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第292話 スラムに入るのも大変なのだ

 学園からスラム街に面した東門までポコポコ歩いて来た。

 が、ロイドちゃんが門番さんに止められた。


「ロロロロ、ロイド王子、困ります、スラムに行かれるなぞ、ここは通しませんぞっ」


 この前の人の良さそうな中年門番さんが、我々の前に立ち塞がったのである。


「え、門番さんが、王族に立ち塞がるの?」

「たたた、立ち塞がらせていただきますともっ! 王族は王都に住む全ての民が愛する宝、その財宝をなぜにスラムのような危ない場所に放逐できましょうや、私は一介の門番ですが、どんな罰を受けようとも立ち塞がりますぞーっ!!」


 と、人の良さそうな中年の門番さんは涙を流しながらロイドちゃんの前で立ち塞がるのだ。


「じゃあ、しゃーない、通るのは私だけね」


 門番のおじさんに冒険者カードを見せる。


「聖女さんは通ってかまいませんよ。お気を付けて」

「なんで、マコトっちは良いんだよ、不公平だっ」

「聖女さまは、スラムでも大人気であられますし、慣れておられますっ、ですが、ロイド王子は初心者っ、護衛も一人だけっ、悪者に何かされたらどうしますかっ! それであったら、私一人が罰を受ける方が世のため人の為でありましょうっ」


 なんだなあ、意地悪じゃなくて、ロイドちゃんを心配しての行動だから困るね。

 忠臣案件でご褒美が出るパターンである。


 ロイドちゃんとリックさんがしかめっ面をしていると、その向こうにダルシーとリンダさんと神殿騎士の一群がやってきた。


「マコトさま~~! 応援要請を聞きました」

「明日だ、帰れっ!」

「えー、そんなあ」


 目に見えてリンダさんがしょんぼりした。


「そうだ、リンダさん、ロイド王子の護衛に入ってくれるなら付いて来てもいいですよ」

「えーー」


 リンダさんは嫌そうにロイドちゃんを見た。

 あなたはどれだけ不敬ですか。


「リンダさんが護衛に入ればいいでしょ、おじさん」

「教会のリンダ師ですか、たしかにそれならば……」


 リックさんが不満だ、という顔をする。

 まあ、リックさんも強いからね。


「わ、私たちは? 聖女様!」

「聖騎士団は帰ってください、スラムに行くのは隠密行動なので、そんなにぞろぞろ連れていけません」

「わ、わかりました、お気を付けて」

「聖女さまに何かあったらすぐ駆けつけますっ」

「あなた様こそが我々の希望であり、勇気なのです」


 神殿騎士の愛が重い、すごく重い。


「リンダ師が居るなら許可はいたしますが、なにとぞなにとぞご注意くださいませ、ロイドさま」

「わかったわかった、そちの王家への忠誠嬉しく思う、これを下賜する」


 そう言ってロイドちゃんは王家の紋章入りのハンカチを門番さんに渡した。


「そんな、あたりまえの事をしただけの事です。なんとも勿体ないお言葉」


 うれし涙を流しながら門番さんはロイドちゃんからハンカチを受け取った。

 門番さんの王家愛も神殿騎士と変わらないな。

 ロイドちゃんと視線があって、私たちは苦笑いを交わした。


 はあ、やっと東門通過だよ。


「ヒルダさんはスラムに行った事はあるの?」

「スラムには各国の諜報員が潜みますから、時々来ます。もちろんこんな格好ではありませんが」

「変装して行くんだ、それはそうよね」


 貴族ぜんとした格好だと絡まれるからね。


「臭いのだが」

「臭いっすね」


 王子主従が文句を言う。

 スラムに一歩踏み込んだ瞬間に異臭がして臭い。

 辺りはぼろぼろのあばら屋で、居る住民も汚くて目つきが悪い。

 着てるものもボロだね。


 酷い場所だが、生きてる人間はいる。

 物資と金が無いので仕方が無いのだ。

 乙女ゲームとはいえ、中世の世界はヤバーンなのだ。


「おうおう、綺麗な服をきやがって……、へ?」


 何時も絡んでくる若い奴がロイドちゃんの顔を見て固まった。


「おまえはなんかの番人なのかよ」

「あ、聖女の姐さん、こんちゃす、時々馬鹿な貴族や市民が怖い物見たさにスラムにきやすんで、脅かしておっぱらうようにオヤジに言われてるんでさあ」

「あ、やっぱりそうなのね」

「スラムの奥の方で人死にが出ると警備騎士団がきやすからねえ。しかし……。いえ、姐さんのお連れなら、まあ、かまいませんや。あ、マーラー家のお嬢さんもいらっしゃいやし」

「わたしの顔を知られてるとは思わなかったわ」

「お嬢さんはいつも変装がお上手ですやんすが、まあ、本職の貧乏娘にしては、ちょいちょい違和感がでやすからね」


 ヒルダさんも捕捉済かあ。

 オヤジの手下は意外に優秀だな。


「オヤジに話を通しにきたんだよ、どこに居るかな?」

「今日は赤狒々亭でやんす、ご案内いたしやすよ」


 三下くんは、私たちの前をひょいひょいと歩いて先導してくれた。


「ばれていたとは、悔しいわ」

「スラムは特殊な場所だからね」


 ロイドちゃんは歩きながらスラムを見回した。


「なんとも、酷い場所だな、気が滅入るよ」

「王都の外に勝手に住み着いてる奴らですからなあ。どうする事もできませんな」

「教会は炊き出しとかやってるんだろう?」

「女神さまを信仰している者は我々の兄弟なのです」


 リンダさんが重々しく答えた。

 国家と教会では保護する民の範囲が違うのだな。

 国家は税金をはらって壁の中にいる市民に責任がある。

 教会は信仰がある民を分け隔て無く、ちょっと救う。

 お金の問題があるので、全ての民を救うような組織は無いのであるよ。


 目の前に、汚いあばら屋があった。

 明日にでも崩壊しそうだなあ。


「ここが赤狒々亭でやす」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 流石はリンダさん、頼もしいですね! 確かに、ヒルダさんは何か華麗な雰囲気が出るぽいだから貧民のフリをするのは違和感が出るかも? そしてあの諜報超得意のヒルダさんを見破れるとは、もしかしたら…
[一言] お店の名前は「あかひひてい」でしょうか?
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