の剣速が落ちた。
私は若い騎士の目の前にライトボールを出して、三倍の魔力で崩壊させた。
ビカッ!!
「ぐあああっ!! 目が、僕の目がああっ!!」
私はするりと彼の懐に入り込み体の中心部を蹴り上げた。
ドカッ!!
怪鳥のような悲鳴を上げて、若い騎士は転げ回った。
「あれが金的令嬢……、えげつねえっ」
誰だ、今言った奴っ!
くそう、警備騎士団にも、私の不名誉な二つ名が流れておるのかっ。
「確保! 確保せよっ!! 何という事だ、栄光ある警備騎士団に中毒患者がいたのかっ!!」
「ギヨーム団長、しかも、こいつ刺客です」
「な、なんというなんという……」
警護騎士が若い騎士を取り押さえた。
現地に着いてから、私か、ロイドちゃんを狙うかんじの刺客だろうね。
「こいつをグラーク塔へ……、は、駄目か、くそ、警備騎士団本部で尋問せよ」
「はっ、ロイド王子!! 連行しろっ!!」
若い騎士も連行されていく。
「あ、ちょっとまって」
私は若い騎士の頭に手を置き、キュアオールをかけた後、ヒールで目を治した。
正気に帰った彼は、童顔で人の良さそうな顔をしていた。
泣きそうな顔で私を見ていた。
「わ、わたしは……」
「尋問室でしゃべれっ!!」
どかっと同僚警護騎士の膝蹴りをくらった後、彼は連行されて行った。
気がつくとロイドちゃんが私を拝んでいた。
「マコトっちが居て良かったよ」
やめろい。
ギヨーム団長が視線を伏せて、申し訳なさそうな顔をしていた。
「な、なんとも、その、聖女さまをあなどっておりました。申し訳ありませんでした……」
「気にしない気にしない」
「あ、ありがとうございます」
カロルが校舎から出てきた。
バスケットのような物を持ってる。
試薬かなにかかな。
「マコト、午後の授業はどうしてたの?」
「エルマーとジョンおじさんと一緒に魔法塔に行って麻薬患者を探してたんだ。七人いたよ」
「そ、そんなに……」
「王宮にもいるね。聖騎士団と護衛騎士団からも一人ずつでた」
「怖いね……」
「うん、やばい、しらみつぶしにしないと。『塔』も偉い人に出て動けなくなってる」
「『塔』まで、早く供給元をつぶさないと」
「そういう事」
私たちは馬車に分乗して出発した。
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