第296話 縦横無尽に地下通路を活用する
図書館の地下にいた私だが、地上に上がるのが面倒くさいので、地下通路を通って女子寮の地下まで来たぜ。
寮側の出口に鍵が掛かっていたが、通路側からだとノッチをひねって外せるぜ。
ここの鍵、欲しいな。
エステル先輩とか持ってないかな?
ドアをくぐると洗濯室の横だ。
地下大浴場まですぐだぜ。
が、お風呂セットを取りに行かねばならぬ。
ちえ。
そんな事を思っていたら、ダルシーが現れた。
「お風呂用具は私が取って参ります。先にお風呂に入っていてください」
「そう? 悪いね。じゃ、鍵」
私はダルシーに205号室の鍵を渡した。
ダルシーは気が利くなあ。
脱衣所に入った。
意外にすいてる。
ロッカーに服を入れて、全裸になる。
鍵をかけて、手首につけて浴室に入る。
「あ、マコトさま」
「お先に入ってます~」
メリッサさんとマリリンさんのお洒落コンビがお風呂につかっていた。
いつも仲良しだなあ。
今日はお風呂に入っているご令嬢は数えるほどしかいなくてすいてる。
かけ湯をしてしずしずとお湯に入る。
「くはぁっ」
「うふふ、おじさまくさいですわ、マコトさま」
「うふふふ」
ほっといてくれい。
ああ、良いお湯だなあ。
お風呂は命の洗濯だよ。
湿気と石鹸の匂い、女の子のおしゃべりが反響して浴室はワアアンと音がする。
はあ、のんびりのんびり。
のんびりしていたらダルシーが入ってきた。
さて、洗って貰おうかな。
お風呂椅子に座ってダルシーに体をすみずみまで洗って貰う。
こしょばくてなかなか慣れないね。
体が終わったら次は髪をシャンプー、リンス。
あー、ダルシーの細い指が心地よい。
うっとり。
洗った髪にバスタオルを巻いてもらって、また浴槽へ。
はあ、暖まるなあ。
明日は麻薬拠点を潰す。
土曜は大神殿に顔を出して。
で、日曜日はダンジョンアタックだね。
わりと忙しいな。
校内の麻薬患者捜しは来週にしようかな。
なんとか、来週の早い内に飛空艇が動いて、マーラー領からドレスと礼服を空輸できれば良いんだけど。
こればっかりは見てみないと解らないなあ。
マリリンが鼻歌でワルツを歌っていた。
上手いなあ。
「楽しみね、新入生歓迎ダンスパーティ」
「はい、私はこんななので、どうせ誰もパートナーになって貰えないだろう、壁の花になって寂しく過ごすんだろうなあと思っていましたの」
「そんな事はありませんでしたわね、素敵なドレスと、カーターさまと」
「まあ、やめてくださいませ、メリッサさま、酷い人ね」
そういって、マリリンとメリッサさんはキャッキャと笑った。
そうだねえ、派閥のみんなと初めて行う行事だから、成功させたいね。
なんとかなあ、カロルも楽しませて上げたいけど。
あ、そうかっ、うんうん。
私も礼服を作ろう。
格好いい奴。
背中に光魔法で聖心教のシンボルが浮かんでもいいな。
いや、キンボール家の紋章か。
ヒルダさんに言って、飛空艇が使えて、ギリギリの線だね。
「マコトさまがまた何か思いつきましたわ」
「またたびをかいだ猫みたいな顔ではないから、嫌らしい事ではないわね」
な、なんだよ君ら、領袖にむけて不敬だぞ。
あったまったので湯船を出て、脱衣所へ。
過保護なメイドのダルシーさんが、私の体をバスタオルでコシコシと拭いてくれる。
私はドロワースいっちょで籐椅子に座りダルシーにドライヤーで髪を乾かしてもらった。
あー快適快適。
「マ、マコトさま、きょ、今日は簡易ドライヤーをお持ちですか?」
「こ、この前は買えなかったのですが、今日は実家からお金を貰ってまいりました」
二人の一年生が私の前でペコペコ頭を下げた。
私は収納袋から簡易ドライヤーを二枚出して彼女らに渡した。
「「きゃあああっ、念願の簡易ドライヤーですわっ」」
「お買い上げありがとうございます」
女の子たちは喜びの舞を踊りながら脱衣所を去っていった。
うんうん、新製品を買えると嬉しいよね。
私は洗濯した制服に着替えて脱衣所を後にした。
さっぱりした。
205号室に戻るとコリンナちゃんが勉強をしていた。
「おかえりー」
「毎日偉いね、コリンナちゃん」
「私は頭が悪いから、毎日に努力が大事なのよ」
「よせやい」
コリンナちゃんの頭が悪かったら、世界には馬鹿ばっかりだよ。
ハシゴを登ってベットに入る。
しまった、図書館まで行ったのに、また本を借りてくるのを忘れた。
……。
地下通路の鍵はまだ閉めてないな。
ちょっくら行ってくるか。
「どこ行くんだ-」
「図書館」
「行ってらっしゃい」
「行ってくる」
部屋の外に出て階段を地下まで降りる。
賑やかな洗濯室の横を通り過ぎ、地下に続く扉を開ける。
よし、自動ロックじゃないね。
階段を降りて地下通路にでる。
降りてすぐの所に制御パネルがあったので触ると通路の灯りがともった。
便利便利。
まっすぐ進んで、光魔力ロックを外して隔壁を開く。
さらに少し進んで、壁にある図書館までの通路のロックを外す。
――隠し枝道って、まだあるかもだね。
今度コリンナちゃんを誘って、見破りメガネで通路を見てもらおうか。
どこかに脇道があるかも。
そのままスタスタ歩いて図書館地下への扉をあける。
学者さんたちは、まだ本を囲んでわいわい議論をしていた。
「なんだ、マコト、どうした?」
「本を借りに女子寮から地下を歩いてきてみたんだよ」
「おお、それは便利だね。でも不用心ではないか?」
「途中二カ所、光魔力ロックの扉があるから大丈夫」
しかもあの扉たちは自動ロックだし。
「ああ、もうこんな時間か、早く帰らないとまたハンナに怒られてしまう」
「怒られたんですか、お養父様」
「昨日、うっかりと長居をしたら、とても怒られたよ、ははは」
まったく、学者さんはこれだからいかんね。
「マコトっち、何を借りにきたんだい?」
ルカっちがソファから身を起こして聞いて来た。
「ガドラガ大迷宮のガイドブック、上はまだ開いてるかな?」
「ヤツキノくんは帰っただろうね」
ヤツキノというのが、あのぶっきらぼうな女の子の名前のようだ。
ルカっちは本棚の間をふらふら動きながら二冊の本を出してきた。
「ガドラガ大迷宮探検記、二百年ぐらい前の本だけど、そんなに中は変わってないから。あと、ガドラガ大迷宮に住むモンスター、百年前の名著」
「貸し出しは?」
「まだ登録されてない本だから、読み終わったら僕にわたして、書棚に戻しておくよ」
「ありがとう、ルカっち」
「明日にでも上で最新版を借りなよ」
そう言うとルカっちはソファーに寝転んで本を読み始めた。
男子寮に帰らなくていいのか、君は。
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